2012 108J 原発ゼロを決めて、安心・安全な世界を目指す以外の道はない

2013年1月15日
アピール WP7 No.108J
2012年9月11日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 池田香代子 小沼通二 池内了 辻井喬

 世界平和アピール七人委員会は、東京電力福島第一原子力発電所事故から4か月を経過した昨年7月11日に「原発に未来はない:原発のない世界を考え、IAEAの役割強化を訴える」と題したアピールを発表した。私たちはこのアピールで、原発はやめられないのではないかと考えている人たちに、真剣な検討を要望した。
 東日本大震災から1年半の経過をみて、このアピールを再確認するとともに、再び提言したい。

1.被災者たち

 東日本大震災によって、一人ひとりの生活があり、多くの絆によって結ばれていた15870人が死去し、2846人が今なお行方不明になっている(人数は、2012年9月5日警察庁発表による)。
 事故の後、原発から20km以内は罰則付きで立ち入りが制限・禁止される「警戒区域」に指定され、20~30kmの範囲は「避難指示区域」と決められるなど、避難を余儀なくされた人は約15万人に及んだ。多くの住民が、東京電力と政府と“専門家”の不誠実と無能な対応の結果、避けることができたはずの余計な被曝を受け、放射線障害への不安を生涯にわたってかかえることになった。
3.11事故から1年半を経過し、力強く立ち上がっている人たちがいる一方で、数多くの人たちが、仮設住宅その他の移転先で不便な生活を強いられ、帰宅のめども立たず、将来の設計もできないままにされている。復興予算は、遺憾ながら被災地と被災者が最も望む形では使われていない。配分について、根本的改善が急がれねばならない。
 世界平和アピール七人委員会は、いつまでも東日本大震災の被災者、特に東京電力福島第一原発事故の被災者との連帯を最優先に考えて、行動していく。

2.3.11原発事故の原因と経過の解明

 民間、東京電力、国会、政府の事故調査報告書が相次いで発表され、多くのことがあきらかになってきた。しかしいまだ多くの非公表の情報があり、事故を起こした4つの原子炉の内部の状態は高レベルの放射能汚染のため未だほとんどわからず、事故の原因と経過の全貌をつかめる状況になっていない。
 3.11の事故は、人類史に残る出来事である。そこから得られる負の情報は、今後ふたたび同様の事故を繰り返さないよう対策を講じるために不可欠である。原子力基本法の「基本方針」には、公開の原則がうたわれている。専門家の検証に役立つアーカイブを設立し、利用に供することは、すべての関係者の責務である。その第一歩として、民間、東京電力、国会、政府の事故調査の関係者は最終報告書のみにとどまらず、資料一切を散逸させることなく保存していただきたい。
 とくに東京電力は、自社にとって不利な情報をできるだけ非公開にしようとしているが、ことの重大性を自覚し、真実をすべて明らかにする責任を果たさなければならない。
 私たちは、国会事故調査委員会の提言7にある、「国会に、原子力事業者及び行政機関から独立した、民間中心の専門家からなる第三者機関として(原子力臨時調査委員会(仮称))を設置」して、今回の事故調査で残された問題の解明を続け、結果を発表していくという構想を支持する。

3.これからの道

 福島県の脱原発方針は、政府にも全国民にも受け入れられた。その他の日本全国の原発についても、世論は明らかに廃炉に傾いている。政府は、民主主義の原則に従い、福島県民を始めとする多くの人びとの思いを受け止めて、すべての原発の廃止を、あいまいさを残さずに期限を明示して決定しなければならない。この期限は、それまでは運転してよいというものではなく、それ以前にできるだけ繰り上げて廃止していくという意味に理解すべきである。この点が明示されれば、議論のための共通の基盤が実現し、廃止の手順、順序などについて建設的な協力が可能になると確信している。

 これまで日本のエネルギー政策、原子力政策は、政府と官僚、財界と産業界、学界、マスコミが一体となった“原子力ムラ”によって支配されてきた。“ムラ”は“安全神話”を作り、事故に対する備えを怠ってきた。ところが責任の所在をあいまいにして、誰も責任をとろうとしていない。3.11以後に、その弊害が明白になったにもかかわらず、“ムラ”と原発の延命・維持の画策が後を絶たない。“ムラ”の解体は徹底しなければならない。
 六ヶ所村再処理工場を維持するためや、核兵器製造能力維持のため、あるいは米国の原子力産業のためなどといった本末転倒な理由による原発維持の可能性は完全に否定されなければならない。
 これからは、決定責任の所在をすべて明確にしておく必要がある。万一今後も国民の安全を無視した決定が行われるのであれば、これまでのように誰も責任をとらないのでなく、結果責任を負っていただかなければならない。

 大飯3,4号炉の再稼働は、今や見直しが必要なことが確認されている3.11以前の基準に基づいて、従来推進を最優先にしてきた組織が判断して決定したものだった。住民の避難計画を作ることもなく、被害が及ぶ隣接県の住民に納得してもらえる説明をして了解を求めることもせず、地震対応の拠点となる免震事務棟の設置もしないまま、さらに原発に近すぎて機能しないことが明らかなオフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設)の移転も行わないなど、基本的な安全対策の不備のまま“安全”が確認されたとして、強行された再稼働なので、直ちに運転を停止すべきである。

 原子力規制委員会の委員人事は、国の原子力政策、ひいては政治が、国民の信頼を回復できるか否かの岐路に立っていることを示す重大な問題である。私たちは、これまで原子力推進にかかわってこなかった人の中から、視野が広く将来を見据えて判断できる人を選ぶべきだと考える。

 世界の原発数は、スリーマイル島原発事故のあとで伸びが小さくなり、チェルノブイリ事故のあと増加が止まった。福島原発事故のあった2011年には新設4基、廃炉決定11基であり、2012年初めの原発は、前年より減少し29か国、427基となった。世界の大多数の国々は原子力に依存しないエネルギー政策を採用しているのである。
 世界各国は、現在再生可能エネルギーの研究・開発・利用にしのぎを削っている。世界最大の投資国は中国であり、ドイツと米国が続いている。原発大国といわれるフランスも日本より熱心である。日本では、原子力以外のエネルギー資源の研究・開発・利用に制度上の制約を加え、貧困な予算措置しかしてこなかったため、世界の競争から大きく遅れてしまっている。私たちは、一刻も早くすべての障害を取り除き、競争に参加しなければ、遅れはさらに広がると危惧している。

 使用済核燃料と高レベル廃棄物は10万年以上管理しなければならないといわれ、わが国では処分場の確保もできていない。
 東日本大震災では、震源域の北米プレートが50m移動し、7m隆起した。宮城県では水平方向に5.3m、上下方向に1.2mの地殻変動が起こり、30分で東日本全体に変動が波及した。4つのプレートが地下で接している地震国の日本において、1020世紀以後の子孫の時代にまで及ぶ負の遺産の安全な管理をすることは、現実性があるとも健全であるとも言えない。しかも、新たな原発立地を得ることはできず、既存の原子力発電所の敷地内への原子炉増設も限界に達している。そして原発からの使用済核燃料と高レベル廃棄物の一時的な保管場所も不足する。原発利用は行き詰る道を歩んでいるのである。
 1950年代後半に日本で初めて発電用原子炉の英国からの輸入を決めた時に、耐震性やコストの問題とともに使用済核燃料と高レベル廃棄物処理のめどが立っていないことが、日本学術会議の議論の中で指摘された。これに対して推進派は「技術は、完成してから始めるのでなく利用を始めてからも進歩するものだ」と説明して、批判を無視した。その後50年以上のあいだ基本的な核のライフサイクルができなかったのだから、この技術から撤退する以外ない。

 原子力を縮小しゼロにすると、発電コストが上がり、電気料金の大幅値上げにつながるという議論がある。これは、石油、天然ガスを毎日輸入する場合と核燃料を数年間原子炉に入れたままにしておく場合のコストの比較に基づくものであり、建設、解体、核廃棄物処理、事故への対応、補償、賠償などのコストはすべてを電気料金に含めることができない巨額になっている。原子力は決して安くないことを忘れてはいけない。

 すべての原発は最終的に廃炉解体をしなければならない。とくに過酷事故を起こした原発の解体には多くの技術開発が不可欠である。安全に解体を進めるための世界最先端技術の国際研究所を、たとえば福島県に設置し、世界に積極的に貢献することを提案する。

 世界平和アピール七人委員会は、ひとりひとりが不安を持つことなく安全に生きていくことが可能な世界をつくっていくために日本が世界の先頭に立つことを求める。

PDFアピール文→ 108j.pdf