今月のことばNo.46

2020年4月18日

新型コロナウイルスが招くもの

池内 了

新型コロナウイルス(新型ウイルスと略称)の感染爆発を目の前にして、ついに緊急事態宣言が発令された。やがて東京や大阪などの大都市の閉鎖へと進み、重症感染者の続出で医療崩壊になるのではないだろうか。一番心配されることは、精神主義と上意下達意識が強い日本だから、実質的に情報統制が進み、大本営発表ばかりとなって、少しでも国の方針を批判したり反対したりしようものなら、「非国民」として糾弾されそうな気がする。ファシズム国家の到来である。
それは考え過ぎであって欲しいが、政府も国民の多くも数か月でコロナ騒動は終わるとし、緊急事態は短期間と見做して小手先ばかりの対策しか考えていないのではないかと懸念している。新型ウイルスの治療薬やワクチンが完成するのに一年は必要だとされているし、それが行き渡って世界中が落ち着いた状態に戻るのには二年間は要するだろう。従って、最初の一年間は学校閉鎖を続けざるを得ず、不特定多数が顧客となる観光・旅館業・映画や演劇などの興行は完全に休止となり、対面販売の商活動も生鮮品の商店以外は継続できなくなる。日本がお得意の自動車・ITや電化製品・鉄鋼や造船などの輸出産業も生産低下で大不況を免れない。この状態は最低限二年間くらい何らかの形で続くから、その間の状況の推移を読んで対策を考えねばならない。緊急事態宣言が出たからといって、簡単に終息すると思ってはいけない。私たち自身、腹をくくって生活の一新を図る必要がある。
むろん、このような大不況による景気後退は全世界に及ぶから、各国政府がいかなる対応策を講じて、この難局を乗り越えるかの政策能力が試されることにもなる。リーマンショックの場合、とりあえず国から銀行への大量融資で乗り切ったが、今回のコロナ騒動はあらゆる分野の経済活動が大きな痛手を被り、大量の倒産・首切り・失業が続出すると思われるから、きめ細かな対策と大胆な財政出動が相伴っていなければならない。それも小手先の対策ではなく、最低二年間を見据えた長期的な構想の下で計画的に行う必要があり、各国の政治指導者の見識と実行力が問われることになる。
そう思って世界の政治家の顔を思い起こせば、さてこれで大丈夫なのかと心配する面々ばかりである。どの国々も自国ファーストになり、他国の困難なんか省みず、自国の利益のみに走りかねないからだ。既に、診療機材を他国よりも非常に高い値段をつけて独占的に輸入しようという動きがあるが、「今さえ、金さえ、自分さえよければよい」の国際バージョンで、災害に付け込んだ強欲資本主義が跳梁しかねない。感染者の流入を防ぐための国境閉鎖が常となって、国際協調主義が国内優先主義にとって代わられ、弱肉強食時代へと逆戻りになるのではないか。世界史が反転する危険性が大きい。
ましてや日本においては、線引きのない無条件の現金給付や個人所得の補償はせず、自己申告の基づく現金給付で国民の分断を図るようなものでしかない。そして、緊急事態宣言を憲法条項を憲法に書き入れようとする動きもあり、安倍首相の野望が実現しかねない状況である。
非常時であればこそ、火事場泥棒のような手段で人権・主権・平和の憲法の三大権利が盗まれないよう十分気を付けねばならない。(四月六日記)

[中日新聞2020年4月11日朝刊掲載、中日新聞社の許可を受けて転載]