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2025 164J 「日本学術会議法案」の廃案を国会に求める!
2025年3月19日
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 髙村薫 島薗進 酒井啓子
政府は、現在の日本学術会議を廃止して政府機関ではない法人を立ち上げる「日本学術会議法案」を2025年3月7日に閣議決定して、国会に提出した。
これまでの日本学術会議は日本の科学者を代表するボトムアップの組織であり、独立して活動することが規定され、そのために科学者が会員を選考することが法的に明記されてきた。
ところが、2020年の菅義偉首相による会員候補者の任命拒否以来、日本学術会議内外からの多数の抗議にもかかわらず、政府は任命拒否を撤回もせず、拒否の理由の説明もないまま問題点をずらし、政府と自民党は政府の言いなりになる組織を求め続けてきた。
今回の法案では、科学者たちとその周辺の考えや、発足以来の75年を超える活動は完全に否定され、これまで日本学術会議法にあった「平和」、「独立して職務を行う」という言葉はどこにもない。財政的には「経費は国庫の負担とする」とされていたのが、「政府が必要と認める金額を補助することができる」と変更される。国立大学が法人化されてから、運営交付金が削減され続けて、肝心の教育・研究に深刻な支障が出ていることを見れば、学術会議側が必要不可欠な経費だとの結論を出しても、政府は補助金を削減することがありうると考えざるをえない。
法案では、役員は会長と3名以下の副会長と2名の監事だとされている。監事は会員外から首相が任命し、絶大な権限を持つ。会長・副会長には任期があるが、監事は、首相が続けさせるといえば、いつまででも続けることができる。これだけでも科学者を代表する組織とは言えない。会員選考も、新制度発足時からの新会員は、会長と首相が指定する2名が協議して決めていくので、学術会議の自主性は全く認められていない。学術会議の計画・活動は、首相が任命する委員からなり内閣府に置かれる日本学術会議評価委員会が評価し意見を述べることになる。学術会議内にも、会員でないメンバーからなる(会員)選定助言委員会や運営助言委員会が常設されて、会長が総会に活動計画や年度計画や予算などの議案を出すときには事前に「運営助言委員会の意見を聞かなければならない」などの権限を持つことになる。
さらに、法案には異様な「罰則」という章があり、「秘密を漏らした者は、拘禁刑又は罰金に処する」から始まって「罰金」、「過料」の対象がこと細かに規定されている。これまでの活動のどこを見ても、「拘禁刑」などの対象になる活動は存在していない。政府の厳重な監督の下、「学術会議」に何をさせようというのであろうか。
これらの規定は有識者懇談会の「最終報告」よりはるかに厳しく、政府機関でない法人に移行させるといいながら、政府が自ら監視し、活動を統制し管理する「日本学術会議」を設立し、政府の意向に完全に従属する団体に変質させようという意図が明白である。
改めて法案の最初を見ると、第1条に「目的」、第2条に「基本理念」が書かれている。そこには「我が国の科学者の代表機関」だと書かれている。しかし 第3条以下には最初の2条を否定する内容が次々に出てくる。法律としての一貫性がなく、目的と基本理念に沿った活動はできない欠陥法案であることは疑いない。
科学者の代表である科学アカデミーの条件を満たさず、法案自体の中に大きな多くの矛盾を含んでいる以上、この法案が通れば、日本には科学者の代表としてのアカデミーが存在しないことになる。
学術会議の発足以来これまで日本学術会議法によって、政府は諮問権を持ち、学術会議は独立した科学者の代表組織として勧告権をもつという対等な関係の下で、学術会議はすべての諮問に誠実に答申し、協力してきた。独立した活動が法的に保証された組織である以上、意見が合わないこともあったことは決して異常ではない。科学者自身による会員選考などを除けば、政府は学術会議の意向に従わなければならないという法律上の義務はないのだから、理由を明らかにすれば学術会議の意向と別の道を選ぶことはこれからもできる。
現行の日本学術会議法廃止の必要性は存在しない。政府がこの法案を撤回しないのであれば、国民の代表である国会が廃案にする以外ない。
PDFアピール文→ 164j.pdf
アピール「新たな国際秩序の方向性を見定めるべきとき」を発表
2025 163J 新たな国際秩序の方向性を見定めるべきとき
2025年2月17日
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 髙村薫 島薗進 酒井啓子
大国が世界の平和と国際協調を掘り崩す動きが進んでいる。それにも拘わらず国連の安全保障理事会は、大国の拒否権によって平和のための決議が妨げられたままで、大国の国際法違反を抑えることができないでいる。これは国連自体の危機であり、人類社会の危機とも呼ぶべき状況である。そのなかで、米国のトランプ大統領の再登場によって、さらに困難を深める事態を招きかねないことを深く憂慮する。
トランプ大統領は、早くもその就任演説で「米国第一主義」を旗印に掲げ、いくつもの露骨な米国本意の政策を打ち出した。大国のエゴイズム丸出しである。それらは、諸外国に高い輸入関税をかけることを脅迫材料に使って国内産業を保護し、パリ協定から離脱して化石燃料の利用を促進し、WHO(世界保健機関)からの撤退や米国国際開発局(USAID)の閉鎖などである。加えて、グリーンランドの領有やパナマ運河の国有化、そしてガザの住民を追い出して米国の所有地とする、メキシコ湾をアメリカ湾と呼ぶことにするなど、国際秩序を全く無視する傍若無人の構想を進めており、世界の顰蹙を買っている。
国連を軽視し国際的な協調を乱し、大国のエゴイズムをむき出しにする米国大統領のこうした姿勢は、世界の平和をこれまで以上に危うくするものである。これまで米国との友好関係を重視して来た世界の諸国は、それを維持することに困難を感じ、異なる国際政治の方向性を探り始めている。
米国は元来数多くの移民を受け入れ、移民たちとの協力によって大きく発展した国である。そのことを忘れ、「不法」入国者を重罪犯扱いで強制送還に乗り出し、周辺国に高い輸入関税をかけるという脅迫によって厳重な取り締まりを要求している。ガザ侵攻に批判的な考えを示した留学生を国外退去させる政策は、思想・信条・良心の自由といった米国の民主主義の根幹にある価値観を脅かすものである。
日本は国連重視という立場も堅持してきた。ガザ侵攻の停戦を求める国連総会の決議は、米国などごく少数の国々を除く大多数が支持したが、日本もこれに賛成した。平和憲法を尊んできた日本も、自らの外交の基軸となる理念が何であるかを明示し、米国を重視することに重きを置いてきた姿勢をあらためて見直すべきことは当然である。国連重視は堅持しつつ多元的な国際関係を重視し、大きな変化が求められていることを認めていくべき時である。
PDFアピール文→ 163j.pdf
アピール「日本学術会議の政府への従属を招いてはならない」を発表
2024 162J 日本学術会議の政府への従属を招いてはならない
2024年12月26日
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 髙村薫 島薗進 酒井啓子
私たち世界平和アピール七人委員会は、2020年10月、当時の菅義偉首相による日本学術会議会員候補者6人の任命拒否が明らかになった1週間後に、これを許容できないとするアピールを発表した。政府は任命拒否を今日まで撤回せず、拒否の理由も説明しないままであり、私たちはこの任命拒否を、今も認めることはできない。
その一方で、政府と自由民主党は任命拒否問題を学術会議改革の問題にすり替えて、内閣府に「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会」を設けて検討を進め、去る12月20日に「日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会最終報告書」を公表するに至った。
この懇談会に対し、日本学術会議は会長名の文書「法人化をめぐる議論に対する日本学術会議の懸念」(2024年7月29日)を提出・説明し、続いてその理由を詳述するための「より良い役割発揮のためのナショナルアカデミーの設計コンセプトについて」(2024年10月31日)、および学術会議の自主性を根本から否定する会員選出方法の導入に反対を表明した「日本学術会議の会員選考に関する方針」(2024年11月26日)を日本学術会議幹事会で決定して提出・説明した。私たちはこれら3文書を全面的に支持する。ここには、学術会議が、世界のアカデミーに伍して、国内外で健全な活動をおこなうために不可欠な問題点が書かれているからである。しかし上記の懇談会最終報告書では、遺憾ながらこれらは無視されたままである。
私たちは、日本学術会議が4年以上にわたって行ってきた政府との真摯な話し合いの努力を支持してきた。現段階の政府の動きには、日本学術会議の息の根を止めようとする意図が読み取れる。私たちは、日本学術会議が政府の動きに安易に同調することなく、可能な限り速やかに総会を開催して、上記の3文書を再確認し、その内容を完全に実現すべく、粘り強く政府との対話を進めることを求める。さらに日本学術会議が、学協会、全国の研究者、国民に、問題点を丁寧にわかりやすく説明し、意見と支援を求めていくことを要望する。
PDFアピール文→ 162j2.pdf
新潟講演会のお知らせ
◆世界平和アピール七人委員会 新潟講演会
”核と原子力時代をどう生きるか 新潟で考える”
11月9日(土) 13:00~
新潟国際情報大学 新潟中央キャンパス9階(200席) *無料・申込不要
https://www.nuis.ac.jp/campus_chuo/
◆プレ企画
11月8日(金)午後 映画『Richland』鑑賞とトークショー
午後2時35分~ 作品上映 午後4時20分よりトークショー
注意:チラシに書いてないのですが、その前の映画「リッチランド」を観た人だけ
のための無料トークショーです。
https://theriver.jp/richland-jp-release/
映画の予約は、映画館シネ・ウインドのサイトで、
10月26日から先着順で予約可能です(座席数64)
https://cinewind.sboticket.net
日本被団協のノーベル平和賞受賞をお祝いします
世界平和アピール七人委員会は、下記のとおり日本被団協にノーベル平和賞受賞をお祝いするメールをお送りしました。
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晉一郎 高村薫 島薗進 酒井啓子
世界平和アピール七人委員会は、日本被団協が「核兵器のない世界の実現のために尽力し、核兵器は今後決して使われてはならないと証言を通じて示してきたことに対して」2024年のノーベル平和賞を受賞されたことに、心からのお祝いをお送りいたします。
ノルウェー・ノーベル委員会は、これまでの日本被団協と被爆者の活動とともに、新しい世代が引き継いでいることも評価してくれています。
私たち世界平和アピール七人委員会は、日本被団協のこれまでのご努力に感謝し、皆様と後継者の今後のご活動に期待し、私たちも核兵器のない世界の速やかな実現のために一層努力していくことといたします。
アピール「『重要経済安保情報保護法』は民主主義を危うくする」を発表
2024 161J 「重要経済安保情報保護法」は民主主義を危うくする
2024年4月8日
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進 酒井啓子
衆議院において、「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」(通常「重要経済安保情報保護法案」などと略記)が可決される見通しと報道されている。ところがこの法案について、国会での審議はごく限られたものであり、新聞やテレビニュース等での報道もほとんどなされていない。以下に述べるように、政府がどこまでも運用を拡大できる制度が、国民にあまり知られぬうちに成立してしまうとすれば、日本の民主主義の将来は危うい。
この法案は、2013年に制定された「特定秘密保護法」を引き継ぐものだ。一昨年5月に公布された「経済安全保障推進法」の柱に先端的な重要技術に関わる事項があり、その技術の秘密をどう守るかという、秘密保護という課題の大幅な拡大に対応して、政府が国会に提出したものである。
つまり、国家が「重要経済安保情報」を独占的に一元管理するため、技術開発を含む経済情報を秘密指定することを主目的とした法案である。そのため、国家の安全保障に関係があると指定した情報を扱う者に対し、もらす恐れがないかということも含めて厳しい身辺調査を行い、秘密情報を漏洩した場合には重罪に処すと規定している。そこで以下では、この法案を「経済安保秘密保護法」案と呼ぶことにする。
2013年の特定秘密保護法は、外交・防衛・テロ・スパイ活動という4つの分野の特定秘密に関する法律で、いわば政治的な安全保障のためであった。そして、この4分野からわかるように、その情報を扱うのは主として政府職員だから、法の対象者もほとんど公務員に限られていた。
ところが、この「経済安保秘密保護法」案では、技術情報に接し得る者が対象だから、政府職員だけでなく大学や企業の科学者・技術者・研究補助者なども法の対象者となる。さらに、技術情報を伝える教員・ジャーナリスト・科学館の学芸員らへと対象が拡大されるであろう。政府は、それらに該当する政府職員・大学人・民間人の活動歴・信用情報・精神疾患など、プライバシーに関わる情報まで調査することを法律で規定するとしている。
この身辺調査は英語で「セキュリティ・クリアランス」と呼ばれており、「適性評価」と訳されている。秘密情報に接触できる者を「適正」、できない者を「不適正」に分けるのである。この「適性評価」が、科学者・技術者の思想差別、研究の自由の抑圧につながることは明らかである。
さらに、身辺調査は当該の者だけでなく、秘密情報を知る可能性がある家族や同居人など広く関係者にも及ぶ可能性が大きい。というのは周囲の誰かが、大学や企業で技術開発をしたり、教育者やジャーナリストとして技術の解説をしたりして、最新の技術を使用することはありふれていて、その技術が「経済安保秘密保護法」案の秘密条項に指定されたら、直ちにこれらの者にも厳密な身辺調査がなされることになるからである。秘密保持のためとして、多くの国民に監視と選別の網をかけることにつながる恐れがある。
「適性評価」を受けるに際しては本人の「同意」が原則で、不利益扱いの禁止が定められているが、果たして調査を拒むことができるだろうか。国が課する調査には応じるのが普通で、調査を拒否すると「不適正」な者と見なされかねない。そして「不適正」のレッテルをはられると、優秀な技術者であっても技術情報とは関係しない部門に異動させられることになるだろう。このように「適性評価」に絡む差別が職場に持ち込まれ、働く人々が分断されることは必至であろう。差別され排除される人材が多数、生じることになる。
一方、「適正」と評価された者も新たに監視システムの下で生きざるをえなくなり、秘密漏洩罪が適用されると重罪に処せられる。現在の「経済安全保障推進法」の秘密漏洩罪では最高2年の刑だが、「経済安保秘密保護法」の下において重要経済安保情報をもらした者は、特定秘密保護法で政治犯として罰せられるのと同じ最高5年の拘禁刑となる。ところが、何が重要経済安保情報かは具体的に公表されない。「何を秘密にするかは秘密」であって、政府は恣意的な法の運用を行うことができると言わざるをえない。
現在、戦争ができる体制を下支えすべく、私たち個々人の自由と人々の権利を制限していく社会傾向が強まっている。衆議院内閣委員会が可決した「経済安保秘密保護法」案はさらにそれを大きく押し進め、安全保障の名の下に民主主義を危うくするものである。世界平和アピール七人委員会はこの案の廃案を求める。
PDFアピール文→ 161j.pdf