われわれが恐れた湾岸戦争は、イラクへの経済封鎖をこえて遂に戦争に突入し、しかも長期化の様相を呈している。そのような状況の下で、日本経済はアメリカに対し、多国籍軍のための90億ドルに上る追加援助を約束し、さらに難民輸送などを名目として自衛隊機を派遣しようとしている。
たとえ難民輸送を目的とするとしても、自衛隊機を戦場付近に送ることは、これを契機として自衛隊の海外派兵に途を開く恐れがないとはいえない。それを危惧する声は、アジア諸国で急速に高まっている。そのような重大な結果を伴う措置を、法律の改正によらず、自衛隊法施行令の拡大解釈という姑息な手段によって実施しようとするのは、議会制民主主義の精神を踏みにじるものであり、われわれは容認することができない。
これに加えて、90億ドルの支出は、その名目が何であれ、実態は戦争の当事者の一方に対する経済的支援であり、日本はこれによって実質的に戦争に参加することになる。そのためイラクのみならず、アラブをはじめ広くイスラムの人々からも、日本はアメリカを中心とする多国籍軍の側に立つ敵対国と見なされるようになり、非難の対象となっている。それは今後平和解決に向けて努力する上で、日本自身の立場を著しく困難にするといわなければならない。
このように大きな影響を持つ重大な事態に対し、日本の世論、あるいは国会の議論は、昨年秋の国連平和協力法案の場合と比べ極めて低調のように見受けられる。すでに戦争状態に入った以上、これに反対することはもはや意味がないとして手をこまねくことは、われわれ日本国民が太平洋戦争に突入していく過程で取った姿勢と同じであり、その過ちを今日再び繰り返してはならない。
われわれは戦争支援のために90億ドルを支出するのではなく、戦後の被害復旧、世界の友好関係回復のためにこそ、必要な資金の提供を約束すべきではないか。難民輸送のためには、自衛隊機ではなく、民間航空機などを活用する途も開かれている。日本は平和国家として、戦禍を拡大する地上戦への突入に反対し、戦争の早期終結を訴え、国連安全保障理事会などで平和交渉の推進に努め、平和解決に向け全力を傾けなければならない。
1991年2月14日