2019年7月1日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進
6月下旬、アメリカの複数のメディアはドナルド・トランプ大統領が、日米安全保障条約を不平等だとして破棄する可能性について、さまざまな場で再三言及していることを報じ、日米の政府当局者は直ちにこれを否定した。ところが、G20(主要20か国・地域首脳会議)閉会後の記者会見で記者の質問に答えたトランプ大統領本人は、同条約を破棄するつもりはないが、不平等だとあらためて言明したのである。G20に合わせて行われた日米首脳会談で、安倍晋三首相はいったい何を話し合ったのか。日本として誤解を解く努力もせず、真意も問いたださず、国益を踏まえた主張もせずに済ませてよい問題ではない。日本の根幹をゆるがすこの問題について、首相の口から国民に何も語られないのは、どういうことか。
また安倍首相が米軍基地の実態と沖縄県民の意思をトランプ大統領に伝えた形跡も、一切伝わってこない。米軍駐留経費の受け入れ国負担は、日本が金額でも負担割合でも最大であり、2位以下の他国を大きく引き離している。日米安全保障条約とその第6条に基づく駐留米軍の地位協定は、米国との他の同盟国と比べて、日本にとって著しく不平等になっている。政府は、日本国民が苦しんでいる不平等性の具体的解消に速やかに努めなければならないのに、誤解に基づく対日政策が続くことになる。
北方領土返還交渉においても同様である。安倍首相は、個人的な「信頼関係」で領土交渉の突破口が開けるかのような幻想を振りまいてきたが、4月23日に閣議決定された外交青書から、国是であった「北方四島は日本に帰属する」の文言が突然説明なく削除された。2016年11月には訪ロした谷内正太郎国家安全保障局長が、ロシア側から返還後に米軍基地を置く可能性を打診されて、可能性があると答えたと報じられた。非武装地帯にできないようでは、返還が実現できないのは明らかである。
外交軽視・信頼の不在は朝鮮民主主義人民共和国との関係でも見られる。声高に圧力をかけることを主張していた姿勢からいつの間にか転換し、拉致問題を国際社会に訴えるために2008年からヨーロッパ連合(EU)と共同で国連人権理事会に提出してきた対北朝鮮非難決議案からも説明なく降りてしまった。国内外に誠意のある説明を尽くした上であれば方針変更を理解してもらう可能性があるが、それがないのだから迷走でしかない。
力の強いものに従属することで庇護を得ようとする外交姿勢は、日本の立場を弱めるものである。
国内に目を向ければ、首相は通常国会での予算委員会開催に消極的であったし、年金問題など国民が関心をもつ諸問題を誠実に国民に説明する姿勢を見せなかった。首相が官邸で官庁幹部と面談する際、記録を何ら作成していないことも明らかになった。自らは強者として力を行使しつつ、そのことに責任を負わないというのでは、民主主義国家の政治家として失格であり、人間としての道義に反する。
このような政治は国の未来を危うくする。集団自衛権は放棄し、専守防衛に徹してそれを超える装備を持つことなく、すべての国との自主的な友好関係を積み上げる外交・内政を目指していくことこそが、日本の安全を高めるものである。
来る参議院選挙において、安心して住める安全な日本を創るために、有権者一人一人が熟慮して投票されることを期待する。
PDFアピール文→ 134j.pdf