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今月のことばNo.14

2015年7月16日

新国立競技場という悪夢

髙村 薫

 私が大阪の人間だからではないと思う。新国立競技場をめぐる一連の顛末にはらわたが煮えくり返っている。国際コンペで決まった建物のデザインが発表された3年前、1300億円という建設費に、一生活者として白々とした虚脱感しかやって来なかった記憶があるが、その後、実際には3000億円かかるといった話や、日本の技術をもってしても困難な屋根の構造のために、オリンピックに間に合うかどうか分からないといった話が漏れ伝わってくるにつれ、虚脱感は不信感に変わり、ついには怒りに変わった。
 2015年7月現在、多方面からの批判を浴びた末に新競技場はサイズを少し縮小し、開閉式の屋根を後回しにするなどして建設費を2520億円に圧縮した上で正式に建設が決定されたが、ここへ来て明らかになったことが三つある。一つは、いつものことながら誰が最終的な責任を取るのかが、徹底的に不明のままに置かれていることである。いまからデザインを変更する時間的余裕がないという理由で、ここにいたる関係者の不作為や手続きの不透明の一切を棚に上げ、ほんとうに建つのかどうかわからないものの建設にGOサインが出た格好である。これについて、国民の八割が「建設費が法外すぎる」「将来の赤字を誰が穴埋めするのか」と眉をひそめているが、国民には計画を阻止する具体的な手立てがない。そのことに、利権政治を繰り広げている当の政治家たちがあぐらをかいているのが手に取るように分かる、なし崩しである。
 明らかになったことの二つ目は、競技場のデザイン公募に当たって、主催者側が設定した諸条件のなかに「このデザインなら建設コストはいくらになる」という基本中の基本の概算が含まれていなかったらしいことである。政府の公式の説明はないものの、そう考えるほかはない二転三転である。振り返るに、半世紀前の東京オリンピックも、高度成長期の始まりを告げる輝かしい成功の裏には、乱開発や公害といった負の側面に加えて、予算面での杜撰さや綱渡りもあっただろう。オリンピックのような国家的事業には、そうした不透明さや予想外のトラブルはつきものかもしれない。しかしそうであればなおさら、過去の経験と反省を活かして、不透明さや予測不能な事態を減らすべきところ、21世紀に二度目のオリンピックを迎えるに当たっての、新国立競技場建設の顛末の、このいい加減さ、この杜撰さはどうか。
 明らかになったことの三つ目は、キールアーチと呼ばれる屋根の構造がほんとうに建設可能なのか、はっきりしないことである。日本の技術だけは世界に誇れると信じ、それをアイデンティティにしてきた私たち日本人にとって、常軌を逸した建設費の是非以前に、この不信感こそ一番こたえている。政治家の都合で2019年のラグビーW杯に間に合わせるために無理な工事をし、いつの日か首都圏直下型地震で崩落するという悪夢が見えるのは私だけだろうか。そんな途上国並みの事態すら想像しなければならないほど、この国のあらゆる制度や技術、そして公共精神への信頼が失われているということである。
 否応なしに、福島第1原発の無残な事故の姿が思い出される。

国際政治学者の武者小路公秀、「平和的生存権」の大切さを語る

2014年1月15日


日本国憲法の前文は「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生­存する権利を有することを確認する」と明言しています。これは「平和的生存権」のこと­で、植民地主義を反省するという認識に基づいたものです。そのような権利について、憲­法に明記しているのは日本国憲法が世界で初めて、かつ唯一のものです。世界に誇れる素­晴らしい憲法なのです。
いま、国連人権理事会では「平和への権利」、つまり平和に生きる権利が提案されていま­す。これは日本国憲法の平和的生存権と同じです。この平和的生存権を大事にするようみ­んなでがんばりましょう。
(2013年6月5日、大阪にて)

「事務局通信」 No.3 2009/11/12

2014年1月15日

◎対話集会、講演会への反響続々

名古屋での対話集会、講演会と一連の個別講演が無事終了しました。

講演会に参加してくださった方々から、感想などが寄せられています。その中のひとつ、環境運動をされている曽我部行子さんから寄せられたメッセージを紹介します。講演会の内容詳報は、中日新聞(2009年11月11日付)に掲載されています。

一方、委員会では、13日のオバマ大統領の来日に向けて、以前から討議が続いていた「オバマ大統領へのアピール」について、メールなどで討議が続いています。

◎決意伝わった講演会

武者小路さま、みなさま  昨夜は、世界平和アピール七人委員会 講演会を聴くことができ幸いでした。七人委員会が、実のところ、どういう活動をされているかなど知らずに参加し、これまでの数々の講演会というものへの失望から多くを期待していませんでした。しかしながら、聴いた後でたいへん強い感慨を持ちました。

それは、日本にも自らの所信に従い、言うべきことを周辺の空気を見ながらでなく述べる知識人がいらっしゃるのだということでした。核について述べるのに、奥歯に物を挟んだまま話せば意味がわからなくなるということもありましょうが、何より、今だからこそ世論を動かさないといけないのだという決意と思いがしっかり伝わってきました。

▼衝撃的だった土山委員の講演

冒頭での、土山秀夫さんの話は、とりわけ衝撃的でした。

世界で唯一の被爆国である日本なのに、核が好きだと海外に示す勢力がいるという事実です。アンケートをとると90%以上の国民が核は不要と答えるのに、政府がまったく違った方向を向いているというのは、異常というしかありません。なぜこんなに捩れてしまうのでしょうか。そして、未だにその捩れは直せないままです。

民主党政権とオバマ大統領在任の間になせねばならいことの筆頭が、核廃絶への布石なのだということ理解できました。

武者小路さんから、非核宣言都市をすることで核を持ち込ませないことができることを教えていただき、ときどき唐突に役所の前に立っている看板が、決してただの看板でないことがわかりました。さらに、「無防備地域(非武装)宣言」というものがあり、池田香代子さんはその活動を薦めているとおっしゃいました。沖縄にそれができないことは、残念です。

池内了さんの物理学の講義(!)は、壮大な宇宙の銀河からかろうじて残った100億分の1の物質がわたしたちの身体と生命となったことを示して、生物多様性の根源が宇宙から始まった歴史であると知りました。わたしたちは、銀河の始まりを背負っているのですね。

▼「核の傘」は恥ずべきこと

大石芳野さんは、明日といわず、今日今からできる核廃絶の道として「考えること。深く考えて流されないこと。」と。まったく同感です。

大石さんの撮られた枯葉剤被害の障害者のベトナムの人たちの写真を見た若い人から「支援は届いていますか」の質問がありました。彼女にとって、それはいたたまれない衝撃だったのでしょう。アメリカの科学者が未だに枯葉剤の被害を認めず、「風土病」だといい続けていることに驚きました。ベトナム帰還兵には補償をしても、ベトナム政府の補償請求には一切応じていないこともさらなる驚きです。

核の傘で守られようとする発想は、人としてそれほど恥ずべき愚かな格好の悪いことはない、と断言できます。

平和憲法が作られたすぐ後から、戦争をしたい勢力が今も日本にいることを嫌でも認めるしかありません。わたしたちは、世界の核廃絶を言う前に、日本の核容認勢力と闘わなければならないのです。そのことが、何より気の重いことです。

生物多様性(生命の多様性!)に対して真っ向から逆行する核に対して、どういうふるまいをしていくべきかを考えざるを得ません。

今後は、七人委員会が核の平和利用=原発についても意見を言うべきかも知れない、ということに期待をしております。

七人の委員の方全員に、日本の良心を代表する方たちとしてお礼を述べたいと思い、代わりに感想を寄せさせていただきました。

ありがとうございました。

(曽我部行子)

2013 110J 「特定秘密保護法案」の廃案を求める

2014年1月15日
アピール WP7 No. 110J2013年11月25日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 池田香代子 小沼通二 池内了 辻井喬

私たち世界平和アピール七人委員会は、政府が今国会に提出している「特定秘密保護法案」は、その内容も審議の進め方も、民主主義と日本国憲法にとっての脅威であると危惧し、本法案を廃案とすることを求めます。

民主主義は、主権者である私たちが政策の可否を判断できて初めて成立します。市民の知る権利は、その不可欠の前提です。私たちは、麻生内閣のもとで成立した「公文書等の管理に関する法律」(公文書管理法(注1)、2009年7月1日施行)において、公文書が「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものである」と位置づけられていることを高く評価します。

私たちは、国家が直ちには公開できない情報を有することを理解します。ただし、政府は秘密の指定が適切であることを説明する義務を負うものと考えます。しかし本法案には、指定の妥当性を客観的な立場から検証判断する、政府から独立した第三者機関の設置は想定されていません。首相が第三者機関の役割を果たすことができないことは自明です。

国家の秘密は期限を定め、期限がきたものは、たとえ政府にとってマイナスであっても、歴史の検証にゆだね、政府に説明責任を果たさせ、その後の政策に役立たせるため、すべて公開すべきであると考えます。

そのためには、指定解除前に関連文書が廃棄されることがないよう、保管が義務付けられなければなりません。沖縄返還をめぐる日米密約は、文書がきちんと保管されず、大臣や政権の交代に際しては、口頭ですら引き継ぎが行われず、著しく国益を損ねて今日に至っています。国家秘密の保管と例外なき開示を政府に義務づけない本法案は、こうした恣意性を追認するものであり、とうてい容認できません。

本法案は、安全保障、外交、諜報の防止とテロ対策に関する情報など、特定秘密に指定できる領域を広く定めています。これはただちに、裁判や国会審議の公開性や、国会議員の国政調査権の制限を招きます。

また本法案では、研究者や政策提言組織、市民団体などの情報アクセス権が保証されていません。私たちは、時の政権の都合により、情報アクセスや表現の自由への制限が強まることを危惧します。のみならず、戦前の治安維持法の場合と同様、市民の側の萎縮を助長し、自由な情報の交換や闊達な議論をはばかる風潮が広がる危険性が少なくないと考えます。

人権侵害に関する政府の秘密は、秘密取扱者にむしろ通報の権利と義務がある、とするのが世界の趨勢です。しかし本法案では、政府の違法行為にかかわる情報、政府が違法に秘密指定している情報、あるいは公益に資すると認められるにもかかわらず政府が秘密指定している情報などを公表した内部通報者やジャーナリストなどの保護が保証されていないことは、きわめて問題です。

特定秘密取扱者の適性評価項目には、精神疾患・飲酒・経済状況などのほか、配偶者とその父母の国籍や元国籍なども含まれます。約6万5千人ともいわれる当該公務員だけでなく、官公庁と業務関係のある企業に勤める民間人まで含めて、広範な個人情報を国家が掌握し、家族の国籍や元国籍によって本人の処遇に差をつけることは、憲法に定められた法のもとの平等に抵触することは明らかであり、私たちは懸念を表明せざるを得ません。

さらに本法案は、外国に特定秘密を提供できるとしています。具体的には、アメリカ合衆国への機密情報供与が想定されていることは明らかです。国家安全保障会議創設や集団的自衛権容認へと向かう現政府の動きを勘案すると、この規定は、核抑止を基本とする米国のグローバル戦略のなかにわが国を組み込むものであり、交戦権を放棄した憲法にも、国連の場で核兵器廃絶を支持しているわが国の方針にも、もとるものです。

安全保障と市民の知る権利は、とくに2001年のアメリカ同時多発テロ事件以降、各国がその均衡に苦慮してきました。「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)(注2)は、世界の経験と英知の結集から生まれ、かつわが国も締結している国際人権規約にのっとったものであり、私たちはきわめて妥当であると考えます。

とりわけ、「ツワネ原則」が秘密指定してはならない領域として、国際人権法や人道法に違反すること、公衆衛生に関することなどを提案していることは重要です。これは、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の拡散について、とくに初期の情報開示が充分ではなかったという痛恨の経験をした私たちにとり、切実さをもって理解できるものです。

かつて歩いた誤った道を、再び歩むことがあってはなりません。民主主義と相矛盾する本法案を廃案としたうえで、安全保障と市民の知る権利のバランスについてさらなる社会的な議論を深め、国会においても、性急な多数決に走ることなく、後世に悔いを残すことのないよう、野党の提案も真摯に審議し、取り入れるべきは謙虚に取り入れ、多くの市民が納得する方策を見出すことを、市民、政府、国会議員に呼びかけます。

注1 公文書管理法憲章
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H21/H21HO066.html

注2 ツワネ(Tshwane)原則 70カ国以上の500人を超える人権と安全保障の専門家の2年以上、10回以上の議論を経て、22の団体によって起草され、2013年6月12日に発表された。ツワネは、最終会議が開かれた南アフリカ共和国の都市である。
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/statement/data/2013/tshwane.pdf

PDFアピール文→ 110j.pdf

「核抑止」で長崎講演会

2013年12月12日

長崎大学核兵器廃絶研究センターなどと共同

世界平和アピール七人委員会は、2013年度の講演会を11月30日(土)、長崎市の長崎原爆資料館ホールで開かれた。
テーマは、共催の長崎大学核兵器廃絶研究センター、核兵器廃絶長崎連絡協議会との協議で決まった「核抑止論と世界」で、講演とシンポジウムが行われた。
「核抑止論」は、相手に耐えがたい報復力の脅しや警告を示すことで恐怖心を起こさせることで、攻撃を思いとどまらせ、自国の安全を図ろうという考え方。米、ロ、英、仏、中の5核大国のほか、核保有国のイスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮や、米国の「核の傘」の下で平和と安全を保っている、とする日本なども、この考え方に立っている。
今回の講演会では、この核抑止論に切り込もうと、長崎大学核兵器廃絶研究センター、核兵器廃絶長崎連絡協議会との共同主催で、委員のほか、長崎大学核兵器廃絶研究センターの梅林宏道センター長も講演、パネルディスカッションにも加わった。
会の冒頭では11月25日に亡くなった委員の辻井さんの追悼が述べられた。

▼核の傘は狭まっている・・・

最初の講演は土山秀夫委員。.土山さんは「日本は核廃絶をいいながら、米国の『核の傘』の下にある。米国はこの『拡大核抑止』を提供してきたとしており、この核抑止論の打破なくして、核廃絶はない。1969年の秘密文書では『当面の間、日本の核武装はないが、今後、核兵器製造についての技術的、経済的ポテンシャルを確保する』とし、この方針は引き継がれている。その後、日本政府は核の傘について米国に要請をしたりして、事実上、自分が頼み込んで核の傘をいっているというのが現実だ」と強調した。
そしてさらに、「いま国民の70-80%が核の傘は必要だといっている。不安解消のためには『北東アジア非核兵器地帯構想』がある。核の傘から脱却するために、寄付を募って国民に構想を広く知らせる新聞の全面広告などを考えたらどうだろうか」と提案した。
つづいて、梅林宏道氏が「進行中の国際交渉に見る抑止論」と題して講演した。梅林さんは米国での核抑止論と同盟国での拡大抑止論の歴史をたどりながら、「米国の核政策はオバマ政権の下で変化している」と説明、「オバマ政権は今年6月、初の核政策指針を発表、現在の核の脅威は最も差し迫った極限的危険は核テロリズムだとし、主たる脅威には核兵器は無用、有害だと考えている。ジュネーブの『多国間核軍縮交渉を前進させるための国連作業部会』(OEWG)は非核兵器地帯設立に向けて適切な行為をとるべきだとする勧告文書を出した」と報告、「拡大核抑止論への包囲網は狭まっている」と強調した。 講演の最後に武者小路公秀委員が「核廃絶はなぜまだできないのか」と題して講演した。武者小路さんは、1648年のウエストファリア条約以来の「防衛」体制について、歴史をたどり、覇権国によっての抑止の誤算を説明しながら、「私たちは、これから、人民の『安全』を中心に発想転換しなければならない。科学と技術を混同してはならない。原爆と原発の全廃は人類の倫理的な決断で、『核廃絶』は人類の知恵の選択だ」と強調した。

▼「科学と技術」にも課題

講演の後、講演した3人に、池内了、池田香代子、大石芳野の3委員が加わって、小沼通二委員の司会でパネルディスカッションした。
池内さんは「核廃絶問題もいまの課題と結びつけた上で、いまの政権の姿勢に問題提起していかなければ、と思っている。武者小路さんが、科学と技術の分離が必要だといわれたが、科学に属しているものも『便利』を追求するものではない。世界平和と科学と技術の分離を突き詰めて考えてみたい。秘密保護法の問題など日本は遅れている」と指摘した。 また、池田さんは、「講演を聴いて思うのは、核抑止の考え方では核廃絶は難しい、ということだ。核抑止論は『やったらやり返す世界』だからだ」と話した。
大石さんも「話を聞いて改めて日本は遅れている、と思った。日本の場合、広島、長崎のほかに沖縄を見逃せない。ケネディ新大使へのフィーバーにも違和感を持っている。秘密保護法など、実に問題だ」と話した。
こうした中で、梅林さんは「科学と技術の分離は必要だ。科学にもっと懐疑的になって、社会的に考えなければならない。大変な費用がかかる最先端科学の問題もある」、武者小路さんは、「米国にもオバマの米国もCIAの米国もある。議会もコントロールしたり論文も市場化されていたりする。全部まとめて考え、人間らしい世界にしなければ…」、土山さんも「核の問題は、安保にもなく、ガイドラインの中に一行あるだけで、北東アジア非核化構想と切り離すことは可能だ。外務省と話すと、必ず出てくるが難しいという。これを突破しなければならない」などと議論が闘わされた。
最後に司会の小沼さんが「いま大切なのは、やっぱり広島、長崎の実相を世界に広めることではないか。いま、最初は物理学者が8割を占めていたパグウオッシュ会議も、世代交代して社会科学者が増え、マジョリティになっている。先日開かれた年次大会で、2015年の年次大会は長崎でということが決まった。『難しい。ネックがある』と言っている限り前には進まない。一人一人できることは何か考えていかなければならない」と締めくくった。
最後に「核廃絶長崎連絡協議会」の調漸(しらべ・すすむ)会長が「難しい問題は語らない、という傾向が強いが、そうではいけない、ということが言われた。学生諸君も行動的になってきた。これからもいろいろ取り組んでいきたい」と閉会の辞を述べた。
×       ×
なお、長崎新聞12月1日付は、この集会を「北東アジア非核で勧告文 軍縮諮問委 国連事務総長に」の見出し、カラー写真入りで梅林センター長が述べた「国連の軍縮諮問委員会は、国連事務総長に対し、北東アジア非核兵器地帯設立に向けて、適切な行動をとるべきだ、とする勧告文書を出した」とニュースにした。

(了)

資料「追悼 七人委員会と辻井喬さん」(20131130tujii.pdf)

辻井喬さん死去

2013年12月3日

世界平和アピール七人委員会の委員、辻井喬さんは11月25日午前2時、肝不全のため死去されました。86歳でした。
辻井さんの父は、西武鉄道創始者の堤康次郎氏。セゾングループや西武百貨店を育て上げた経営者・堤清二氏として知られる一方、辻井喬のペンネームで、詩人、作家として活躍した。2010年9月6日から、亡くなるまで世界平和アピール七人委員会の委員を務めた。委員としての辻井さんは、2010年11月10日の明治大学での講演会で「東アジアの平和構築」と題して講演して以来、世界平和のために積極的発言を続けた。
七人委員会は、2011年7月にアピール「原発に未来はない」を発表、東京・有楽町の外国人特派員協会での記者会見に出席、積極的に発言した。昨年11月10日の福島・南相馬市での講演会では「中央集権の時代から地方自治の重視へ」と題して講演した。最近も、入院中にも病院から小沼事務局長に電話されたりした。最近の「『特定秘密保護法案』の廃案を求める」のアピールにも賛同の意思を表明した。
世界平和アピール七人委員会は、11月30日、長崎市で講演会を開いたが、席上、小沼通二委員・事務局長が、七人委員会での辻井さんの活動を報告、故人を偲んだ。

2013 109J 日本国憲法の基本的理念を否定する改定の動きに反対する

2013年6月15日
アピール WP7 No.109J
2013年6月28日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 池田香代子 小沼通二 池内了 辻井喬

私たち世界平和アピール七人委員会は、政府と政治家たちが計画している、現行憲法の基本理念を否定する改定への動きに、主権者であるすべての国民が注目し意見を表明されるよう要望します。また、政府と国会議員がこの改定への動きを直ちに中止するよう求めます。

現行憲法の前文には、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」、「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる」とうたわれています。これは国連において日本政府が主導的貢献をしてきた「人間の安全保障」の理念と一致しています。それにもかかわらず、自由民主党が国会提出を目指している「日本国憲法改正草案」(平成24年4月27日、以下草案という)では、このような国際的視野が一切消え、自国のことのみに目が向いています。

現行憲法の第二章「戦争放棄」は、「草案」では「安全保障」と名をかえた上、第九条第一項の「戦争の放棄」を維持するかの如く見せています。しかし、それを保障してきた現行憲法第九条の②の、戦力を持たず、国の交戦権を認めない規定を削除して、集団的自衛権を含む自衛権の名の下で国防軍を設置して、第九章の「緊急事態」の下で、国民の批判を一切許さずに国の方針に従わせる義務を課そうとしています。
私たちは、現代の戦争が、自衛の名の下で進められてきたことを忘れてはなりません。現行憲法第九条の②のおかげで、第2次世界大戦後、日本は68年間戦争によって殺すことも殺されることもない平和と繁栄の国であり続けてきたのです。軍事力の増強は、たとえ防衛のためといっても、近隣諸国の軍事力増強への圧力となり、しばしば軍拡競争の連鎖となってきた歴史を想起する必要があります。近隣諸国との友好関係を一歩一歩進めることこそが、国家の安全保障の確保につながる最良の道です。日本のような、人口急減社会の下で、多額の財政赤字を抱えている国が軍備増強を図るならば、国民生活を圧迫し、国力を弱体化させ、「国防軍」維持のために徴兵制度への道を歩むことになることは明らかです。

「憲法改正」を規定する現行憲法第九十六条を草案第百条に変更する構想にも大きな問題があります。憲法改定を計画する場合には、内容を丁寧に提示して支持を増やす努力をすることが正道です。それにもかかわらず草案では、現行憲法の改定条件を緩和して、国会議員のわずか1人の差でも国会の議決ができ、国民投票では投票率に関係なく有効投票数の過半数で改定ができることにしています。これでは多数の国民に支持される安定した憲法にならないことが明らかです。

このほかにも、以下に取り上げる項目を含め見過ごすことのできない多くの改定がもくろまれています。

第三章の「国民の権利及び義務」の改定草案では、「公益及び公の秩序」が繰り返し強調され、国民の権利を著しく制限する一方、義務を拡大することが目論まれています。草案は、主権者である国民が政府の行動を規制するという近代国家の憲法の理念に反し、国民主権を事実上放棄させて、政府に国民を従属させる構造になっています。現行憲法の下でさえ、政府は、米軍基地の沖縄県への押し付けを、県民の一致した意見を無視して続け、福島第一原発の事故状況が未解明のままであり、福島県民が将来への生活設計を全く立てられない苦悩の中にいるにも関わらず、この事態を無視して、原発の輸出に熱中し、国内での原発推進を公然ともくろむなど、さまざまな場で国民の基本的人権の蹂躙を繰り返しています。草案はこの動きを一層加速させるものであり、支持することはできません。

また現在、選挙区ごとの人口格差について、政府と国会が是正をしないままでいるため、憲法違反の状態が続いています。草案第四十七条には「各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない」という条項が追加されているため、人口格差が大きい現在の違憲状態をそのまま合憲として定着させてしまうことになります。

現行憲法第五十六条では、両議院の各々が、議員の3分の1以上の出席がなければ議事を進めることができないとされていますが、この規定の削除が提案されています。この改定は、議論の内容の重視でなく、議事を進めるという形式の重視に導くものです。

かつての日本では、軍部が政治に介入し深刻な弊害をもたらしました。そのため現行憲法第六十六条で、すべての大臣は文民でなければならないと定められ、自衛隊員にも適用されています。国防軍を設置しようとする草案では、「大臣は現役の軍人であってはならない」と規定されています。これでは、現役を退くことによって翌日から大臣になれることとなり、いわゆる文民統制は完全に空洞化されることになります。

さかのぼれば、アジアなどの非西欧諸国は、欧米を中心につくられた近代国家が行った侵略主義・植民地主義・覇権主義の犠牲になってきました。そのアジアの中で、明治以来の日本は、米欧諸国と肩を並べる近代国家を構築しました。しかし、日本が自ら近隣諸国に兵を進めて植民地化してきたことは、残念ながら否定できない歴史の事実です。これを反省し、現行憲法前文で「全世界の国民が・・・平和に生きる権利を有することを確認」したことによって、近隣諸国は、日本との武力衝突を考慮する必要がなくなったのでした。そして、高度な技術を保有する日本が、武器の輸出を抑制してきたことも、多くの国と市民から高く評価されてきたところでした。

世界平和アピール七人委員会は、1955年の発足以来、日本と世界の平和を求めてアピールを発表してきました。それは、日本・アジア・世界の歴史的経験を踏まえて到達し、日本国憲法の前文にうたわれている基本理念を発展させようとの一貫した努力であり、現行憲法制定の前年に発足した国連憲章の基本的理念とも一致するものでした。 1945年の敗戦以後積み重ねてきた平和を愛好する国としての日本の努力と成果を、敗戦と被占領の不本意な結果だとして否定し去ろうとする動きによって消し去るという過ちをおかしてはなりません。

PDFアピール文→ 109j.pdf

2012 108J 原発ゼロを決めて、安心・安全な世界を目指す以外の道はない

2013年1月15日
アピール WP7 No.108J
2012年9月11日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 池田香代子 小沼通二 池内了 辻井喬

 世界平和アピール七人委員会は、東京電力福島第一原子力発電所事故から4か月を経過した昨年7月11日に「原発に未来はない:原発のない世界を考え、IAEAの役割強化を訴える」と題したアピールを発表した。私たちはこのアピールで、原発はやめられないのではないかと考えている人たちに、真剣な検討を要望した。
 東日本大震災から1年半の経過をみて、このアピールを再確認するとともに、再び提言したい。

1.被災者たち

 東日本大震災によって、一人ひとりの生活があり、多くの絆によって結ばれていた15870人が死去し、2846人が今なお行方不明になっている(人数は、2012年9月5日警察庁発表による)。
 事故の後、原発から20km以内は罰則付きで立ち入りが制限・禁止される「警戒区域」に指定され、20~30kmの範囲は「避難指示区域」と決められるなど、避難を余儀なくされた人は約15万人に及んだ。多くの住民が、東京電力と政府と“専門家”の不誠実と無能な対応の結果、避けることができたはずの余計な被曝を受け、放射線障害への不安を生涯にわたってかかえることになった。
3.11事故から1年半を経過し、力強く立ち上がっている人たちがいる一方で、数多くの人たちが、仮設住宅その他の移転先で不便な生活を強いられ、帰宅のめども立たず、将来の設計もできないままにされている。復興予算は、遺憾ながら被災地と被災者が最も望む形では使われていない。配分について、根本的改善が急がれねばならない。
 世界平和アピール七人委員会は、いつまでも東日本大震災の被災者、特に東京電力福島第一原発事故の被災者との連帯を最優先に考えて、行動していく。

2.3.11原発事故の原因と経過の解明

 民間、東京電力、国会、政府の事故調査報告書が相次いで発表され、多くのことがあきらかになってきた。しかしいまだ多くの非公表の情報があり、事故を起こした4つの原子炉の内部の状態は高レベルの放射能汚染のため未だほとんどわからず、事故の原因と経過の全貌をつかめる状況になっていない。
 3.11の事故は、人類史に残る出来事である。そこから得られる負の情報は、今後ふたたび同様の事故を繰り返さないよう対策を講じるために不可欠である。原子力基本法の「基本方針」には、公開の原則がうたわれている。専門家の検証に役立つアーカイブを設立し、利用に供することは、すべての関係者の責務である。その第一歩として、民間、東京電力、国会、政府の事故調査の関係者は最終報告書のみにとどまらず、資料一切を散逸させることなく保存していただきたい。
 とくに東京電力は、自社にとって不利な情報をできるだけ非公開にしようとしているが、ことの重大性を自覚し、真実をすべて明らかにする責任を果たさなければならない。
 私たちは、国会事故調査委員会の提言7にある、「国会に、原子力事業者及び行政機関から独立した、民間中心の専門家からなる第三者機関として(原子力臨時調査委員会(仮称))を設置」して、今回の事故調査で残された問題の解明を続け、結果を発表していくという構想を支持する。

3.これからの道

 福島県の脱原発方針は、政府にも全国民にも受け入れられた。その他の日本全国の原発についても、世論は明らかに廃炉に傾いている。政府は、民主主義の原則に従い、福島県民を始めとする多くの人びとの思いを受け止めて、すべての原発の廃止を、あいまいさを残さずに期限を明示して決定しなければならない。この期限は、それまでは運転してよいというものではなく、それ以前にできるだけ繰り上げて廃止していくという意味に理解すべきである。この点が明示されれば、議論のための共通の基盤が実現し、廃止の手順、順序などについて建設的な協力が可能になると確信している。

 これまで日本のエネルギー政策、原子力政策は、政府と官僚、財界と産業界、学界、マスコミが一体となった“原子力ムラ”によって支配されてきた。“ムラ”は“安全神話”を作り、事故に対する備えを怠ってきた。ところが責任の所在をあいまいにして、誰も責任をとろうとしていない。3.11以後に、その弊害が明白になったにもかかわらず、“ムラ”と原発の延命・維持の画策が後を絶たない。“ムラ”の解体は徹底しなければならない。
 六ヶ所村再処理工場を維持するためや、核兵器製造能力維持のため、あるいは米国の原子力産業のためなどといった本末転倒な理由による原発維持の可能性は完全に否定されなければならない。
 これからは、決定責任の所在をすべて明確にしておく必要がある。万一今後も国民の安全を無視した決定が行われるのであれば、これまでのように誰も責任をとらないのでなく、結果責任を負っていただかなければならない。

 大飯3,4号炉の再稼働は、今や見直しが必要なことが確認されている3.11以前の基準に基づいて、従来推進を最優先にしてきた組織が判断して決定したものだった。住民の避難計画を作ることもなく、被害が及ぶ隣接県の住民に納得してもらえる説明をして了解を求めることもせず、地震対応の拠点となる免震事務棟の設置もしないまま、さらに原発に近すぎて機能しないことが明らかなオフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設)の移転も行わないなど、基本的な安全対策の不備のまま“安全”が確認されたとして、強行された再稼働なので、直ちに運転を停止すべきである。

 原子力規制委員会の委員人事は、国の原子力政策、ひいては政治が、国民の信頼を回復できるか否かの岐路に立っていることを示す重大な問題である。私たちは、これまで原子力推進にかかわってこなかった人の中から、視野が広く将来を見据えて判断できる人を選ぶべきだと考える。

 世界の原発数は、スリーマイル島原発事故のあとで伸びが小さくなり、チェルノブイリ事故のあと増加が止まった。福島原発事故のあった2011年には新設4基、廃炉決定11基であり、2012年初めの原発は、前年より減少し29か国、427基となった。世界の大多数の国々は原子力に依存しないエネルギー政策を採用しているのである。
 世界各国は、現在再生可能エネルギーの研究・開発・利用にしのぎを削っている。世界最大の投資国は中国であり、ドイツと米国が続いている。原発大国といわれるフランスも日本より熱心である。日本では、原子力以外のエネルギー資源の研究・開発・利用に制度上の制約を加え、貧困な予算措置しかしてこなかったため、世界の競争から大きく遅れてしまっている。私たちは、一刻も早くすべての障害を取り除き、競争に参加しなければ、遅れはさらに広がると危惧している。

 使用済核燃料と高レベル廃棄物は10万年以上管理しなければならないといわれ、わが国では処分場の確保もできていない。
 東日本大震災では、震源域の北米プレートが50m移動し、7m隆起した。宮城県では水平方向に5.3m、上下方向に1.2mの地殻変動が起こり、30分で東日本全体に変動が波及した。4つのプレートが地下で接している地震国の日本において、1020世紀以後の子孫の時代にまで及ぶ負の遺産の安全な管理をすることは、現実性があるとも健全であるとも言えない。しかも、新たな原発立地を得ることはできず、既存の原子力発電所の敷地内への原子炉増設も限界に達している。そして原発からの使用済核燃料と高レベル廃棄物の一時的な保管場所も不足する。原発利用は行き詰る道を歩んでいるのである。
 1950年代後半に日本で初めて発電用原子炉の英国からの輸入を決めた時に、耐震性やコストの問題とともに使用済核燃料と高レベル廃棄物処理のめどが立っていないことが、日本学術会議の議論の中で指摘された。これに対して推進派は「技術は、完成してから始めるのでなく利用を始めてからも進歩するものだ」と説明して、批判を無視した。その後50年以上のあいだ基本的な核のライフサイクルができなかったのだから、この技術から撤退する以外ない。

 原子力を縮小しゼロにすると、発電コストが上がり、電気料金の大幅値上げにつながるという議論がある。これは、石油、天然ガスを毎日輸入する場合と核燃料を数年間原子炉に入れたままにしておく場合のコストの比較に基づくものであり、建設、解体、核廃棄物処理、事故への対応、補償、賠償などのコストはすべてを電気料金に含めることができない巨額になっている。原子力は決して安くないことを忘れてはいけない。

 すべての原発は最終的に廃炉解体をしなければならない。とくに過酷事故を起こした原発の解体には多くの技術開発が不可欠である。安全に解体を進めるための世界最先端技術の国際研究所を、たとえば福島県に設置し、世界に積極的に貢献することを提案する。

 世界平和アピール七人委員会は、ひとりひとりが不安を持つことなく安全に生きていくことが可能な世界をつくっていくために日本が世界の先頭に立つことを求める。

PDFアピール文→ 108j.pdf