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2025 163J 新たな国際秩序の方向性を見定めるべきとき
2025年2月17日
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 髙村薫 島薗進 酒井啓子
大国が世界の平和と国際協調を掘り崩す動きが進んでいる。それにも拘わらず国連の安全保障理事会は、大国の拒否権によって平和のための決議が妨げられたままで、大国の国際法違反を抑えることができないでいる。これは国連自体の危機であり、人類社会の危機とも呼ぶべき状況である。そのなかで、米国のトランプ大統領の再登場によって、さらに困難を深める事態を招きかねないことを深く憂慮する。
トランプ大統領は、早くもその就任演説で「米国第一主義」を旗印に掲げ、いくつもの露骨な米国本意の政策を打ち出した。大国のエゴイズム丸出しである。それらは、諸外国に高い輸入関税をかけることを脅迫材料に使って国内産業を保護し、パリ協定から離脱して化石燃料の利用を促進し、WHO(世界保健機関)からの撤退や米国国際開発局(USAID)の閉鎖などである。加えて、グリーンランドの領有やパナマ運河の国有化、そしてガザの住民を追い出して米国の所有地とする、メキシコ湾をアメリカ湾と呼ぶことにするなど、国際秩序を全く無視する傍若無人の構想を進めており、世界の顰蹙を買っている。
国連を軽視し国際的な協調を乱し、大国のエゴイズムをむき出しにする米国大統領のこうした姿勢は、世界の平和をこれまで以上に危うくするものである。これまで米国との友好関係を重視して来た世界の諸国は、それを維持することに困難を感じ、異なる国際政治の方向性を探り始めている。
米国は元来数多くの移民を受け入れ、移民たちとの協力によって大きく発展した国である。そのことを忘れ、「不法」入国者を重罪犯扱いで強制送還に乗り出し、周辺国に高い輸入関税をかけるという脅迫によって厳重な取り締まりを要求している。ガザ侵攻に批判的な考えを示した留学生を国外退去させる政策は、思想・信条・良心の自由といった米国の民主主義の根幹にある価値観を脅かすものである。
日本は国連重視という立場も堅持してきた。ガザ侵攻の停戦を求める国連総会の決議は、米国などごく少数の国々を除く大多数が支持したが、日本もこれに賛成した。平和憲法を尊んできた日本も、自らの外交の基軸となる理念が何であるかを明示し、米国を重視することに重きを置いてきた姿勢をあらためて見直すべきことは当然である。国連重視は堅持しつつ多元的な国際関係を重視し、大きな変化が求められていることを認めていくべき時である。
PDFアピール文→ 163j.pdf
アピール「日本学術会議の政府への従属を招いてはならない」を発表
2024 162J 日本学術会議の政府への従属を招いてはならない
2024年12月26日
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 髙村薫 島薗進 酒井啓子
私たち世界平和アピール七人委員会は、2020年10月、当時の菅義偉首相による日本学術会議会員候補者6人の任命拒否が明らかになった1週間後に、これを許容できないとするアピールを発表した。政府は任命拒否を今日まで撤回せず、拒否の理由も説明しないままであり、私たちはこの任命拒否を、今も認めることはできない。
その一方で、政府と自由民主党は任命拒否問題を学術会議改革の問題にすり替えて、内閣府に「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会」を設けて検討を進め、去る12月20日に「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会最終報告書」を公表するに至った。
この懇談会に対し、日本学術会議は会長名の文書「法人化をめぐる議論に対する日本学術会議の懸念」(2024年7月29日)を提出・説明し、続いてその理由を詳述するための「より良い役割発揮のためのナショナルアカデミーの設計コンセプトについて」(2024年10月31日)、および学術会議の自主性を根本から否定する会員選出方法の導入に反対を表明した「日本学術会議の会員選考に関する方針」(2024年11月26日)を日本学術会議幹事会で決定して提出・説明した。私たちはこれら3文書を全面的に支持する。ここには、学術会議が、世界のアカデミーに伍して、国内外で健全な活動をおこなうために不可欠な問題点が書かれているからである。しかし上記の懇談会最終報告書では、遺憾ながらこれらは無視されたままである。
私たちは、日本学術会議が4年以上にわたって行ってきた政府との真摯な話し合いの努力を支持してきた。現段階の政府の動きには、日本学術会議の息の根を止めようとする意図が読み取れる。私たちは、日本学術会議が政府の動きに安易に同調することなく、可能な限り速やかに総会を開催して、上記の3文書を再確認し、その内容を完全に実現すべく、粘り強く政府との対話を進めることを求める。さらに日本学術会議が、学協会、全国の研究者、国民に、問題点を丁寧にわかりやすく説明し、意見と支援を求めていくことを要望する。
PDFアピール文→ 162j2.pdf
新潟講演会のお知らせ
◆世界平和アピール七人委員会 新潟講演会
”核と原子力時代をどう生きるか 新潟で考える”
11月9日(土) 13:00~
新潟国際情報大学 新潟中央キャンパス9階(200席) *無料・申込不要
https://www.nuis.ac.jp/campus_chuo/
◆プレ企画
11月8日(金)午後 映画『Richland』鑑賞とトークショー
午後2時35分~ 作品上映 午後4時20分よりトークショー
注意:チラシに書いてないのですが、その前の映画「リッチランド」を観た人だけ
のための無料トークショーです。
https://theriver.jp/richland-jp-release/
映画の予約は、映画館シネ・ウインドのサイトで、
10月26日から先着順で予約可能です(座席数64)
https://cinewind.sboticket.net
日本被団協のノーベル平和賞受賞をお祝いします
世界平和アピール七人委員会は、下記のとおり日本被団協にノーベル平和賞受賞をお祝いするメールをお送りしました。
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晉一郎 高村薫 島薗進 酒井啓子
世界平和アピール七人委員会は、日本被団協が「核兵器のない世界の実現のために尽力し、核兵器は今後決して使われてはならないと証言を通じて示してきたことに対して」2024年のノーベル平和賞を受賞されたことに、心からのお祝いをお送りいたします。
ノルウェー・ノーベル委員会は、これまでの日本被団協と被爆者の活動とともに、新しい世代が引き継いでいることも評価してくれています。
私たち世界平和アピール七人委員会は、日本被団協のこれまでのご努力に感謝し、皆様と後継者の今後のご活動に期待し、私たちも核兵器のない世界の速やかな実現のために一層努力していくことといたします。
アピール「『重要経済安保情報保護法』は民主主義を危うくする」を発表
2024 161J 「重要経済安保情報保護法」は民主主義を危うくする
2024年4月8日
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進 酒井啓子
衆議院において、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」(通常「重要経済安保情報保護法案」などと略記)が可決される見通しと報道されている。ところがこの法案について、国会での審議はごく限られたものであり、新聞やテレビニュース等での報道もほとんどなされていない。以下に述べるように、政府がどこまでも運用を拡大できる制度が、国民にあまり知られぬうちに成立してしまうとすれば、日本の民主主義の将来は危うい。
この法案は、2013年に制定された「特定秘密保護法」を引き継ぐものだ。一昨年5月に公布された「経済安全保障推進法」の柱に先端的な重要技術に関わる事項があり、その技術の秘密をどう守るかという、秘密保護という課題の大幅な拡大に対応して、政府が国会に提出したものである。
つまり、国家が「重要経済安保情報」を独占的に一元管理するため、技術開発を含む経済情報を秘密指定することを主目的とした法案である。そのため、国家の安全保障に関係があると指定した情報を扱う者に対し、もらす恐れがないかということも含めて厳しい身辺調査を行い、秘密情報を漏洩した場合には重罪に処すと規定している。そこで以下では、この法案を「経済安保秘密保護法」案と呼ぶことにする。
2013年の特定秘密保護法は、外交・防衛・テロ・スパイ活動という4つの分野の特定秘密に関する法律で、いわば政治的な安全保障のためであった。そして、この4分野からわかるように、その情報を扱うのは主として政府職員だから、法の対象者もほとんど公務員に限られていた。
ところが、この「経済安保秘密保護法」案では、技術情報に接し得る者が対象だから、政府職員だけでなく大学や企業の科学者・技術者・研究補助者なども法の対象者となる。さらに、技術情報を伝える教員・ジャーナリスト・科学館の学芸員らへと対象が拡大されるであろう。政府は、それらに該当する政府職員・大学人・民間人の活動歴・信用情報・精神疾患など、プライバシーに関わる情報まで調査することを法律で規定するとしている。
この身辺調査は英語で「セキュリティ・クリアランス」と呼ばれており、「適性評価」と訳されている。秘密情報に接触できる者を「適正」、できない者を「不適正」に分けるのである。この「適性評価」が、科学者・技術者の思想差別、研究の自由の抑圧につながることは明らかである。
さらに、身辺調査は当該の者だけでなく、秘密情報を知る可能性がある家族や同居人など広く関係者にも及ぶ可能性が大きい。というのは周囲の誰かが、大学や企業で技術開発をしたり、教育者やジャーナリストとして技術の解説をしたりして、最新の技術を使用することはありふれていて、その技術が「経済安保秘密保護法」案の秘密条項に指定されたら、直ちにこれらの者にも厳密な身辺調査がなされることになるからである。秘密保持のためとして、多くの国民に監視と選別の網をかけることにつながる恐れがある。
「適性評価」を受けるに際しては本人の「同意」が原則で、不利益扱いの禁止が定められているが、果たして調査を拒むことができるだろうか。国が課する調査には応じるのが普通で、調査を拒否すると「不適正」な者と見なされかねない。そして「不適正」のレッテルをはられると、優秀な技術者であっても技術情報とは関係しない部門に異動させられることになるだろう。このように「適性評価」に絡む差別が職場に持ち込まれ、働く人々が分断されることは必至であろう。差別され排除される人材が多数、生じることになる。
一方、「適正」と評価された者も新たに監視システムの下で生きざるをえなくなり、秘密漏洩罪が適用されると重罪に処せられる。現在の「経済安全保障推進法」の秘密漏洩罪では最高2年の刑だが、「経済安保秘密保護法」の下において重要経済安保情報をもらした者は、特定秘密保護法で政治犯として罰せられるのと同じ最高5年の拘禁刑となる。ところが、何が重要経済安保情報かは具体的に公表されない。「何を秘密にするかは秘密」であって、政府は恣意的な法の運用を行うことができると言わざるをえない。
現在、戦争ができる体制を下支えすべく、私たち個々人の自由と人々の権利を制限していく社会傾向が強まっている。衆議院内閣委員会が可決した「経済安保秘密保護法」案はさらにそれを大きく押し進め、安全保障の名の下に民主主義を危うくするものである。世界平和アピール七人委員会はこの案の廃案を求める。
PDFアピール文→ 161j.pdf
アピール「これでも原発推進を続けるのか」を発表
2024 160J これでも原発推進を続けるのか
2024年3月9日
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進 酒井啓子
福島第一原発事故から13年、節電による電力需要の減少と再生可能エネルギー、特に太陽光発電の大幅な普及により、原発再稼働が進まない現状でも、日本は冷暖房を使わない季節を中心に電気が余るようになった。朝日新聞(2024年2月10日)の集計では、23年度に出力制御(発電量と使用量のバランス調整のために発電を一時的に止めること)により捨てられた電力量は19・2億キロワット時と急増し、これは約45万世帯分の年間消費電力量に相当する。
出力制御は、日本では最初に火力発電を止め、次に太陽光・風力発電を止め、原子力と水力・地熱には手をつけない。そのため電力自由化で全国に誕生した新電力事業者は、出力制御の急増により、せっかく発電した電気が売れなくなっている。また電力会社による再生可能エネルギーの23年度の買取り価格は、化石燃料価格の上昇が影響して22年度の価格の4割に急減している。これらによって経営が圧迫され、事業の存続が危ぶまれる業者が出てきている。これは脱炭素の世界の潮流に逆行する事態である。なお、フランスでは原発も出力制御の対象となっているのだから、日本でも原発の出力調整を行い、再生可能エネルギー育成を強化すべきである。
このように電気が余る時代に、安価になった再エネの普及拡大を犠牲にしてまで高価な原発を優先する合理的な理由はどこにもないが、それ以上に日本の原発はとても推進を掲げられる状況にない。たとえば、未だに廃炉の見通しもたたない福島第一原発では、今年2月にも汚染水浄化装置から高濃度の放射性物質を含む水漏れが発生し、この期に及んで作業手順や安全対策を定めた「実施計画」違反が指摘されている。
また、日本原燃の六ケ所再処理工場は今年1月、27回目となる完成延期を発表し、計画継続の合理性はなく、原発を稼働させても使用済み燃料の行き場がない状況がいつまで続くのか、もはや誰にも分からなくなっている。核燃料サイクルはとうの昔に破綻しているのである。さらに核廃棄物の最終処分場に至っては、名乗りを上げている候補地はあるものの、現時点で知事が受け入れ反対を表明している以上、概要調査にもこぎつけられないだろう。
そしてこの国で、原発の稼働をもっとも非合理なものにしているのが東日本大震災をはじめ各地で続く地震である。今年元旦、震度7を記録した能登半島地震では、土地の烈しい崩落や隆起により、半島のいたるところで道路が寸断され、自衛隊も他府県の消防隊もすぐには救援に入れなかった(中日新聞2024年3月5日)。発生から8日目で、なおも24地区3千人超が孤立状態だったとされる。被害が大きかった珠洲市に原発を設置する計画はかろうじて地元住民の反対で実現しなかったが、僥倖だったと言わざるをえない。
今回の地震のとき停止中だった北陸電力志賀原発で、外部電源5系統のうち2系統が失われるに留まったのも偶然にすぎない。もし放射能漏れ事故が起きていたら、唯一の避難路である県道も通行できず、30キロ圏内に住む15万人の住民の多くが逃げられなかっただろう。また多くの家屋が倒壊していたために屋内退避も出来なかった人たちがいたのだから、放射性物質が拡散するなかで住民はまったく為すすべがなかったことになる。
これは、原子力災害時の住民保護の大前提があっけなく崩れたことを意味する。能登半島と同様に地震で孤立する恐れのある地域は、内閣府(防災担当)の調査(2014年1月22日発表)では中山間地を中心に全国で2万カ所に上る。もしもの場合に避難も退避もできない究極の悪夢を幻視させた能登半島の経験を、地震国に住むわれわれ全員が共有しなければならない。
それでも原発依存・推進を続けるというのであれば、再生可能エネルギーの開発・利用について諸外国との差はますます拡大し、解消できなくなるだろう。原発の再稼働、新増設や40年までだったはずのものを60年超まで運転するなどという政策は直ちに撤回すべきである。
PDFアピール文→ 160j.pdf