2025年6月20日
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 髙村薫 島薗進 酒井啓子
2023年10月、ハマースによるイスラエルへの襲撃を契機として、イスラエルによるガザなどパレスチナに対する武力攻撃が激甚化して以降、パレスチナ・ガザでは深刻な人道的危機が続いている。国連の発表によれば、6月11日までに少なくとも5万5千人以上が死亡し、人口の半分が飢餓状態にある。9割の世帯が衛生的に安全な水にアクセスできず、7割の建築物が破壊された。英医学誌『ランセット』掲載論文が今年6月までのデータに基いて示した試算によれば、依然瓦礫の中に埋もれている遺体や関連死を含めた死者数は18万人以上であり、現在はさらに増えていることが推測される。
イスラエルの軍事攻撃に対しては、安全保障理事会では決議第2728号(2024年3月25日)、同決議第2735号(同年6月10日)で、また国連総会決議ではA/RES/ES-10/21(2023年10月27日)、A/ES-10/22(12月12日)、A/RES/ES-10/26(2024年12月11日)、A/ES-10/L.34/Rev.1(2025年6月13日)で停戦呼びかけが採択されているにも関わらず、イスラエルによる一時的休戦が2023年11月末と2025年1月からの2ケ月弱実現したことを除いて、履行されていない。この人道的危機に対して、2023年12月に南アフリカ(2025年にはアイルランドも参加)がイスラエルの行動をジェノサイドとして国際司法裁判所に提訴、また国際刑事裁判所は2024年5月、ハマース幹部とともにネタニヤフ・イスラエル首相を含むイスラエル政権幹部を戦争犯罪人として逮捕状を発出した。さらに、同年4月には国連人権理事会がイスラエルへの武器禁輸を求める決議を可決、9月の国連総会決議では国連加盟国に「パレスチナ占領地域におけるイスラエルの不法な駐留から生じる状況を合法と認めず、また駐留の継続によって生じた状況の維持に援助または支援を提供しない義務を負う」と定めている。
イスラエルの軍事行動は、ヨルダン川西岸や東エルサレムなど他のパレスチナ占領地にも及んでいる。ガザおよびヨルダン川西岸は、1967年以来イスラエルが占領下に置き、それを違法とする国連決議が多数採択されてきたにもかかわらず、57年間にわたり支配を受けてきた。ガザ危機と並行して、これらの地域でもパレスチナ人に対する暴力の激化が報じられている。
加えて2024年以降は、イラン、レバノン、シリア、イラク、イエメンなど周辺国にも攻撃が拡大し、中東全域の安定を揺るがす事態となっている。とりわけイランとの軍事的応酬は、2024年4月、7月、10月に短期間見られたが、2025年6月にはイスラエルが大規模な対イラン空爆を開始、両国の応酬により、双方に死者が出る他、中東全体、特にペルシア湾岸に被害の拡大が強く懸念されている。
こうした情勢に対して、日本政府は紛争開始以降、米、独などが反対ないし棄権する国連停戦決議に賛成票を投じたり、パレスチナの国連オブザーバー参加を認める国連総会決議(ES-10/23, 2024年5月10日)やイスラエルの西岸などパレスチナ占領の1年以内の終結を求める決議(A/ES-10/L.31、同年9月13日)にも賛成するなど、米国など親イスラエル姿勢を明確にしている国々と一線を画してきた。イスラエル・イランの交戦状態激化に対して、石破総理は2025年6月13日、イスラエルによるイラン軍事攻撃は「とうてい容認できるものではない」として、強く非難した。
一方で、2025年には西欧諸国の間でも、イスラエルに対して厳しい対応をとる国が出てきた。5月には英国が、イスラエルによる支援物資搬入阻止を問題視して対イスラエル貿易交渉を中断すると決定し、また6月には英国、カナダ、オーストラリアなど5か国が、イスラエルの極右政治家に対して、渡航禁止や資産凍結などの制裁措置をとるとしている。
日本は1973年の石油ショック以来、パレスチナの権利を認めイスラエルの占領を批判する姿勢を取ってきた。当時の二階堂官房長官が発出した談話(1973年11月22日)では、中東紛争解決のために守られるべき原則として、(1)武力による領土の獲得及び占領の許されざること。(2)1967年戦争の全占領地からのイスラエル兵力の撤退が行なわれること。(3)域内の全ての国の領土の保全と安全が尊重されねばならず,このための保障措置がとられるべきこと。(4)パレスチナ人の国連憲章に基づく正当な権利が承認され,尊重されること、とし「公正,かつ,永続的和平達成のために…我が国政府としても,もとよりできる限りの寄与を行なう所存である」と明言している。
こうした姿勢をもとに、1990年代には積極的に中東和平交渉に主導的な役割を果たし、1993年のオスロ合意以降はパレスチナ自治政府や現地社会への民生支援を増加させてきた。パレスチナ難民に対する国連救援組織であるUNRWAに対する資金拠出金額は、2023年段階で世界第6位であった。
また、今次イスラエルの攻撃標的となっているイランについても、70年代に石油産業開発で強い経済関係を確立した他、イラン革命で米国がイランと断交、反イラン政策を繰り広げてきたのに対して、日本は2000年に当時のハータミー大統領を招へい、大統領が衆議院で演説するなど、良好な関係を維持してきた。
今次のイスラエルの軍事攻撃のエスカレートに対して、欧米諸国や国際組織が手をこまねいているなか、日本はこうした対中東外交政策の蓄積を活かして、積極的に和平を求めて行くべきである。
そのため、日本政府に対して、以下をできる限り速やかに実施するよう求めたい。
- イスラエルに対して、ガザをはじめとする占領地全域、およびレバノン、イラン、シリア、イラク、イエメンなど、現在軍事作戦を展開している地域において、即座に軍事攻撃を停止し、恒久的な停戦に同意するよう、求めること。
- 1が実現しなかった場合、日本とイスラエルとの諸関係の見直しを行うこと。特に日本とイスラエルとの防衛(軍事)当局間の交流・協力を停止し、イスラエルからの武器調達や、軍事技術の共有、武器共同開発、軍事技術関連の共同研究の促進を行わないこと。さらに、イスラエルとの経済協力、外交関係を見直すこと。特に、経済連携協定を締結しないこと。
- イスラエルに対して、国際司法裁判所の勧告的意見および国連総会決議に従い、ガザ・ヨルダン川西岸・東エルサレムに対するイスラエルの占領を終結させ、入植地を撤去するよう、求めること。さらにこれらの占領地におけるイスラエルの行動を違法としたこれまでの国際法を遵守するよう、要求すること。
- 2024年5月10日付国連総会決議(A/ES-10/23)に従い、パレスチナの国家承認を行うこと。
- ガザに対する人道支援を即時に再開・拡大すること。その実施母体である国連関係機関・人員やNGOが攻撃・殺傷の対象となり、その活動が妨害されていることを糾弾すること。
PDFアピール文→ 166j.pdf