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200人超す参加者が白寿を祝う伏見康治先生の白寿の会

2007年8月23日


数え年99歳を迎えた伏見康治先生の白寿を祝う会が、3日午後、東京・神田の学士会館で開かれた。伏見先生は1909年(明治42年6月29日生まれで、今年は数えの99歳。世界平和アピール七人委員会の全委員をふくむ、70人あまりの人たちの呼びかけで開かれたもので、会場には広い分野の200人を超す人々が集まった。
会は伏見先生の愛弟子の大塚益比古・元原子力安全研究協会常務理事の司会で進められ、最初に1961年に伏見先生が名大プラズマ研究所の初代所長に招かれたとき名大にいた山本賢三さんと、1983年から参院議員を務めたとき、後半の3年間を同僚として勤めた広中和歌子さんが祝辞を述べた。続いて、伏見先生のあと日本学術会議会長を務めた元国立公害研究所長の近藤次郎さんが乾杯の音頭をとった。

▼山本賢三さん(名大名誉教授)の祝辞
私は7年制の東京高等高校の同窓で、私が尋常科1年生のとき、伏見先生が高等科の2年生くらいだったと思う。指揮者の朝比奈隆も同窓で、そのころから伏見先生の名前は知っていた。確か科学部の雑誌に論文を書かれたり、記念祭の絵を描かれたりしていたことを覚えている。私は電気屋で専門は少し違うが、親しくしていただいた。
プラズマ研究所に来ていただいたのは、先生が「原子力3原則」を片づけられ、関西原子炉問題で苦労された後だったが、はじめて核融合の本格的な研究が始まった。伏見先生が尽力してできあがった臨界プラズマ試験装置は、いまの国際炉につながっている。
伏見先生は新しい物好きで、しかも関心がはっきりしている方だ。自分の関心がないときは居眠りをしているが、オリジナルの話が出ると食いつくように、耳を傾ける。そして判断も速く、はっきりしている。
そんな先生だから「左翼学者」のレッテルを貼られて英国がビザを出さなかったことがあった。中曽根さんは「オポチュニストだ」と言ったから私は反論した。多くの専門を包含したコミュニティを作り、貢献された。お元気で過ごしてほしい。

▼広中和歌子さん(参院議員)の祝辞
1986年、公明党の人が来て「選挙制度が変わったから、出たい人より出したい人、でやりたい。出てほしい」と言われた。私は集団疎開を経験し、米国ではケネディ大統領とも会い、公民権運動に感銘を受けていたから、光栄だと思いお受けした。それで短い期間だったが、参議院でご一緒した。林健太郎さん、田英夫さんなどがいた。
私が関心を持ったのは環境問題だった。伏見先生はCO2の問題について、「世界の7割を占める海がどうCO2を吸収しているかのメカニズムはまだ分かっていないんだよ」と話してくれた。林健太郎先生からは脳死の不可逆性についての話を伺った。
白寿というのはすごいことだ。どうか、これからも伏見先生には社会の指標となってほしい。


この後、懇談に続き、会場を飾った多数の折り紙のバラの花の作者であり、国際的に「川崎ローズ」として知られるこの折り方の創作者でもある徳島の数学者の川崎敏和さんが実演つきでお祝いを述べ、小沼通二さんが記念刊行物の紹介をした。続いて、伏見先生の子ども、孫、ひ孫さんたちの紹介があり、息子さんの伏見譲さんの紹介で伏見先生の99年の歩みを示す写真が会場に映し出された。
そして、長崎から駆けつけた土山秀夫さんが「いまの七人委員会のメンバーはしゃべり出したら止まらない人たちばかりだが、伏見先生はいつも頷きながら聞いていらっしゃって、節目節目に的確にコメントしていただいている。ご高齢で退かれると言うことだったが、私たちは何とかの残っていただきたい、とお願いして、名誉委員と言うことでいつでも出席していただくようにしている。私の専門は医学だが、人間の寿命は医学的には110歳、120歳は珍しくなくなっている。どうかお元気で、いつまでもご指導をお願いしたい」と話した。
最後に、登壇した伏見先生は「こんなに長生きするとは思わなかったので、心の準備をしないまま99歳になってしまった。これからどう暮らしていったらいいかわからないが、いろいろやって、平和運動に関連する仕事が最後の仕事になっている。皆さんのお助けで社会奉仕をしてきたが、能力がなくてあまり役に立っていないことが残念だ。お忙しいところを、集まりくださって、こんな楽しい会を開いてくださって、本当にありがとうございました」と挨拶した。
参加者には、折り紙のバラの花と「生い立ちの記」、「『波打つ電子-原子物理学10話』について」がおみやげに配られた。
この日は、ちょうど東京で開かれる原子核物理学国際会議(INPC2007)の一環として「湯川秀樹生誕100年記念講演会」が開かれていたため、小沼さんから紹介があり、そこに向かう人もあり、記念すべき日となった。

(事務局・丸山重威)

2007 90J 国民投票法案に対するアピール

2007年4月12日
アピール第90号J
2007年4月12日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 井上ひさし 池田香代子 小沼通二 池内了
名誉委員 伏見康治

 私たち世界平和アピール七人委員会は、現在衆議院で審議中の「日本国憲法の改正手続に関する法律案」(与党案)ならびに「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」(民主党案)について、憲法改正というもっとも根源的かつ基本的な投票を、投票率に関係なく、有効投票数の過半数という決め方をするのは適切でないと考えます。

日本国憲法第九六条によれば、憲法改正における国会の役割は各議院の総議員の三分の二以上の賛成で発議し、国民に提案することとされています。憲法改正における主役は国民です。ここに示されているとおり、衆参両院においては、有効投票数ではなく総議員数が基礎になっています。

国外においても、英国では、全有権者の40パーセント以上の賛成を必要としていますし、韓国では有権者の過半数が投票しなければ改憲が成立しないという最低投票率制度を採用しています。

そこで総議員数を基礎にしている国会の例と、総有権者を基礎にしている諸外国の例にならって、総有権者の過半数の賛成を必要とするという成立条件を加える修正をおこなうことを強く要請します。それによって初めて、主権者としての国民の過半数が支持する改正をおこなうこととなり、主権在民の下での憲法を自らのものととらえることが可能になると考えます。

私たちと同様の主張は、衆議院の日本国憲法に関する調査特別委員会公聴会における公述人も発言しています。国の根幹に関わる憲法改正の手続きは、拙速で進めることなく、決定していただきたいと切に要望いたします。

2006 89J 朝鮮民主主義人民共和国の核実験発表に対するアピール

2006年10月11日
アピール第89号J
2006年10月11日
世界平和アピール七人委員会
伏見康治 武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 井上ひさし 池田香代子 小沼通二

 私たち世界平和アピール七人委員会は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)政府が発表した10月9日の核兵器実験実施について、いかなる条件の下であれ、朝鮮半島と日本を含めた周辺、ひいては世界の平和と人間の安全保障の立場から、反対を表明する。核兵器によって、国の安全が保証されると考えるのは幻想に過ぎない。1945年以来、世界各地で発生している被爆の実態を思い起こせば、人類が核兵器と共に存続していくことができないのは明らかである。

 私たちは、日本はじめ関係各国が、北朝鮮がこのようなかたちで自国の安全を保障しようと結論した遠因を冷静に分析すること、そして、国連において同国をいっそう孤立させて東北アジアにおける平和の実現を困難にしないことを、切に希望する。

 私たちは、10月3日の北朝鮮外務省の声明第3項目に注目する。そこには、北朝鮮の最終目標が、朝鮮半島とその周辺から核の脅威を根源的に取り除く非核化である、と明言されている。北朝鮮政府は、6か国協議の場で、この最終目標に向けて共に努力すべきである。

この目標は、かねてから日本でも民間から提案されている東北アジア非核兵器地帯構想そのものである。私たちは、今年9月8日に調印された中央アジア非核兵器地帯の実現に向けて、日本政府が大いに協力してきたことを評価する。いまや非核兵器地帯は、南極を含む南半球から北半球に広がりつつあり、大気圏外の宇宙、海底もすでに非核兵器地帯になっている。日本政府は、核兵器廃絶に向けて重要な一歩を進めることになる日本を含む非核兵器地帯の実現に向けても、最大限の努力をするべきである。

関係諸国は、国連において国連憲章第7章に訴える措置を講じ、あるいは進める前に、韓国が進めてきた朝鮮半島の南北会談を支え、米朝、日朝の話し合いをすすめていくべきである。国際紛争は、いかなる場合であっても、戦争以外の話し合いで解決を図るべきである。武力によって、安定した繁栄をもたらすことはできない。武力行使につながる動きは、決してとるべきではない。

さらに根本的には 核兵器保有国が核兵器に依存する政策を続ける限り、核兵器を保有したいという誤った幻想を持つ国が続くことは確実である。核兵器保有国は、今回の北朝鮮による核兵器実験が、核拡散防止の国際的な枠組みを弱体化させ、それに拍車をかける動きであることを直視して、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)第6条の精神に立ち戻り、核兵器廃絶に向けて速やかに真摯な行動を起こさなければならない。世界がいつまでも現状のまま続くと考えるのは間違っている。

 私たちは、朝鮮民主主義人民共和国政府に対し、初心に帰って、同国声明が言うとおり、朝鮮半島とその周辺の非核化に向けての建設的な話し合いを速やかに開始することを求めるとともに、日本政府をはじめ、関係各国政府が、世界の平和と人類の生存をかけて、朝鮮民主主義人民共和国政府と、前提条件をつけることなく真剣な話し合いを始めるよう求めるものである。

2006 88J 米国とインドの原子力協力推進についての要望書

2006年6月21日
アピール第88号J
2006年6月21日
世界平和アピール七人委員会
伏見康治 武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 井上ひさし 池田香代子 小沼通二

内閣総理大臣 小泉純一郎殿

総理は今月末に米国を訪問し、ブッシュ大統領と会談されようとしています。

私たちは、総理のご健闘を期待するとともに、この機会にぜひ次のことを要望したいと思います。それは、今年三月にブッシュ大統領とインドのシン首相との間で出された原子力協力を推進するための共同声明に関し、このたびの会談において、日本も賛同するようにとの要請が米国からあるとの報道がなされているからです。

米印間の原子力協力の内容そのものについてもいくつかの疑義が出されておりますが、ここではそれには触れません。

私たちが問題にするのは、インドが核不拡散条約(NPT)の発足当初から不平等を理由にしてこれに加盟せず、国際世論を無視して核兵器実験をおこない、公然と第六の核兵器保有国になった事実です。

これは、加盟した世界の百八十八か国に対し、忠実に条約の遵守を求めているNPT体制に対する明白な挑戦行為です。それにもかかわらず、NPT加盟国である米国が、インドを対中・対イスラムの同盟国とみなし、有力な原子力市場であるともみなして、インドに対してNPTへの加盟を促すのでなく、核兵器保有国であることを黙認したことは、結果としてNPTの基本的理念に違反する行為といわざるを得ません。

そしてこれは、イランや北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核開発に口実を与えることにもつながりかねません。

被爆国である日本の政府が事あるごとに核兵器の廃絶と不拡散を求めてきたことは私たちもよく承知しています。また例年、日本政府は、国連総会に対して「核兵器完全廃棄への道程」決議を提案し、NPT体制の強化を訴え続けて多くの国々の賛同を得てもいます。

総理は、こうした日本政府の努力に対して国民が大いなる期待を抱いていることを重く受け止められ、たとえ賛同の要請があっても受け入れることなく、米国とインドの原子力協力は、インドのNPTと包括的核実験禁止条約(CTBT)への参加を前提条件とするよう、友好国として米国政府に強く働きかけることを要望致します。

2005 87J 平和に生きる世界のために

2005年11月11日
アピール第87号J
2005年11月11日
世界平和アピール七人委員会
伏見康治 武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 井上ひさし 池田香代子 小柴昌俊
事務局長 小沼通二

-創立50周年に当たり、核時代に生きる者の責任として、いまと未来に生きる世界の人々に訴えるー

 「世界平和アピール七人委員会」は、50年前、全世界に衝撃を与えた太平洋ビキニ環礁における水爆実験の翌年、核兵器と戦争の廃絶を訴えたラッセル・アインシュタイン宣言が発表された1955年の本日、発足しました。以来、七人委員会は、日本国憲法の平和主義に依拠し、国連の強化と武力によらない紛争解決を基盤とする新しい世界秩序と、核兵器の速やかな廃絶を求めて、86件のアピールを発してきました。

今日、世界は七人委員会発足当時とは大きく変化し、超大国支配による新たな危機とそれを許さない人々の運動の、大きなうねりの中にあります。この状況に対して、私たちは、これまで以上に発言の必要性と緊急性が増していると考え、それを大変残念に思いながら、国連とそのすべての加盟諸国政府にアピールします。それとともに私たちは、日本の、そして世界の市民のみなさんが、同様な訴えを起こしてくださるよう希望します。

1.私たちは、核兵器の速やかな廃絶を求めます。

核兵器は、人類を滅亡に追いやる兵器です。それにもかかわらず、核兵器保有国は核兵器への依存を続けてきました。これに対して人類は度重なる危機に直面しながらも、この60年間、大国の手を縛り、核兵器を使わせませんでした。これは人類の叡智であり、その危険性を指摘し続け、行動した人々の努力のたまものです。

 冷戦の終結により、超大国同士の核戦争による人類滅亡の危険は去りましたが、国家のみならず非国家集団への核拡散の懸念も高まっています。その中で核超大国が進める新型戦術核兵器の開発は、核兵器を「使えない兵器」から「使える兵器」に変え、核戦争の危険性を増大させ、核拡散を加速させる動きとなっています。

 こうした情勢の中で、私たちは改めて核兵器拡散防止条約の完全実施をめざし、核保有諸国が同条約第六条に決められた通り、核軍備競争を直ちに停止し、核軍縮にむけて、誠実な交渉を開始することを呼びかけます。その上で、2000年の核兵器拡散防止条約再検討会議で約束された核兵器の完全撤廃を、すみやかに実現させるよう求めます。

2.私たちは、世界諸国が、戦力および交戦権を否認し、あらゆる紛争を平和的に解決するよう訴えます。

 この50年の間、七人委員会の訴えは、残念ながら、一部の例外を除いていまだに国際社会から受け入れられていません。その上、冷戦後の世界では、諸国内の武力紛争が多発する中で、世界的な規模での国家と非国家のテロリズムの応酬が、世界の人びとの平和に生きる権利を奪っています。

 これらの諸紛争においては、圧倒的な軍事力による平和の強制や、「ならず者の処罰」が、紛争の解決に役立つどころか、もっとも弱い立場に置かれている人々の犠牲を強いる結果を生み、不安を恒常化しています。

 私たちは、国連とその加盟諸国が、国家間ならびに国内紛争のための、一切の戦争ならびに軍事力の行使の放棄を宣言し、国内紛争当事者を含む違反者に対しては、国際刑事裁判所における法の裁きをうけさせることを勧告します。

3.私たちは、国連とあらゆる国際機関が、市民の運動に敬意を払い、すべての人々が安全を保障され、平和に生きることができるよう、「平和共存」と「平等互恵」を原則にした「多文化共生世界」を目指す改革を進めることを求めます。

 七人委員会における私たちの先輩は、世界連邦の理念にもとづく世界秩序の構築を訴えてきました。国際関係において国家が唯一の実力を備えていた当時から、世界は大きく進歩し、いまや国家をもしのぐ市民パワーが成長しました。世界の市民は、ジェンダー、世代、宗教、階級・階層、また各種アイデンティティ集団の平等のもとに、世界各国で活躍しています。

 国連が、超大国の主導による一方的なグローバル・ガヴァナンスではなく、市民の平和への努力を根底に据えた、連邦主義の原則にもとづくグローバル・ガヴァナンスの体制を打ち立てるよう訴えます。

以上の三つの訴えを日本から世界に向けて発信するに際し、「世界平和アピール七人委員会」は、この訴えを日本自体が率先して推進することを求めます。そのために、とくに次の三点について、日本国政府に訴えます。

4.私たちは、いま日本が改めて日本国憲法の理念と原則を守り、活かしていくことを強く求めます。

 今日、日本国憲法についての論議が盛んになっています。しかしながら、アジアを始め、世界全体を巻き込んだ戦争の反省を踏まえ、再びそうした戦争を起こさせないと誓う日本国憲法は、人類の歴史の到達点であり、世界の人々の願いの結晶です。

 私たちはこの世界史的意義を確認し、安易な憲法改定に反対し、いかなる改定が行われる場合でも、「平和的生存権」と「国際紛争の平和的解決」、「戦力不保持と交戦権の否認」の三点については、現行憲法の理念と原則を守り、活かしていくことを求めます。

 日本国憲法前文は、日本が「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持することを決意し」、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免ぬかれ、平和に生存する権利を有することを確認」しました。

私たちは、日本国政府が、この「平和的生存権」を「人間の安全保障」という形で国際的に唱導し、外交政策の一つの柱にしていることを歓迎する一方で、その根拠である現在の憲法を無視する改憲論が推し進められていることに憂慮の念を禁じえません。

5.私たちは、日本を含めた東北アジア非核兵器地帯の設置を求めます。

日本は平和憲法の原則にもかかわらず、日米安保条約によって、米国のいわゆる「核の傘」を中心とした武力に依存してきました。その中で、日本自身も過大な軍備を抱え、経済のひずみを拡大し、アジア諸国からの批判を受けています。

 私たちは、核兵器が役に立つという幻想を棄て、「核の傘」依存の体制を改め、核兵器を持たないことによる安全保障の地域的な取り決めを作っていく原動力となっていかなくてはなりません。私たちは、東北アジア非核兵器地帯の設置により、地域の内発努力と、「平和共存」と「平等互恵」の原則に基き、地域の人々の不安を除去するための政治・経済の協力を進めることが可能になると信じます。

6.私たちは、日本が真にアジアの人々と共に生きるアジア外交を推進していくことを求めます。

日本政府は、外交の機軸を、「対米依存一辺倒」ではなく、「アジア外交重視」を基礎に据えて米国に友好国としての立場を求める外交へと、大きく転換する必要があります。

 日本国内の米軍基地は、わが国の国家予算を用いて、遠く中東にまで至るいわゆる「不安定の弧」を視野に入れたアメリカの世界戦略にそって整備されています。横須賀への原子力空母の配備計画も、その一環として強行されようとしています。それは、世界、とくにアジアにおける新たな軍事的脅威となると同時に、テロを誘発しかねません。

私たちは、日本政府が、沖縄、鹿屋、岩国、横須賀、座間など、基地周辺の人々の増大する不安と高まる反対の声をなによりも尊重し、この国の人々と国土の安全にこそ留意した統治を行うことを求めます。私たちは、それがひいてはアジア・太平洋地域に新たな安定の時代を築くことにつながると信じます。

以上、「世界平和アピール七人委員会」は、その50年間のアピールをふまえ、世界平和実現の一助となることを切望して、本日ここに、国連・その加盟諸国・市民に対する三つの訴えと、日本国政府ならびに市民に対する三つの訴えを発表いたします。

2005 85J 核兵器使用60周年にあたり、改めてその実態、非人道性を直視するよう日本国民と日本政府に訴える

2005年4月20日
アピール WP7 No. 85J
2005年4月20日
世界平和アピール七人委員会
伏見康治 武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 井上ひさし 池田香代子 小柴昌俊
事務局長 小沼通二

 2004年末にインド洋沿岸諸国をおそった津波は、多くの生命、財産を奪いました。被害はそれだけにとどまらず、医学的、物理・化学的、さらには社会的、心理的な面にも及んでいます。この惨害は、多くの人びとが年末休暇を過ごしていた国際的リゾート地を被災地に含んでいたこと、発生が週末の午前中だったことにより、かつてない量の痛ましい映像記録を残し、全世界は、テレビ、インターネットを通して自然の脅威を目の当たりにしました。

 振り返れば、60年前に広島・長崎を壊滅させた核兵器の惨害は、規模においてこの津波の被害を超えるものでした。放射線の影響は、60年たった今日もなお消えておりません。しかも、核兵器による被害は、津波のような天災ではなく、人間が生み出した災害です。

 今や日本国内でも、この時代を経験しない人が3分の2を超えました。一般に、残忍なものは見たくも聞きたくもないとの心理がはたらくため、核兵器の残忍性は、忘れられかけています。ところが21世紀の今日の世界でも、核弾頭を搭載した数千発のミサイルが直ちに発射できる態勢に置かれています。核保有国は核兵器を使用可能にする戦略を立て、新型核兵器の研究も行うに至りました。核兵器を持つ国も増加し、核不拡散体制は危機に瀕しています。このような風潮の中で、日本の核武装についての議論が、わずかずつにせよ増加しています。

 核兵器の非人道性、特にそのむごたらしい被害についての情報は、日本に集中しています。核兵器を廃絶させるため、日本の市民には、これを直視し、世界にむかって発信する責務があります。

 私たちは、日本の心ある市民一人一人が、将来の世代と、全世界の人たちに、最も残虐な原爆被害の姿を大胆に展示することを含め、「人類は核兵器と共存できない」という信念をもっと広める努力をするよう訴えます。

 これと同時に日本政府が、新アジェンダ連合(1)などとの連携を一層強めるとともに、“核の傘”(2)に依存した政策を改め、日本を含めた東北アジアの非核兵器地帯(3)を実現させるための努力を速やかに開始し、多国間の平和的協議を積極的に推進するよう求めます。

注:
(1)新アジェンダ連合とは、核兵器廃絶を目指し、推進する中堅クラスの7つの国家、アイルランド、スウェーデン、エジプト、南アフリカ、ニュージーランド、メキシコ、ブラジルの連合をいう。2000年5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議では、世界のNGOの強い支持を受けて、核保有国から「保有核兵器の完全廃棄を達成することを明確に約束する」との合意を取り付ける成果を上げた。

(2)核の傘とは、非核兵器国が核兵器保有国の核抑止力に依存する状態のことである。日本は、最近では「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン、1997年)の中で、「日本は自衛のために必要な範囲内で防衛力を保持し、米国は核の抑止力によってそのコミットメントを達成する」として米国の核の傘の下にあることを明白にしている。日本のほか、NATOの非核兵器国や韓国なども同じ政策を取っている。 

(3)東北アジア非核兵器地帯については幾つかの提案がある。その一つ「スリー・プラス・スリー」案についていえば、韓国と北朝鮮による「朝鮮半島非核化宣言」(91年12月)に日本の非核三原則を組み合わせ、これら3カ国からなる非核兵器地帯を設置し、核保有国である中国、ロシア、米国の3カ国は、これら3カ国に対しては核攻撃をおこなわない(消極的安全保障)という法的約束をおこなうのが骨子となっている。
 実際に、非核兵器地帯は世界各地に拡がっている。第1は、1968年に発効したラテンアメリカ核兵器禁止条約であり、今日ではラテンアメリカの全ての国が参加し、核兵器保有5か国すべてがこの地域で核兵器を使用しないことを約束している。1986年には、南太平洋非核地帯条約が発効し、核兵器だけでなく、核廃棄物投棄も禁止している。東南アジア非核兵器地帯条約も1997年に発効した。アフリカでは、まだ発効していないが、1996年に、非核兵器条約調印が行われた。モンゴルは1991年に、非核兵器国であることを宣言し、1998年には国連によってこの地位が承認された。南極地域では、1961年以来あらゆる軍事的措置が禁止されている。

2005 86J 核不拡散条約再検討会議に際し、核軍縮への具体的努力を求めるアピール

2005年4月20日

ジョージ ブッシュ アメリカ合衆国大統領殿
ウラジーミル プーチン ロシア連邦大統領殿
アンソニー ブレア 英国総理大臣殿
ジャック シラク フランス共和国大統領殿
胡錦濤 中華人民共和国国家主席殿

コピー:核不拡散条約再検討会議議長
セルジオ・ドゥアルテ大使殿

アピール WP7 No. 86J
2005年4月20日
世界平和アピール七人委員会
伏見康治 武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 井上ひさし 池田香代子 小柴昌俊
事務局長 小沼通二

 核不拡散条約(NPT)が発効して今年で35年になります。本条約には、核兵器保有5カ国の核保有を認める一方で、その他の加盟国の核兵器保有を禁止するという不平等性を持っているとの批判が根強くあります。しかし、現在すでに約190カ国が批准書を寄託している、核軍縮をめざす唯一の重要な国際条約であります。
 2005年5月の再検討会議を目前にして、この条約における「核廃絶の約束」が、死文化させられかねない状況に陥っていることに、私たち世界平和アピール七人委員会は深い危惧を感じております。
 私たちの世界平和アピール七人委員会は、50年前の1955年に、核兵器開発競争が深刻に進む中で、ラッセル・アインシュタイン宣言に呼応して結成され、60年前の被爆国・日本から、世界に向かって平和を訴え続けてきました。
 私たちは、今年5月のNPT再検討会議に際し、核兵器廃絶に向けての実質的な成果を生み出すために、核兵器保有5カ国が真摯な努力をされるよう、次の通り要請します。

1 条約交渉における国際的約束の履行を
 1995年5月に核兵器保有5カ国は、核不拡散条約再検討会議において全会一致で採択された文書「核不拡散と核軍縮に関する原則と目標」に述べられているように「第6条に書かれている核軍縮の交渉を誠実に行う」ことを再確認しました。また2000年5月の再検討会議では「保有する核兵器の完全廃棄を明確に約束する」との最終文書にも合意しました。 これら一連の約束は、政権が代わっても、国際的、道義的に順守されるべき性格のものです。私たちは、その忠実な履行をあくまで求め、核兵器完全廃棄の確認を求めます。
 
2 核不拡散のためにも核軍縮を
 最近、「対テロ戦争」の名の下に、核兵器保有国の中に核拡散防止の重要性のみを強調し、核軍縮への努力を軽視する風潮があることに、私たちは強い憂慮の念を抱きます。
 核保有国自体が核兵器依存の政策を改めない限り、一部の非核兵器保有国がこれを見倣い、あるいは対抗することによって、核兵器の拡散はむしろ増大すると考えるからです。核兵器保有国が率先して核廃絶への具体的な道筋を示すことこそ、何よりの核拡散防止策なのです。私たちは、核兵器保有国が時期を明示した核兵器廃絶への道筋を明らかにするよう求めます。

3 「後戻りしない」核軍縮政策の確認を
 私たちは冷戦終結後の現在でも、核兵器保有国が戦略核兵器を使用可能な状態におき続けると共に、「使える兵器」としての小型核兵器の研究と開発を進めていることに抗議し、直ちに中止するよう求めます。
 核不拡散条約には、重要な原則として、核軍縮の不可逆性を守ることが謳われています。米国やロシアによる新たな小型核兵器の研究や米国での地下核実験再開に向けた動きは、明らかにこの趣旨に逆行するものです。私たちはそうした計画を永久に破棄することを求めます。

 以上、核兵器保有5カ国が、NPT再検討会議において、平和を願う世界の人々のこころをこころとし、真摯に課題に取り組み、歴史的な成果を上げられるよう要請します。

以上

2004 83J 武力行使・敵対行為の犠牲になる市民の安全の擁護と紛争の平和的解決を求めるアピール

2004年4月26日
アピール WP7 No. 83J
2004年4月26日
世界平和アピール七人委員会
伏見康治 武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 井上ひさし 池田香代子 小柴昌俊
事務局長 小沼通二

イラクとパレスチナにおける紛争は混迷の度を加え、子供を含む市民がおびただしく犠牲となり、多くの市民の拘束・隔離が続いています。この事態を黙視することは許されません。
私たち世界平和アピール七人委員会は、日本国内および国際社会に対し、以下の通り訴えます。

1 武力行使・敵対行為の犠牲になる市民の安全の擁護を
非国家組織によるか、国家によるかにかかわらず、市民を無差別に殺傷し、拘束・隔離する一切の軍事暴力を即時停止し、人権擁護・法の支配・民主的統治の推進を重視する人間安全保障の原則(1)に従うことを求めます。私たちはすべての国家に、この原則に違反する一切の政策を放棄することを求めます(2)。
特に、米国主導のイラク占領軍によって、ファルージャなどで展開された軍事的威嚇および制圧行為が二度と繰り返されないことを求めます。

2 紛争の平和的解決への国連の役割の強化を
国連憲章第2条3,4は、すべての加盟国が、国際紛争を平和的手段によって解決し、武力による威嚇または武力の行使を慎まなければならないとしています。これは、戦争放棄と紛争の平和的解決を取り決めた1929年のケロッグ・ブリアン条約(3)の精神を引き継ぐものです。
イラクにおける混乱は、軍事力はなにも解決しないことを示しています。私たちは、全ての外国軍隊が撤退し、国連がイラク国民を助けることを求めます。私たちは、国連と加盟諸国が、国際ならびに国内紛争解決のための手段としての、一切の戦争の放棄を宣言し、違反者に対する処罰を規定した新しい不戦条約を締結するよう訴えます。

3 平和憲法の先駆性の確認を
日本国憲法の戦力および交戦権の否認と、コスタリカ憲法(4)の常備軍の禁止は、国連憲章とケロッグ・ブリアン条約に沿った先駆的な行動であることを、国際社会が確認し、支持し、ハーグ平和アピール市民社会会議(5)も述べているとおり、他の国々がこれに続くことを求めます。

注:
(1) 「人間安全保障」は、国家全体の安全保障ではなく、個々の人間の安全保障を問題にする。1990年代に国連で使用されはじめ、国連事務総長の任命した緒方貞子、アマルティア・センを共同議長とした「人間の安全保障」委員会が報告をまとめた。2003年5月に国連に提出され、全加盟国に配布された人間の安全保障委員会報告書では、「人間安全保障は、すべての人々の生命(生活)の死活に関る中核にあるものを、人間の自由と達成度とを高める方向で守ること」としている。わかりやすくいえば、すべての人間の命と生活の不安をなくし、恐怖と欠乏から自由にすることである。
 この報告書は、国家の行動について、「国家と国際社会の安全保障論議を席巻しているのが『テロに対する戦争』である。軍事行動ばかりでなく、資金や情報、人間の移動を追跡し(阻む)といった手段にも大きな関心が向けられている。また、情報の共有など、新しい分野での多国間協力も進んでいる。しかしながらこうした手段は、テロリストへの資金提供や政治的・軍事的支援を断ち切り、危険人物を事前に拘束することで攻撃を阻止するという、短期間の強制的戦略が主眼になっている。それと同時に、国家支援型テロへの対応がなされていないし、専制政治への批判を封じるために合法的な団体がテロ組織の烙印を押される場合がある。そして、人権擁護や法の支配と民主的統治の推進よりも、テロとの戦いが優先されているのが現状である。」
「ある国家の行為が他国やその国民に影響を与えることを考えれば、国家が国益のみに執着し主権を無制限に振りかざすことはもはや許されない。・・・・・一方的な行動を起こすことは、国家間の違いを埋める平和的な解決手段とはなりえない。」としている。
(2) いわゆる反テロ戦争の余波を受けて、異常な監視の対象とされ、恒常的な不安状態に置かれているマイノリティに対する、人間としての安全保障、尊厳の尊重と人権の擁護も、特にアメリカ、イスラエル、ロシアにおいて問題である。日本における在日韓国人・朝鮮人への差別的な動きや、欧米におけるイスラム排斥と反ユダヤ主義の相互激化などの一切の排外主義を退けることも重要である。
(3) ケロッグ・ブリアン条約は、不戦を誓い、戦争放棄を定めた条約であって、1928年署名が行われ、1929年に発効して現在も有効である。 日本は最初に署名した9か国の一つである。この条約は
第1条 (戦争放棄) 締約国は、国際紛争解決のため戦争に訴えることを非とし、かつその相互関係において国家の政策の手段としての戦争を放棄することをその各自の人民の名において厳粛に宣言する。(日本帝国政府は「その各自の人民の名において」は日本国に限り適用なきことを宣言する。)
第2条 (紛争の平和的解決)締約国は。相互間に起こることあるべき一切の紛争または紛議は、その性質又は起因の如何を問わず、平和的手段によるの外これが処理又は解決を求めざることを約す。
と規定している。それにもかかわらず20世紀の間に2度にわたる世界大戦が起こったのは、罰則と制裁規定がなかったために日本をはじめとして各国がこの条約を無視したことと、各国が自衛権を主張したためである。実際には、現代の戦争は全て自衛権を理由にして行われている。

(4) コスタリカ共和国憲法 第12条
恒久的制度としての軍隊は禁止する。公共秩序の監視と維持のために必要な警察力は保持する。
大陸間協定により若しくは国防のためにのみ、軍隊を組織することができる。いずれの場合も文民権力にいつも従属し、単独若しくは共同して、審議することも声明・宣言を出すこともできない。
(5) 第1回ハーグ国際平和会議100周年を記念して開かれたハーグ平和アピール市民社会会議(1999年5月11―16日)の最終日に採択され、国連に提出されて、全加盟国に配布された「公正な世界秩序のための10の基本原則」は、その第1として、「各国議会は、日本国憲法第9条のような、政府が戦争をすることを禁止する決議を採択すべきである」をあげている。

2004 84J 核兵器への依存の即時停止と速やかな廃絶を求めるアピール

2004年4月26日
アピール WP7 No. 84J
2004年4月26日
世界平和アピール七人委員会

 人類は、第2次世界大戦直後の1940年代後半と、冷戦終結後の1990年代に、核兵器廃絶の好機を逸しました。その結果、世界はいまだ安定からほど遠く、核拡散の危険性が増大しています。 
 この状況の中、本日からニューヨークにおいて、2005年の核不拡散条約再検討会議に向けての準備委員会が開かれます。
私たち世界平和アピール七人委員会は、日本国内および国際社会に対し、以下の通り訴えます。

1 明白に約束した核兵器の完全廃棄に向けての速やかな行動を
 核不拡散条約上の核保有5か国は、2000年の再検討会議において明白に約束した核兵器の完全廃棄に向けて、2005年の再検討会議までに、小型核兵器を含めて、逆行できない計画の提示と行動を取ることを求めます。

2 核武装と核拡散に反対する明白な意思表示を
 日本を含む核武装可能と見られている諸国と、イスラエルなど核兵器を保有していると見られている諸国が、核武装と核拡散に反対する明白な意思を表明し、行動することを求めます。

3 中東と東北アジアに非核兵器地帯を
 私たちは、中東地域の混乱を憂慮し、イスラエルの核兵器保有を確認したうえで、速やかに中東地域を非核兵器地域にすることを、関係諸国と国連とに提案します。
私たちはまた、北朝鮮の核問題について検討している6か国が、東北アジアを非核兵器地帯とすることに合意し、実現させることを訴えます。
いわゆる反テロ戦争のなか、中東と東北アジアにおいて、非核兵器地帯化についての交渉が開始され、実現されることこそ、平和に大きく資するものと考えるからです。

4 日本の核兵器依存政策の転換を
 世界、なかでも東北アジアにおいて持続可能な平和な社会を確立するため、日本の政権が、いわゆる核の傘として、アメリカの核兵器を中心とした武力に依存している政策を放棄し、変更することを求めます。

1996 82J 包括的核実験禁止条約(CTBT)の年内締結と核兵器禁止条約の早急な審議開始を

1996年5月25日

 包括的核実験禁止条約(CTBT)は、核兵器の廃絶に向けての第一歩として、国連の創設以来全世界が待ち望んできた核軍縮処置であります。幸い、冷戦の終結と軍縮を求める国際世論の高揚を背景に、最近急速にこの条約終結の機運が高まり、1994年以来国連軍縮会議(CD)での審議がジュネーブで続けられ’、昨年五月にニューヨークで開かれた核不拡散条約(NPT)の再検討・延期会議での決定に従い、CTBTの今年度内の締結を目指して最終案の作成が精力的に進められております。私たちはその努力を多とするとともに、各国が九月から開催される第51回国連総会の切迫に留意し、条約の精神に沿って協調を計り、ぜひとも期限内に合意を達成されるよう切望いたします。

 また、この条約の締結は、あくまでも核兵器の全面的な禁止に向けての確実な第一歩でなければなりません。それを保証するため、私たちは条約の前文に、「この条約は核兵器の廃絶を早急に実現する努力の」環として締結するものである」ことを明記するよう要望いたします。そしてまた、核兵器禁止条約の締結こそ、この条約の締結に引き続く最も重要な課題であることを国際社会が改めて認識し、その審議を直ちに開始するよう求めたいと思います。

 ところが残念ながら現在の公認核保有五力国は、いずれもCTBT成立後もなお核兵器を保有し続ける意図を表明しており、現有の核兵器の保守や点検、安全性の確保、改良などを理由に、条文に抵触しない限り、さまざまな実験や研究を進めようとしております。このような姿勢は、これらの国々がCTBTを支持する真意が核廃絶の追求とは程遠い核拡散の阻止、言い替えれば核兵器の独占的保有の維持に過ぎないのではないかとの疑問を抱かせます。

 核兵器国のこのような政策の背景には、既得権益に固執する軍産複合体などからの強い圧力の存在が感じられますが、さらにその背後には冷戦終結の今なお、残念ながら核兵器の軍事的有用性や核抑止力の必要性を信じる国民や政治家が少なくないという事情
があると思われます。

 しかし、冷戦の終結後、核兵器の軍事的効用や核抑止力の安全保障上の役割は事実上消滅したことを、かつて米ソなどの国防長官や軍事戦略での政府顧問を務めた多くの専門家までが一致して認めております。まして大部分の非核非同盟諸国や、パダウォッシュ会議などの平和を目指す多くの非政府組織(NGO)の間では、「核兵器のない世界」はもはや単なる理想ではなく、近い将来に達成できる極めて現実的な目標とさえ見られております。私たちはすでに化学兵器や生物兵器の禁止条約を次々と成立させました。間近に迫った二十一世紀を文字どおり核兵器の脅威から解放された時代とするために、私たちはまずCTBTの今年内調印を実現し、続いて直ちに核兵器禁止条約の審議を開始すべきであると考えます。そしてその実行を各国に促すためには、核兵器による災害を自ら経験した唯一の国であるわが国が、進んで力を尽くさなければならないとの思いが切であります。私たちのこの思いが日本国民全体の声となることを願って止みません。

1996年5月25日

世界平和アピール七人委員会
京都大学名誉教授    田畑 茂二郎
元日本YWCA会長     関屋 綾 子
東京大学名誉教授    隅谷 三喜男
法政・札幌大学名誉教授 内山 尚 三
前東京芸術大学学長   平川 郁 夫
元日本学術会議会長   伏見 康 治