今月のことばNo.17

2015年10月5日

もうひとつの日本

武者小路公秀

 今回の安保関連法は、米国とイスラエルの「反テロ戦争」という国家テロ連合への協力を狙った軍事暴力正当化の違憲立法です。ISISは、法案強行採決のちょっと前、事態を正確に理解してー日本のメディアがそれを無視していることに苛立たしさを覚えます。これが本当になったら、安倍内閣は、情報管理の下で非常事態宣言を発動し、簡単に憲法完全無視の独裁体制に移行する可能性があります。
 筆者はピースボートの「第88回地球一周の旅」に参加して、太平洋からインド洋を横切る船の中で法案強行採決のニュースを聞きました。ここでは、そんな悲しい日本の未来ではなく、希望に輝く「もう一つの日本」への胎動を紹介したいと思います。

 この旅では、インド・南アフリカ・フィリピンの仲間と議論を重ねて「平和の海を、未来のために」というアピールを執筆しました。この経験を通して、私は「もう一つの日本」のかたちをはっきり心に焼き付けました。それは、ただ「戦争をしない国」という消極的な姿ではなく、「植民地支配に手を貸さない国」という、積極的な意味をもつ日本の姿・形がこのアピールの中に浮き彫りにされているからです。

 海から海をわたる航海では、「国境や国籍、民族、言語、宗教の壁を越えた、世界中の人々と土地、海、森のあいだの深いつながり」の中で、政治・軍事・金融の諸問題を相対化して視ることを可能にします。そういう視点で、日本は「平和と非暴力を支持する声をあげ、人類共通の課題を解決するために非軍事的な手段を地球上のすべての人々とともに追求する国」になることができることを、自信をもって主張しました。
 アピールでは、太平洋とインド洋にわたる平和地域をつくること、そのために、日本国憲法の「平和的生存権」と中印両国の1955年の平和5原則をもとにして、現在、日本をも巻き込んでいる軍拡競争を止めるために、海洋軍縮交渉を進め、国家の「反テロ戦争」を含む一切のテロリズムをやめ、移住者・難民の不寛容な取り扱いをなくし、新自由主義経済などの格差拡大・少数者排除に反対して、先住民族などの地域諸社会の知恵を生かす、共生の「もうひとつの世界」をつくることを提案しました。
 このアピールは、太平洋・インド洋だけでなく、現在地球全体で深刻化している南北問題を直視する提案です。この提案を支えるものとして、「もう一つの日本」をどうしても浮き彫りにせざるを得ないのです。実は、これは日本国憲法前文からそのまま導き出されることでもあります。

 「もう一つの日本」についてのそういう自信の根拠になっているのは、日本など枢軸ファシスト政権敗北から70年の歴史です。日本は軍事力を撤廃して、二度と植民地侵略をしないと世界に約束しました。そうすることで、植民地支配をした「ウェスト(西の諸国)」(今日「北」と呼ばれている先進工業諸国)と、植民地にされた「レスト」(今日「南」と呼ばれている、残りの国々)の間の和解への貢献の道が開かれたのです。今アジアからアフリカにかけての民衆は、人間としての安全が脅かされています。日本は、テロ戦争に加わるのではなく、「南北問題の解決に貢献ができる国」として、太平洋・インド洋における米国による中国封じ込め問題と西アジアにおけるテロ国家間の争いに対処すべきです。「もう一つの日本」は、ただ「戦争をしない国」であるだけでなく、「戦争をさせない世界」、「テロのない世界」を創るための努力をする国でなければなりません。

 今回の安保法制反対の広がりは、市民参加民主主義の動きそのものでした。また、沖縄の翁長知事が国連・人権委員会で問題提起したことは民族の自己決定権の主張です。沖縄県での辺野古反基地闘争、各地域での原発再稼働に反対する動き、若者の生活権をかけた動きなどをみても、「もう一つの日本」はすでに次第に形を浮き彫りにし始めています。
 ピースボートでわたくしが探し始めた「青い鳥」は、すでに日本列島各地で羽ばたき始めているのです。広い、美しい海の上で、私は改めてそのことを確認したのでした。

注:文中のアピールについては、
http://peaceboat.org/9328.html
http://peaceboat.org/9175.html