今月のことばNo.36

2017年9月8日

平和を目指す宗教団体の国際連携について

島薗 進

 「比叡山宗教サミット」という集いについて耳にしたことがありますか。1987年以来、毎年「世界宗教者平和の祈りの集い」が開かれ、10年に一度は平和に向けたメッセージを発しています。「比叡山」が主たる祈りの場であり天台宗が大きな役割を果たしていますが、主催者は「日本宗教代表者会議」というもので、その主体は日本宗教連盟に加盟する5つの協賛団体、すなわち、教派神道連合会、全日本仏教会、日本キリスト教連合会、神社本庁、新日本宗教団体連合会です。
 30周年を記念する集いが2017年8月3、4日に開かれました。今回のテーマは「今こそ平和のために協調を――分裂と憎悪を乗り越えて」というものです。キリスト教、イスラーム、ユダヤ教、神道、仏教、ヒンドゥー教など20カ国から約2000人の宗教者が参加し、講演やシンポジウムや分科会も行われ、4回目の「比叡山メッセージ2017」が採択されました。現在、天台宗のホームページで日本語版と英語版を見ることができます。http://www.tendai.or.jp/summit/index.html
 その内容を見ると、まず宗教の名によるテロに強く反対しています。「いかなる理由があろうとも、尊いいのちを軽んずる暴力を認めることはできない」とあります。しかし、同時にテロの背後にあるものにも注意を促しています。世界の多くの地域で戦闘や空爆が続き、多くの住民が犠牲になり、また難民生活を余儀なくされていることにふれ、「地球社会には、テロや国家暴力を抑えきれないことへの絶望も広がっている」と述べています。
 「メッセージ」はまた核兵器の廃絶を強く訴え、「我々は核廃棄物を残す核エネルギーの利用に未来がないことを強く訴える」と脱原発をも求めています。なお、分科会「核廃絶と原子力問題を考える」では、本年7月7日に国連で採択された核兵器禁止条約の意義が大きいことが強調され、日本が早期に加わることを求める意見が打ち出されていました。
 「メッセージ」は「いのちの尊さが脅かされている背景には、現代の政治・経済体制の問題があることを認識しなければならない」として、戦闘が行われていない社会の暴力性にも注意を促し、国際的・国内的な格差問題にも重きを置いています。さらに、「平和を考えるとき一番重要なのは、他者の存在を受け容れ、弱者に対する配慮を欠かさないことである」とも述べています。
 比叡山での祈りや集い、そして「比叡山メッセージ2017」の、上にのべてきたような内容が、実効性ある行動と十分にむすびついていないという批判は残念ながら否定できないものでしょう。しかし、カタツムリのような歩みに見えるかもしれませんが前進はあります。世界の平和のために世界の諸宗教が協力するという潮流は広がりと深みを増しつつあります。国際社会ではカトリック教会が平和のための宗教協力を強く打ち出し、イスラームやユダヤ教からも違いを超えて平和のために働くことを求める声はあります。宗教勢力の平和への方向づけが暴力や暴力的抑圧に抗う実効的な力となるよう、見守っていきたいものです。