新新型コロナウイルス感染拡大の行く末
(執筆日:2020年3月15日)
ある人が、この1か月余りの期間における、新型コロナウイルス(以下、新型ウイルス)の感染者数の変化をグラフに描き、将来予測の近似式を作ったところ、重要な示唆が得たことを知らせてくれた。確かに、面白く重要な結果なので、ここに書いておきたい。まだ新型ウイルス感染の事態が収束していない段階での予測だから、安易に信用できないと思われるのはごもっともだが、私がここに書くことを一つの重要な警告として捉えていただきたいからだ。事後になってアレコレ言うのは誰でもできる。事前にそれまでのデータから未来を予測して注意を喚起することこそ、科学がなしうる重要な役割である。このような科学の予見があったことを記憶しておくためにも、ここに記録しておく価値はあると思っている。
そのグラフとは、ここに図示したように、横軸に2月14日からほぼ1ヵ月間の日付で、縦軸に新型ウイルスへの国別累積感染者数を「対数」で表示したものである(データは、WHO新型コロナ専用コーナーに示されている各国政府から毎日届く報告数)。中国は感染者数が非常に多くてこのグラフに図示できないので描いていないが、急速に増加してからピークを越し、今や減少しつつある。
通常のグラフでは、例えば縦軸の目盛りが1,2,3・・・とか、10.20.30・・・という風に一定の数で増える(これを実数という、横軸がそうである)のが普通だが、ここで採用されている「対数」目盛りは、10,100,1000・・・という風に10の倍数で増える表示となっている。非常に小さな数の部分を拡大し、大きな数の部分を縮小して示すことができるので、比較的短期間で小さな数から大きな数まで大きく数値が変化するような場合を表現するのに便利である。ネズミ算式・幾何(等比)級数的・指数関数的とさまざまな呼び方がある。
感染症で言えば、1人の患者が2人に感染させ、その2人がそれぞれ2人に感染させると計4人に感染させ、その4人が計8人に、8人が16人に・・・という具合に倍々ゲームで患者数が増えていく。この場合の累積感染者数のグラフを対数で示すと、右肩上がりの直線になって増加傾向がつかみやすくなる。むろん、直線の傾きが大きいほど累積感染者の増加率が大きく、傾きが小さいと増加割合が緩やかになっていることを意味して、感染状況を診断する上でも便利である。
このグラフから、いくつかのことが読み取れる。
(1)フランス・ドイツ・スペインは現在なお急増期で、いずれも20日間で10倍程度の増加率である。
(2)イタリア・イランは、最初10日間で10倍もあったが、少しずつ増加率は減っている。しかし、まだ大きな増加率は続いており、収束状態とは言えない。
(3)韓国も最初の増加は大きかったが、20日目頃から直線の傾きは小さくなっており、増加率ははっきり頭打ちとなっていて終息は近いと予測される(新規の感染者が出なくなると、縦軸は一定となる)。
(4)アメリカの増加率は階段状になっていて感染者数発表に政治的意図が感じられるが、トランプ大統領が最近になって検査の拡大方針を述べたこともあって、増加率が(1)のグループに近づきつつあり、今後ほぼ足並みを揃えるのではないか。
とまとめた上で、最も重要なことを述べねばならない。このグラフ上で日本だけが異常な変化を示していることである。他国に比べると、非常に早い段階で感染者数が多く出た後、大きな増加率ではない(右肩上がりはそう急ではない)が、しかし頭打ちというわけでもなく、そのままほぼ一定の増加率(ほぼ直線)を示してる。(1)~(4)の国々とは明らかに異なった特徴を示しているのである。
このような特徴は、日本においては、新型ウイルスに対するPCR検査に厳しい条件を付けて検査数を1日に1,000件程度に抑えていることから理解できる。単純に言えば、新規の感染者数を人為的に抑えているためで、おそらく日本では感染はしているのだが感染者として認知されていない人(隠れ感染者)が多数いるということである。隠れ感染者が知らず知らずのうちに周囲の人間に感染させるから、ウイルスの蔓延状態はずっと継続して感染者が減ることはない。その結果として、今後新型ウイルス原因とは証明できない肺炎の死亡者が増えるのではないか。日本は保健治療が完備しているだけに、死亡率は小さいだろうが、感染者数が増えれば肺炎による死亡の絶対数は増えることになる。その統計を注視したい。
もう1つの心配は、隠れ感染者が多いだけに、収束する気配はないまま感染者の増加は続き、他国が終息に向かっても日本だけ感染拡大が続くという事態が想像されることだ。韓国はいち早くPCR検査を拡大し、陽性者に対して隔離などの手を打ってきたために、総感染者数は多いが隠れ感染者は少なく、今や感染率が減少しつつある。日本は、どれくらい感染しているか正確につかめないため、いつまでも新規感染者の発生が長く続く可能性がある。実際、日本の累積感染者数の近似式をそのまま1か月先まで延長すると約3万人、2ヵ月先だと60万人を越える(倍々ゲームだから一気に増える)と、恐ろしいまでの感染者数になると予想される。むろん、そのままずっと手を拱いているわけでないだろうから、この近似式がそのまま妥当すると言えないことは確かで、この数に固執する気はないが・・・。
安倍内閣の差し金なのか、オリンピック開催のために感染者数を抑制しようとPCR検査に厳しい条件を課していると言われるが、むしろこの措置は逆で、このままではオリンピックが開けない状態を自ら招いていると言っても過言ではない。
安倍内閣の差し金でなく、感染症研究所の権益独占のためとの噂も聞こえてくるが、そうであれば安倍首相は即座にこれを改めさせ、PCR検査の拡充と感染者の隔離治療のための体制の整備を急がねばならない。それをサボり続けるなら、やはりオリンピック対策だと考えざるを得ない。
各国の累積感染者数のグラフを見れば、数か月の間で感染拡大が終焉するとはだれも思わないだろう。だから、今夏のオリンピック開催は不可能であることは明らかである。姑息な感染者抑制を中止すべきで、PCR検査と感染診療の体制を早急に整備して隠れ感染者を減らし、真正面から新型ウイルス退治に乗り出さなければならない。お隣の韓国の措置を見習うことを強く勧めたい。