今月のことばNo.45

2020年4月16日

新型ウイルスの統計が語ること

池内 了

世界中で新型コロナウイルスの感染者の増加が止まらず、日本でも大都市を中心として感染者が急増しており、いよいよ緊急事態宣言発令がせまってきた。
知り合いの飽本一裕氏(帝京大学名誉教授)から新型ウイルスの感染者数や致死率など
のグラフを定期的に頂いている。そのグラフの一つは、横軸に一月二〇日からの日付、縦軸に「対数」で新型ウイルスへの累積感染者数(感染した患者の総数)を表示したものである。「対数」表示とは、一目盛りごとに1、10,100・・・という風に10の倍数で増える表示で、小さな数から大きな数までを一枚で表示できる。このグラフで右肩上がりの直線で表示される場合が指数関数的増加と(ネズミ算式・幾何級数的とも)呼ばれる。
累積感染者数のグラフを見ると、感染爆発が起こったヨーロッパ諸国はようやく落ち着き始めているが、アメリカは依然として右肩上がりの直線の傾きが大きく(約五日で一〇倍)、これに対し中国や韓国では一定(横軸と平行)となっていて感染抑制に成功していることがわかる。
特異な変化を示しているのが日本で、感染者数が欧米諸国より一~二桁少なく、右肩上がりの直線が続いていて指数関数的増加なのだが、その傾きは有意に小さい(約三〇日で一〇倍)ことである。しかし、オリンピックの延期が決定された三月二四日前後から直線の傾きが大きくなり始めており、特に東京の増加は急速で感染爆発が近づきつつあることを予感させる。
日本の感染者数が少ないのは、手洗いなど日常の衛生レベルが高く、専門家会議が採用しているクラスター潰しが功を奏しているとともに、PCR検査数を低く抑えてきたことで理解できる。二三日まで検査を一日に一五〇〇件程度に抑えていたのが、二四日から二〇〇〇件、四月に入って三〇〇〇件へと増やしているが、長く非常に少なかったことだ。その結果として、検査した人の約三%が感染していて、一日の検査数が一五〇〇件の時は新規の感染者数が四五人程度の割合で増えていたのが、二倍の三〇〇〇件検査を増やして約九〇人の新規感染者が出るようになった。つまり、最初から検査を増やしておれば感染者数はもっと増えており、直線の傾きも急になっていたはずなのだが、検査数を抑制してきため、感染者数の増加も人為的に抑えられてきたのである。
このことから、日本では感染はしているが検査を抑制してきたため、感染したことを自覚せず、「隠れ感染者」と言うべき人が多数いると推定される。実際、大都市を中心に、「感染経路を追えない感染者」の増加が報告されているのがその状況証拠である。感染者数は公表数の数倍いることは確かで、「日本はまだ持ちこたえている」とは決して言えないのだ。
むろん、重症の感染者も増加しているはずで、新規感染者が増えているだけ致死率は下がりつつあるが、それでもドイツや韓国に比べて有意に高い。日本の致死率は、重症になってからやっと感染が確認されて亡くなった人が多く、感染者とされないまま亡くなって通常の肺炎とされている人が多いはずで、今の数値が下限値なのである。
感染者数を少なくして医療崩壊を遅らせる専門家会議の方策は「成功」してきたと言えるが、その間に医療体制の充実を図ることが目的ではなかったのか。それは政治の役割だが、果たして非常事態宣言で改善されるのであろうか
(以上、四月六日記)