1990 80J 国際連合平和協力法案についての要望

1990年11月6日

 わが国が国際連合に協力し、国際の平和と安全の維持のために国際的な責任を果たす必要があることは申すまでもありません。しかし、現在国会に上程されております国連平和協力法案については、重要な点に疑義があり、国民の意向を尊重し、ご考慮いただくように要望いたします。

 とくに問題となるのは、法案の第三条の一号において、国連決議に基づく場合だけでなく、「国連決議の実効性を確保するため」、「国際連合加盟国その他の国」が行う活動も、「国際の平和及び安全の維持のための活動」とされ、それについてもわが国が協力
し、平和協力隊を派遣することとされ、しかも、その平和協力隊に自衛隊が部隊などとして参加することを認めるとしていることであります。どのような措置が具体的に「国連決議の実効性を確保するため」のものとされるかについては何ら限定がなく、拡大解釈がなされる可能性があり、現に国会における政府側の答弁では、現在中東湾岸に派遣されている多国籍軍の軍事行動も、国際連合の経済制裁決議の「実効性を確保するため」のものと解釈されているかの印象を強く受けます。そうした多国籍軍の軍事行動に、自衛隊が「平和協力隊」として協力することは、たとえ後方支援だとしても、従来政府が憲法第九条の下において認められないとしていた集団的自衛権の行使にあたるとみざるをえないわけであって、これまでわが国が堅持してきた基本方針の重大な変更をもたらすものであります。

 法案の第三条の二号には、「平和協力業務」として、「停戦の監視」や、「紛争終了後の議会の選挙住民投票等の監視又は管理」などがかかげられていますが、これらは国際連合が最近重視しているいわゆる「平和維持活動」(PKO)にかかわるものであって、国連中心主義をとるわが国としてこの種の国際連合の活動には積極的に参加し、国際的な責任を果たすことがぜひ必要であると考えます。しかし、この種の活動は戦闘を目的としない非軍事的な業務であって、軍事的に訓練をうけた自衛隊を参加させることは適当ではなく、そのための平和協力隊の構成については、自衛隊をそのまま移行するのではなく、別途考慮されますことが適当であると考えます。

 以上、法案の問題点についてわれわれの見解を述べ、ご再考を要望する次第であります。

1990年11月6日

世界平和アピール七人委員会
田畑 茂二郎
井上   靖
関屋 綾 子
隅谷 三喜男
内山 尚 三
久保 亮 五

内閣総理大臣 海部俊樹殿