今月のことばNo.6

2015年2月25日

「軍学共同」が進みはじめている

池内 了

最近、私が熱を入れて取り組んでいる課題は「軍学共同」に関わることである。安倍政権になって特に加速的に進みはじめたこともあって、広く反対運動を組織する暇もないうちに既成事実がつくられていく気配が濃厚で、実は少し焦っている。

発端は、2013年12月に閣議決定された「平成26年度防衛大綱」に、「大学や研究機関との連携の充実により、防衛にも応用可能な民生技術(デュアルユース技術)の積極的な活用に努める」と書かれたことである。いかなる科学・技術の成果も民生利用と軍事利用の両面に利用可能(デュアルユース)であることは、軍事目的で開発されたさまざまな技術が民生利用されて(いわゆるスピンオフして)社会に広く行き渡っていることを見れば明らかだろう。しかし、アジア太平洋戦争中に軍事研究に勤(いそ)しんだ歴史を反省して、軍事目的のための研究を行なわないことを日本学術会議が1950年と1967年に二度まで決議してきたように、日本では公式には軍学共同が行われてこなかった。これは世界的に見ても珍しいことで、憲法第9条と並んで誇るべき伝統であったと言うべきなのだが、それが覆されそうになっているのだ。

既に軍学共同が具体的に行われているのが防衛省技術研究本部と大学・研究機関との間で行われている「共同研究」で、2006年に開始されて2012年までは1年に1件程度であったのが、2013年に4件、2014年には7件と急増している。そして実際に、航空宇宙研究開発機構との「宇宙空間での2波長赤外線センサの実証的研究」が2014年度から自衛隊の装備として予算化され、2015年には48億円が計上されているのである。それだけでなく、情報通信研究機構との共同研究「サイバーレンジの構築等に関する研究」も自衛隊の予算書に書かれているのだ。

さらに、防衛省が2015年から「安全保障技術研究推進制度」と名付けた競争的資金制度を発足させ、軍事利用できる技術開発を目的とした大学や研究機関の研究者への研究費の支給を決定した。研究費不足に悩む研究者が多い状況につけ込んでの制度と言えるだろう。このような資金が大学に入るようになると、公開できない秘密研究が堂々と行われるようになるだけでなく、軍事研究に動員される学生への悪影響が心配される。

何より、私は科学への市民の信頼感が薄れていくことを強く危惧している。