2025年12月29日
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 髙村薫 島薗進 酒井啓子
日本では核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」との非核3原則が1967年に佐藤栄作首相によって表明され、1971年から度重なる国会決議によって、この原則が国是とされてきた。しかるに、核兵器持ち込み、核兵器共有、独自の核兵器保有など核兵器への依存を強める考えを唱える複数の政治家があらわれるに至っている。その中で、高市早苗首相に対し安全保障政策に意見具申をする立場の首相官邸幹部が、「日本は核兵器を保有すべきだ」と報道陣に対して12月18日に述べたと報じられた。
この発言に対して厳しい抗議の声が続き、国外からも批判が出されている。国外からは、日本が原子力発電所の使用済核燃料から再処理によって取り出したプルトニウムを40トン以上所持していることに対して、核兵器保有への意図があるのではないかとかねてから危惧が持たれてきた。今回の発言は、日本政府が核兵器禁止条約に距離を取り続けていることと併せて、国際的な危惧を著しく強めるものになる。それにもかかわらず、この報道を当事者は取り消しておらず、首相も沈黙を続けている。沈黙は否定しないという意思を表すものととらえられている。
日本では、広島・長崎への原爆による残虐な被害、ビキニ核実験による広範囲な被ばく被害を経験し、今後世界のどこであっても絶対に核兵器が使われてはいけないという決意が共有されてきた。世界を見れば、核兵器禁止条約が発効し、署名国が95、批准国が74に達している。しかし一方で、核兵器保有国と核の傘といわれる拡大抑止政策に依存する日本を含む国々もある。ここでよく考えてみれば、「核兵器は安全を保障するのであって、いかなる場合であっても使用することがない」というのであれば、核兵器を保有する意味は完全になくなるのである。したがって、核兵器に依存する政策は核兵器使用を認めることなのである。これは絶対に許すことはできない。核兵器禁止条約の内容は、先入観を持たずに読めば、日本の大多数の国民が希求してきた考えと完全に一致している。
日本は、核依存からの脱却を目指すという姿勢を後退させるべきではない。非核三原則は、留保なく明確に守らなくてはならない。核兵器禁止条約への参加を目指すべきである。
戦後80年といわれた1年が終わろうとしている2025年は、広島・長崎への原爆投下と国連発足から80年、核兵器と戦争の廃絶を訴えたラッセル-アインシュタイン宣言や同様の趣旨でノーベル賞受賞者の会が翌週発表したマイナウ宣言、そして国連の抜本的改革を提案した私たちの世界平和アピール七人委員会発足から70年の年であった。
残念なことに、地球上では現在も非戦闘員にまで甚大な非人道的被害を与える戦火がなくなっていない。核兵器禁止条約が発効したにもかかわらず、ほかの大量破壊兵器禁止と異なり核兵器は公然と保有されている。すでに述べたように、核兵器を抑止力として安全を保障しようという国も存在している。対人地雷など戦後の長期間にわたり被害を与え続ける非人道兵器も、禁止条約が存在するにもかかわらず、なくなっていない。1977年のジュネーブ諸条約第1追加議定書(56条)によって、ダム、堤防、原子力発電所のように攻撃の対象にすることが禁止されている施設の戦場化も行われている。力の行使と威嚇によって世界に君臨しようとする大国が、地球に暗い影を落としている状況が続いている。
戦後に発足した国連の理念を提示した国連憲章は、20世紀の二つの世界大戦を踏まえて、「言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い」、「武力を用いないことを原則の受諾と方法の設定によって確保」するとその前文に記している。「国際の平和及び安全を確保すること」、「国際的の紛争又は事態の調整又は解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること」が国連の目的であり、「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない」とも述べている。こうした国連憲章の文言は、戦後80年を経た現在も色褪せておらず、人類社会が共有すべき平和の理念を指し示している。
そのうえで日本国憲法を見れば、その理念は国連憲章に一致するのみならず、さらに戦争の放棄、戦力不保持、交戦権を認めないことまでも宣言している。この理念は将来にわたって変更してはならないものである。ところが昨今の日本では、安全保障について安倍政権以来、専守防衛政策を放棄し、日本国憲法から逸脱した反撃能力・敵基地攻撃能力の獲得を掲げ、軍備拡充を政府の政策として執っている。これは国力を疲弊させ、周辺国に軍備増強の口実を与え、武力による威嚇を引き起こすことに繋がるものであり、日本の安全を強化することになっていない。意見が異なる相手であれば、なおさら対話と交流を深め信頼醸成を目指すべきである。
少子高齢化、財政赤字であって、食料・エネルギー自給率の低い日本が軍備強化に走れば、国力が低下することは自明である。脅威を与えなければ、脅威を受けることも減少し、なくなる方向に向かうことは歴史の教訓である。戦後90年に向かう第一歩の新年を迎えるにあたり、国連憲章と日本国憲法に記された平和と、戦後に積み重ねられてきた核兵器に依存しない世界への意思を持続させ強化させることを訴えたい。
PDFアピール文→
168j2.pdf


