1996 82J 包括的核実験禁止条約(CTBT)の年内締結と核兵器禁止条約の早急な審議開始を

1996年5月25日

 包括的核実験禁止条約(CTBT)は、核兵器の廃絶に向けての第一歩として、国連の創設以来全世界が待ち望んできた核軍縮処置であります。幸い、冷戦の終結と軍縮を求める国際世論の高揚を背景に、最近急速にこの条約終結の機運が高まり、1994年以来国連軍縮会議(CD)での審議がジュネーブで続けられ’、昨年五月にニューヨークで開かれた核不拡散条約(NPT)の再検討・延期会議での決定に従い、CTBTの今年度内の締結を目指して最終案の作成が精力的に進められております。私たちはその努力を多とするとともに、各国が九月から開催される第51回国連総会の切迫に留意し、条約の精神に沿って協調を計り、ぜひとも期限内に合意を達成されるよう切望いたします。

 また、この条約の締結は、あくまでも核兵器の全面的な禁止に向けての確実な第一歩でなければなりません。それを保証するため、私たちは条約の前文に、「この条約は核兵器の廃絶を早急に実現する努力の」環として締結するものである」ことを明記するよう要望いたします。そしてまた、核兵器禁止条約の締結こそ、この条約の締結に引き続く最も重要な課題であることを国際社会が改めて認識し、その審議を直ちに開始するよう求めたいと思います。

 ところが残念ながら現在の公認核保有五力国は、いずれもCTBT成立後もなお核兵器を保有し続ける意図を表明しており、現有の核兵器の保守や点検、安全性の確保、改良などを理由に、条文に抵触しない限り、さまざまな実験や研究を進めようとしております。このような姿勢は、これらの国々がCTBTを支持する真意が核廃絶の追求とは程遠い核拡散の阻止、言い替えれば核兵器の独占的保有の維持に過ぎないのではないかとの疑問を抱かせます。

 核兵器国のこのような政策の背景には、既得権益に固執する軍産複合体などからの強い圧力の存在が感じられますが、さらにその背後には冷戦終結の今なお、残念ながら核兵器の軍事的有用性や核抑止力の必要性を信じる国民や政治家が少なくないという事情
があると思われます。

 しかし、冷戦の終結後、核兵器の軍事的効用や核抑止力の安全保障上の役割は事実上消滅したことを、かつて米ソなどの国防長官や軍事戦略での政府顧問を務めた多くの専門家までが一致して認めております。まして大部分の非核非同盟諸国や、パダウォッシュ会議などの平和を目指す多くの非政府組織(NGO)の間では、「核兵器のない世界」はもはや単なる理想ではなく、近い将来に達成できる極めて現実的な目標とさえ見られております。私たちはすでに化学兵器や生物兵器の禁止条約を次々と成立させました。間近に迫った二十一世紀を文字どおり核兵器の脅威から解放された時代とするために、私たちはまずCTBTの今年内調印を実現し、続いて直ちに核兵器禁止条約の審議を開始すべきであると考えます。そしてその実行を各国に促すためには、核兵器による災害を自ら経験した唯一の国であるわが国が、進んで力を尽くさなければならないとの思いが切であります。私たちのこの思いが日本国民全体の声となることを願って止みません。

1996年5月25日

世界平和アピール七人委員会
京都大学名誉教授    田畑 茂二郎
元日本YWCA会長     関屋 綾 子
東京大学名誉教授    隅谷 三喜男
法政・札幌大学名誉教授 内山 尚 三
前東京芸術大学学長   平川 郁 夫
元日本学術会議会長   伏見 康 治