今月のことばNo.37

2017年10月18日

朝鮮戦争の休戦協定を忘れて、第二次朝鮮戦争を準備してはならない

武者小路公秀

 米国と朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国、北朝鮮)との間では、いわゆる「弱者の恐喝」関係が成り立っている。つまり米国は、朝鮮を核攻撃すると、日韓など周辺国を巻き込むので、核は使いづらい。しかし、朝鮮は米国本土を攻撃できる能力を持てば、その能力を振り回すことができる。朝鮮は小さいゆえに、世界の強大国・米国の核戦略の手を縛っている。トランプにはこれが我慢ならない…。
 いま日本では、朝鮮に対する国連安保理の制裁決議を強化する言説ばかりが横行しているが、本当にこれでいいのだろうか。日本列島を沈没させる核の傘を前提にする安保関連法を支持し、憲法改悪の危険な政策を現実主義的だとする考え方は、本当に正しいのか。 私はここで重要なのは、日本を犠牲にすることも辞さないトランプの戦争に日本市民が引きずり込まれないようにすることだと思う。それが「犬の遠吠え」であるかどうかは別として、トランプの「遠吠え」に、日本が同調するのはもっとも危険な行為である。
 かつて朝鮮戦争は、朝鮮の金日成主席によって開始された。しかし、ソ連が中国問題で国連をボイコットしたおかげで、安保理は国連軍の派遣を決め、国連軍は米国の指揮官マッカーサーの下で組織された。当初苦戦した国連軍も優位に立ち中朝国境近くまで押し戻すと、マッカーサーは、核攻撃で一気に戦争を終らせようとした。しかし、トルーマン大統領は、核戦争が人類の滅亡を招くことを正しく恐れて、彼を解任。中国の参戦による膠着状況の中で、休戦協定が結ばれた。スイス、スエーデン、チェコスロヴァキア、ポーランドによる休戦監視委員会ができ、現在も停戦ラインと非武装地帯による休戦状態が続き、スイスとスウェーデンが監視を続けている。
 一方、国連では、米国の核戦略を国際条約にしたてあげた。つまり、米ソ両核超大国の核均衡を安定させるため、核保有国間の核兵器保持は認め、しかし非保有国が核保有国になることは認めない「核拡散防止条約」による不平等な核兵器の管理体制を作り上げた。
 ところが現状は、イスラエルのほか、インド、パキスタンが核実験に成功、朝鮮もこれに続いたことで、この核不拡散体制は崩れ始めた。逆に、この不平等条約に代わって、核兵器全面禁止条約が生まれ、核廃絶への動きが始まっている。
 しかし、今回の安保理制裁は、核拡散防止条約から脱退した朝鮮に、条約が定義する「核非保有国」としての義務を要求するもので、考えてみればおかしなことである。
 つまりこれは、朝鮮戦争休戦中の一方の当事者である国連が、その相手である朝鮮に対して行っている外交攻勢であるとの解釈が十分可能であり、休戦協定の当事者である国連は、責任を持って休戦を維持し、平和条約に進む道筋を探るべきなのである。
 まして「斬首作戦」など、正に休戦協定違反であり、これを含む米韓軍事演習も、国際法的には非合法な「軍事活動」である。朝鮮の核と飛翔体の実験も、朝鮮側は「実戦には使えない実験で軍事演習とは違う」というが、それでも休戦協定下で、合法とは言えない。
 このように、朝鮮戦争の歴史から見れば、米国との直接交渉を求めている朝鮮側の要求は、休戦中にある朝米間の講和への動きであり、正当な要求である。朝鮮は、かつて米ソ間で行われたように、相互が確実に相手を破壊できる状態の下での交渉を求めているが、「アメリカ・ファースト」の強大国・米国のトランプには、ソ連となら対等の交渉をしたいけれども、朝鮮との対等な交渉など我慢ならない。それが、いまの危機の実態だ。
 第2次朝鮮戦争が起きれば、日本は確実に被害を受ける。ここは、戦争を避けるため、米国を諫め、これ以上、緊張が高まることがないよう、努力すべきである。