新型コロナウイルス

今月のことばNo.48

2020年4月20日

新型コロナウイルス感染者増加の状況 1(解説)

小沼通二

中国の武漢の保健機関が「原因不明の肺炎患者が発生した」と初めて発表したのは2019年12月8日だった。2020年1月16日になって日本でも初めての感染者が見つかった。それから3か月たって世界の新型コロナウイルス感染者累積数は200万人を超え、日本でも1万人になった。
厚生労働省が4月19日に発表した18日正午現在の数字を見ると、感染者は9795人、その内訳は、症状が現れた患者が6056人、無症状病原体保有者が660人、他に症状の有無を調査中の陽性確定者が3079人である。患者の内、死者は154人。すでに退院したものが1069人である。
国連の専門機関である世界保健機関WHOは1月21日以来毎日、新型コロナウイルス感染者数などのデータを各国・地域の政府機関からの報告に基づいてCoronavirus disease (COVID-19) Situation Reportsの形で発表している。
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports/

日本からは、厚生労働省が毎日正午段階で取りまとめて送ったデータが使われている。それをまとめたグラフが第1図である。縦軸は人数、横軸は1月21日以来の日数である。これらの数字には、1月29日から2月17日にかけての5回のチャーター便による帰国者は含んでいるが、2月4日に初めて感染者が見つかり、最終的に712人に感染が広がったダイアモンド・プリンセス号の乗客乗員は含まない。

第1図を見ると、3月に入って感染が広がり、4月に入って急に拡大して来たように見える。実際毎日のようにテレビや新聞で、感染者数の増加がこれまでの最大だったと報じられている。感染拡大の動向を見るには、縦軸を「対数目盛」に変更するのがよい。対数と対数目盛のことは最後に付録として付けておく。

第2図は、第1図の縦軸を対数目盛に変えただけである。かなりイメージが変わっただろう。

この第2図を見てすぐにわかることは、3月と4月には、ほぼ直線状に感染者数が増えて来て、直線がほとんど曲がっていないということである。100人から1000人になるまでがほぼ1か月、1000人から10000人になるまでも1か月だった。今からほぼ1か月後に10万人、2か月後に100万人という感染者数は、絶対に避けたい悪夢だが、政府の対策が失敗すれば起こりうる現実だとして、可能な限り対応策を考えておかなければならない。

現在世界で最も感染者数が多い米国とスペイン、それに最初に感染が発生した中国と日本の状況を第3図に示しておく。

註:中国政府は、4月1日から無症状者数を公表することにしたがWHOへの報告にはまだ含まれていない。米国のギザギザは報告を提出しなかった日があったため。

長くなったので、第2図と第3図については次回と次々回に解説する。私の意見は別に書く。

付録:「対数」、と「対数目盛」
ここで「対数」、」「対数目盛」を知らない人のために、急がずに考えれば誰にでもわかってもらえるような解説を入れる。
2を2回かけると4、3回かけると8、4回かければ16・・・と増加する。同様に、10を2回かければ100、3回かければ1000、4回かければ10000のように増えていく。2と10に限らない。小数でも分数でもよい。この掛ける回数が対数になっている。もう少し正確に言えば、2を基準にした場合64の対数は6、4を基準にすれば(3回かければ64になるのだから)64の対数は3だという。数学のことばでは、「2の6乗(じょう)は64だ、4の3乗は64だ」という。この関係を、64の6分の1乗は2、64の3分の1乗は4だということもできる。ここまでくれば64の2分の1乗が8であること、4の2分の3乗(2分の1乗の3乗)が8であることもわかってもらえるだろうか。
(負の数とゼロの対数はない。分数で書けない小数もあり、その対数もあるけれど、ここでは触れない。)
ここまでくれば、「対数目盛」を理解してもらえる準備ができたことになる。縦に線を書き、一番下に1の目盛り。ある長さのところに10と目盛りをつけよう。そしてこの長さを1とする。1の目盛りから2の長さのところに100の目盛り、3の長さのところに1000の目盛りをつけよう。そうするとこの線の1の目盛りから0.301の長さの近くに目盛り2があり、0.6021の近くに目盛り4、長さが0.9031の近くに8となっていて、長さ0.4771と0.9542の近くに3と9の目盛りがある。「近く」といったのは、厳密な位置でなく近似的な位置になっているためである。
それならば、1から0.7782(0.301+0.4771)、1.4771、2.4771の近くに6と30と300の目盛りがあること、どこでも0.301ほど離れた2点の目盛りは2倍と半分の関係になっていることをわかっていただけるだろうか。
対数目盛の1と10のあいだで、長さでいって中間に近い点の目盛りは5ではなく3であり、10と100の間では30である。
ここまでお付き合い下さってご苦労様でした。

今月のことばNo.47

2020年4月20日

新新型コロナウイルス感染拡大の行く末

池内 了

(執筆日:2020年3月15日)

ある人が、この1か月余りの期間における、新型コロナウイルス(以下、新型ウイルス)の感染者数の変化をグラフに描き、将来予測の近似式を作ったところ、重要な示唆が得たことを知らせてくれた。確かに、面白く重要な結果なので、ここに書いておきたい。まだ新型ウイルス感染の事態が収束していない段階での予測だから、安易に信用できないと思われるのはごもっともだが、私がここに書くことを一つの重要な警告として捉えていただきたいからだ。事後になってアレコレ言うのは誰でもできる。事前にそれまでのデータから未来を予測して注意を喚起することこそ、科学がなしうる重要な役割である。このような科学の予見があったことを記憶しておくためにも、ここに記録しておく価値はあると思っている。

飽本一裕帝京大名誉教授作成

そのグラフとは、ここに図示したように、横軸に2月14日からほぼ1ヵ月間の日付で、縦軸に新型ウイルスへの国別累積感染者数を「対数」で表示したものである(データは、WHO新型コロナ専用コーナーに示されている各国政府から毎日届く報告数)。中国は感染者数が非常に多くてこのグラフに図示できないので描いていないが、急速に増加してからピークを越し、今や減少しつつある。
通常のグラフでは、例えば縦軸の目盛りが1,2,3・・・とか、10.20.30・・・という風に一定の数で増える(これを実数という、横軸がそうである)のが普通だが、ここで採用されている「対数」目盛りは、10,100,1000・・・という風に10の倍数で増える表示となっている。非常に小さな数の部分を拡大し、大きな数の部分を縮小して示すことができるので、比較的短期間で小さな数から大きな数まで大きく数値が変化するような場合を表現するのに便利である。ネズミ算式・幾何(等比)級数的・指数関数的とさまざまな呼び方がある。
感染症で言えば、1人の患者が2人に感染させ、その2人がそれぞれ2人に感染させると計4人に感染させ、その4人が計8人に、8人が16人に・・・という具合に倍々ゲームで患者数が増えていく。この場合の累積感染者数のグラフを対数で示すと、右肩上がりの直線になって増加傾向がつかみやすくなる。むろん、直線の傾きが大きいほど累積感染者の増加率が大きく、傾きが小さいと増加割合が緩やかになっていることを意味して、感染状況を診断する上でも便利である。
このグラフから、いくつかのことが読み取れる。
(1)フランス・ドイツ・スペインは現在なお急増期で、いずれも20日間で10倍程度の増加率である。
(2)イタリア・イランは、最初10日間で10倍もあったが、少しずつ増加率は減っている。しかし、まだ大きな増加率は続いており、収束状態とは言えない。
(3)韓国も最初の増加は大きかったが、20日目頃から直線の傾きは小さくなっており、増加率ははっきり頭打ちとなっていて終息は近いと予測される(新規の感染者が出なくなると、縦軸は一定となる)。
(4)アメリカの増加率は階段状になっていて感染者数発表に政治的意図が感じられるが、トランプ大統領が最近になって検査の拡大方針を述べたこともあって、増加率が(1)のグループに近づきつつあり、今後ほぼ足並みを揃えるのではないか。
とまとめた上で、最も重要なことを述べねばならない。このグラフ上で日本だけが異常な変化を示していることである。他国に比べると、非常に早い段階で感染者数が多く出た後、大きな増加率ではない(右肩上がりはそう急ではない)が、しかし頭打ちというわけでもなく、そのままほぼ一定の増加率(ほぼ直線)を示してる。(1)~(4)の国々とは明らかに異なった特徴を示しているのである。
このような特徴は、日本においては、新型ウイルスに対するPCR検査に厳しい条件を付けて検査数を1日に1,000件程度に抑えていることから理解できる。単純に言えば、新規の感染者数を人為的に抑えているためで、おそらく日本では感染はしているのだが感染者として認知されていない人(隠れ感染者)が多数いるということである。隠れ感染者が知らず知らずのうちに周囲の人間に感染させるから、ウイルスの蔓延状態はずっと継続して感染者が減ることはない。その結果として、今後新型ウイルス原因とは証明できない肺炎の死亡者が増えるのではないか。日本は保健治療が完備しているだけに、死亡率は小さいだろうが、感染者数が増えれば肺炎による死亡の絶対数は増えることになる。その統計を注視したい。
もう1つの心配は、隠れ感染者が多いだけに、収束する気配はないまま感染者の増加は続き、他国が終息に向かっても日本だけ感染拡大が続くという事態が想像されることだ。韓国はいち早くPCR検査を拡大し、陽性者に対して隔離などの手を打ってきたために、総感染者数は多いが隠れ感染者は少なく、今や感染率が減少しつつある。日本は、どれくらい感染しているか正確につかめないため、いつまでも新規感染者の発生が長く続く可能性がある。実際、日本の累積感染者数の近似式をそのまま1か月先まで延長すると約3万人、2ヵ月先だと60万人を越える(倍々ゲームだから一気に増える)と、恐ろしいまでの感染者数になると予想される。むろん、そのままずっと手を拱いているわけでないだろうから、この近似式がそのまま妥当すると言えないことは確かで、この数に固執する気はないが・・・。
安倍内閣の差し金なのか、オリンピック開催のために感染者数を抑制しようとPCR検査に厳しい条件を課していると言われるが、むしろこの措置は逆で、このままではオリンピックが開けない状態を自ら招いていると言っても過言ではない。
安倍内閣の差し金でなく、感染症研究所の権益独占のためとの噂も聞こえてくるが、そうであれば安倍首相は即座にこれを改めさせ、PCR検査の拡充と感染者の隔離治療のための体制の整備を急がねばならない。それをサボり続けるなら、やはりオリンピック対策だと考えざるを得ない。
各国の累積感染者数のグラフを見れば、数か月の間で感染拡大が終焉するとはだれも思わないだろう。だから、今夏のオリンピック開催は不可能であることは明らかである。姑息な感染者抑制を中止すべきで、PCR検査と感染診療の体制を早急に整備して隠れ感染者を減らし、真正面から新型ウイルス退治に乗り出さなければならない。お隣の韓国の措置を見習うことを強く勧めたい。

今月のことばNo.45

2020年4月16日

新型ウイルスの統計が語ること

池内 了

世界中で新型コロナウイルスの感染者の増加が止まらず、日本でも大都市を中心として感染者が急増しており、いよいよ緊急事態宣言発令がせまってきた。
知り合いの飽本一裕氏(帝京大学名誉教授)から新型ウイルスの感染者数や致死率など
のグラフを定期的に頂いている。そのグラフの一つは、横軸に一月二〇日からの日付、縦軸に「対数」で新型ウイルスへの累積感染者数(感染した患者の総数)を表示したものである。「対数」表示とは、一目盛りごとに1、10,100・・・という風に10の倍数で増える表示で、小さな数から大きな数までを一枚で表示できる。このグラフで右肩上がりの直線で表示される場合が指数関数的増加と(ネズミ算式・幾何級数的とも)呼ばれる。
累積感染者数のグラフを見ると、感染爆発が起こったヨーロッパ諸国はようやく落ち着き始めているが、アメリカは依然として右肩上がりの直線の傾きが大きく(約五日で一〇倍)、これに対し中国や韓国では一定(横軸と平行)となっていて感染抑制に成功していることがわかる。
特異な変化を示しているのが日本で、感染者数が欧米諸国より一~二桁少なく、右肩上がりの直線が続いていて指数関数的増加なのだが、その傾きは有意に小さい(約三〇日で一〇倍)ことである。しかし、オリンピックの延期が決定された三月二四日前後から直線の傾きが大きくなり始めており、特に東京の増加は急速で感染爆発が近づきつつあることを予感させる。
日本の感染者数が少ないのは、手洗いなど日常の衛生レベルが高く、専門家会議が採用しているクラスター潰しが功を奏しているとともに、PCR検査数を低く抑えてきたことで理解できる。二三日まで検査を一日に一五〇〇件程度に抑えていたのが、二四日から二〇〇〇件、四月に入って三〇〇〇件へと増やしているが、長く非常に少なかったことだ。その結果として、検査した人の約三%が感染していて、一日の検査数が一五〇〇件の時は新規の感染者数が四五人程度の割合で増えていたのが、二倍の三〇〇〇件検査を増やして約九〇人の新規感染者が出るようになった。つまり、最初から検査を増やしておれば感染者数はもっと増えており、直線の傾きも急になっていたはずなのだが、検査数を抑制してきため、感染者数の増加も人為的に抑えられてきたのである。
このことから、日本では感染はしているが検査を抑制してきたため、感染したことを自覚せず、「隠れ感染者」と言うべき人が多数いると推定される。実際、大都市を中心に、「感染経路を追えない感染者」の増加が報告されているのがその状況証拠である。感染者数は公表数の数倍いることは確かで、「日本はまだ持ちこたえている」とは決して言えないのだ。
むろん、重症の感染者も増加しているはずで、新規感染者が増えているだけ致死率は下がりつつあるが、それでもドイツや韓国に比べて有意に高い。日本の致死率は、重症になってからやっと感染が確認されて亡くなった人が多く、感染者とされないまま亡くなって通常の肺炎とされている人が多いはずで、今の数値が下限値なのである。
感染者数を少なくして医療崩壊を遅らせる専門家会議の方策は「成功」してきたと言えるが、その間に医療体制の充実を図ることが目的ではなかったのか。それは政治の役割だが、果たして非常事態宣言で改善されるのであろうか
(以上、四月六日記)

今月のことばNo.44

2020年4月8日

知事に任せ、すぐに行動を

小沼通二

 緊急事態宣言が7日に出された。東京都は6日に休止対象施設などの案を都議会にも示していた。「緊急」といわれながら11日からの休止を要請するという。都の案に国が厳しすぎると難色を示したので、都は緩める案に作り直すのだという。
 僅か4日と思うかもしれないが、感染拡大のスピードが理解できていない。感染は倍々と広がる。東京でも、世界全体でも収まる気配がまだ見えていない。2、3日で倍になると1週間か10日ごとに10倍、100倍に広がる。
 遅れれば遅れるだけ対応が難しくなる。具体案が完全でなくても、一刻も早く行動に移し、経過を見て修正していくのでなければならない。
 状況が地域ごとに異なるので地方自治体がそれぞれの対応をとることになっていたはずだ。福島原発事故のときに現場に任せず手遅れになった教訓を忘れたのか。

今月のことばNo.43

2020年3月18日

新型コロナウィルスと戦争

大石芳野

 新型コロナウウィルスに世界中が侵されている。連日、このニュースが押し寄せてくるから否応なく緊張する。この状態は大勢の死者を出したスペイン風邪の時と似ていると言われるものの、百年も前だから実感はない。大勢が集まる所は避けるようにと言われるが、真夜中以外の都会は何処へ行っても人は多い。花粉症や単なる軽い風邪などでも咳やくしゃみ、鼻水は容赦ない。側に居る人が見返す眼には敵意が色濃く漂っているなど、脅威の気持ちを露にする様子が通勤電車や店内でもよく目にする。
 まるでこれは戦争だ。特に内戦といった誰が敵か分からない状況に似ている。どこで見張られているのか分からない。敵は物陰から銃をこちらに向けてタイミングを狙っているのだろうが、その姿は見えない。こうした状況は戦時下ばかりか権力闘争下の現代社会にも繋がっている。権力者ばかりか平凡な市民も対象になり兼ねないから、不用意な言動で身に危険が及ばないとも限らない。
 これは妄想かもしれないが、戦禍を取材して40年間ほどの私の経験が俄かに湧き上がって、世界大戦を潜り抜けた人たちへと思いは馳せる。新型コロナウウィルスが蔓延し始めた冬から春の季節、75年前の欧州では戦火が止んで砲弾や虐殺から解放された。けれど、人びとの内側では戦争は終わらなかった。アジアの人びとにも進軍した日本兵にも、そして沖縄の人びとにもそこで闘った日本兵にも、みな夫々の内なる傷が残った。原爆を投下された広島、長崎の被爆者もその家族も戦争がいまだに終わらない闇を抱えている。
 さらに、日本と同盟国のドイツがポーランドに侵攻してユダヤ人をゲットーに隔離し強制収容所で何百万人も惨殺した負の遺産にも、このウィルスの事態は重なってくる。強制収容所などから生還した人たちを取材して私が痛感したことは、誰もが今なお深い悩みの淵にいることだった。そうしたポーランド人にとってドイツは敵以外の何者でもない。けれど思い出すのは、中には人間性を重んじて「できるだけ助けたい」と何十人ものユダヤ人やポーランド人を助けたドイツ軍将校もいたことだ。彼はソ連軍の捕虜となって助けた事実を訴えたが無視され、ソ連の収容所で7年後に亡くなった。これはW・シュピルマン著「戦場のピアニスト」に登場するドイツ人国防軍将校のW・ホーゼンフェルトの実話である。
 ソ連当局にはポーランド人は下等な人間だから助けるには値しないという根強い考えがあったようだ。そう言えば、カチンの森事件のようにポーランド人にとっての敵はドイツばかりではなく、救援者だと思っていたソ連もまた厳しい存在になった。
 話はそれたが、新型コロナウィルスがどのような状態で私たちを襲ってくるかわからないと言うことだ。昨今の社会は一見平和そうだが、とんでもない複雑な事態を抱え込み、状況はまさにあの戦禍の時代を彷彿とさせる。それだけに私たちは見えない相手を見つけ出して、何とか殲滅しなければならない。
 こうした切迫感に組み込まれつつある隙に、為政者が指導力の真髄を忘れて自分らの延命を図る策に邁進したらどうなるか。油断はできない。味方だと思っていたら敵になっている、その逆もまたあることを負の遺産に学びながら私たちは新型コロナウィルスと戦う。そのうちに、ワクチンと対処法が見つかり感染者の増加が世界中で止まる日は必ずくる。それまで細心の注意を怠らずに対処していくしかないだろう。