1965 34J アメリカの北爆に反対するアピール

1965年2月13日

 卒直に申して、世界平和を願う私どもは、最近のベトナム情勢をめぐる容易ならぬ国際的な動きに、深い憂慮の念を禁じえないものであります。

 南ベトナム駐留のアメリカ軍に対する「ベトコン」の攻撃は、一層の激しさを加えてきました。一方、北ベトナムに対するアメリカ軍の爆撃が、またしてもくりかえされその規模もひときわ大きくなりました。南北ベトナムの関係は、いま朝鮮戦争の前夜を想わせるものがあります。アメリカに対する中国の態度はさらにきびしいものとなってきました。そして、アメリカと共に平和共存への道を模索していたソ連でさえ、北ベトナム支持の立場から、アメリカに対して強い対立的な態度をとらざるをえないとしています。

 このような事態は、世界の平和をひたすら願う私どもとして、とりわけアジアに住む私どもとしまして、心配にたえぬところであり、これをいくら強調しても強調しすぎるということはありません。ことに、私どもの最も怖れておりますのは、こうした動きの悪循環と、破局への発展であります。ローマ法王パウロ六世が、人類はふたたび平和の前途を懸念しなければならなくなったといわれたのも、同じような考えからでたものでありましょう。この恐るべき事態の発展だけは、どのようにしてでも閲係諸国において防がなければならないと思います。

 つきましては、今世界において最も巨大な力を持ち、またベトナム情勢収拾の鍵をにぎるアメリカの最高指導者であられる貴下に、ぜひ一、二ご留意をえたいことがあります。その一つは北ベトナムと南ベトナムの「ベトコン」との関係であります。アメリカでは、「ベトコン」に対する北ベトナムの援助がしきりに彊調され、そこに「ベトコン」の力の源泉があるようにいわれていますが、私どもの理解しているところでは、ことはやや違うように感ぜられます。少なくとも、「ベトコン」に対する北ベトナムの軍事援助が、南ベトナム政府に対する貴国の援助にくらべて、兵員や兵器の量と質とにおいて、問題にならないほど小さなものであることは、衆目の一致するところでありましょう。事実、アメリカ軍に対する「ベトコン」の攻撃も主として貴国が南ベトナム政府にあたえられた兵器でなされていると報道されています。

 一方「ベトコン」の全行動は決して北ベトナム政府の指令によって動いているのではなく、基本的には「ベトコン」は独自の動きをし、ことに最近はその傾向がますます強くなっているかに聞いております。しかも「ベトコン」は、南ベトナムの農民の多く、わけても貧農と深く結びついているとも聞いております。ここに、きわめて重要な皿点があろうかと存じます。従って、南ベトナム駐留アメリカ軍への「ベトコン」の攻撃に対しアメリカ軍が北ベトナムを爆撃することは、国際情勢の悪化を強めこそすれ、問題の根本的な解決にならないというのが、私どもの認識であると共に信念であります。

 貴下のご考慮をえたい第二の点は、「ベトコン」の問題、南北ベトナムの関係をも含めて、ベトナムをめぐるすべての情勢は、政治的な話合いでこれを打開するほかに道はなく、軍事力の行使は事態を破局にみちびくか、少なくとも取り返しのつかないほど危
機を深めるであろうということです。

 現在の米中関係をお考えいただけば、この点は最も明らかになると思います。しかもインド、ビルマ、わが日本をはじめとしてアジアのほとんどすべての国々、ソ連、イギリス、フランスその他多くのヨーロッパの国々も、話合いによる問題の解決を求めております。貴国の国民にもこの底流は、必ずしも弱くないように思われます。世界の平和とアメリカの建国の理想を達成したいと願う貴国の友人たちから、私どもも、ベトナム問題の平和的解決をしきりに求める手紙を数多くいただいています。無論、話し合いの方式は一九五四年のジュネーブ会議その他いろいろあることで、その最もよい方式は、同会議の共同議長国であったイギリスやソ連を通じて関係諸国間できめてもよいでありましょう。それより当面最も重要な一点は、これ以上の軍事力の行使を即刻やめられ軍事の行使から政治的な話し合いへとはっきりと方向を切りかえることだと存じます。貴国政府としては、従来の行きがかりもあり、また貴国内の空気もあることで、これはたしかに勇気を要することかと考えられます。しかし、それであればこそ私どもは、失礼をもかえりみず、あえて貴下に直接訴えるわけであります。世界の平和のために、アジア情勢の正常化のために、また特に私どもが信じているアメリカのイメージのためにも、貴下の勇気と決断とを心から願うものであります。

1965年2月13日

世界平和アピール七人委員会

ジョンソン米大統領殿