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今月のことばNo.55

2021年2月10日

ミャンマー総選挙における選挙監視

小沼通二

 世界平和アピール七人委員会は、2月8日に「ミャンマーのクーデターに抗議し、原状回復・民主化促進を求める」、「We oppose the military coup in Myanmar and urge the restoration and advancement of democratization」と題する和英両文のアピールを発表した。これは1955年発足以来145回目のアピールである。
 このアピールは、ミャンマーで2月1日に発生したクーデターの翌日開催された定例委員会において、一委員から提起され、議論された結果、アピール作成作業が開始され、たたき台文案が委員の間に示され、修正・追加が重ねられた結果、病気療養中の一人を除いた6人が合意した結果、今日の発表に至ったものである。
 合意といっても、すべての詳細まで完全にわかっている人はいない。文章化にあたって、できるだけ調査も重ね、問題ないと思って同意するわけだが、気にかかる点が残ってしまうこともある。

 今回のアピールについていうと、2020年11月8日のミャンマー総選挙の選挙監視の実態が私たちには分かっていなかった。私たちが依拠したのは2月2日の朝日新聞朝刊の「国軍は不正があったと異議を唱え続けたが、海外の選挙監視団体は選挙はおおむね公正だったと評価しており、選管も国軍の申し立てを退けた。」という記事だった。そのためアピールでは「海外の選挙監視団体も選挙がおおむね公正だったと評価したと報じられている」と書いた。
 ところが、いささか気にかかったので、アピール発表後になったが調べてみたところ、選挙監視の様子がかなりわかった。

 日本政府は、8月27日に選挙監視団を派遣することを決定した。19人からなるこの監視団は4チームに分かれて47投票所で11月6~9日に監視活動をおこない、9日に外務省から結果が発表された。その結論は「監視団の活動は,時間的にも地域的にも限られたものではあったが,当監視団が得た情報,また,活動中に情報交換した他国の選挙監視団の評価の範囲においては,今次選挙活動,投開票のいずれについても,現時点において,全体として大きな衝突,混乱はなく,概ね平和裡に行われたといえる。」さらに「今次選挙には国内外より合計12,000名以上の選挙監視要員が登録され,ミャンマー各地での選挙監視に従事した。各投票所には,各政党からも監視要員が派遣されており,幅広い関係者により透明性が確保された選挙であったことについては,十分に評価することができる」とされている。

 これだけの情報を持っていて、「(西側諸国で)国軍と話ができるのは日本くらいだ」と政府高官が強調した日本政府が、クーデター前に「不正があったと異議を唱え続けた」国軍の主張を、どうして取り下げさせることが出来なかったのだろうか。
 これを踏まえて私たちは、アピールの不明確な部分を訂正することとした。

2020年11月9日の外務省の発表全文は、
ミャンマー総選挙日本政府選挙監視団の活動結果について|外務省 (mofa.go.jp) 
で読むことができる。

付録 アピール第4項目に関して
(朝日新聞2月2日朝刊第2面)
 「国軍系の複合企業は金融や農業など幅広い事業を手がけ、経済にも強い影響力を持っている。」
 「日本貿易振興機構(JETRO)によると、日本からの進出企業数は11年度末の53社から、20年12月には433社に急増した。」
(朝日新聞2月6日朝刊第6面)
ミャンマー軍系企業と合弁解消へ キリンHD「クーデター、人権反する」:朝日新聞デジタル (asahi.com)

2021 145J ミャンマーのクーデタ―に抗議し、原状回復・民主化促進を求める

2021年2月9日

このアピールには英文版があります。
英文アピールはこちら

アピール WP7 No.145J
2021年2月8日 9日改定
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進

 ミャンマー国軍は、2月1日朝 アウンサンスーチー国家顧問、ウィンミン大統領らを拘束し、国家権力を掌握したと宣言した。この日は、2020年11月の総選挙で、スーチー氏らが1988年に結成した国民民主同盟(NLD)が大勝し、国軍系の連邦団結発展党(USDP)が大敗したあと初めての国会の召集日だった。
 選挙監視団を派遣した日本政府による選挙翌日の発表では「監視団が得た情報,また,活動中に情報交換した他国の選挙監視団の評価の範囲においては,今次選挙活動,投開票のいずれについても,概ね平和裡に行われたといえる。」さらに「今次選挙には国内外より合計12,000名以上の選挙監視要員が登録され,各投票所には各政党からも監視要員が派遣されており,幅広い関係者により透明性が確保された選挙であった」とされている。
 それにもかかわらず、国軍とUSDPは選挙に不正があったとして繰り返し調査を求めた。選挙管理委員会はこの申し立てを却下した。
私たちは、ミャンマー国軍が選挙結果を認めずに大統領、国家顧問たちを拘束し、報道の自由を否定し、報道規制を強化していることを認めることができない。

1 ミャンマー国軍が、すべての拘束者を直ちに無条件で釈放することを求める。
2 ミャンマー国軍は、すべての報道規制を撤廃し、報道の自由を保障すべきである。
3 日本政府は、ミャンマー国軍にミャンマー総選挙結果の尊重と原状回復を求め、ミャンマーの民主化促進に向けて最大限の努力をすべきである。
4 経済支援を進めてきた日本の企業は国軍系の企業と提携している場合、提携先を変更して民主化に貢献すべきである。

2021年2月9日改定
選挙監視団を派遣した日本政府による選挙翌日の発表では「監視団が得た情報,また,活動中に情報交換した他国の選挙監視団の評価の範囲においては,今次選挙活動,投開票のいずれについても,概ね平和裡に行われたといえる。」さらに「今次選挙には国内外より合計12,000名以上の選挙監視要員が登録され,各投票所には各政党からも監視要員が派遣されており,幅広い関係者により透明性が確保された選挙であった」とされた。
 それにもかかわらず、国軍とUSDPは選挙に不正があったとして繰り返し調査を求めた。選挙管理委員会はこの申し立てを却下した。

国軍とUSDPは選挙に不正があったとして調査を求めたが、選挙管理委員会は国軍の申し立てを却下した。海外の選挙監視団体も選挙がおおむね公正だったと評価したと報じられている

PDFアピール文→ 145j.pdf

2021 144J 核兵器禁止条約への日本政府の対応の根本的転換を求める

2021年1月20日
アピール WP7 No.144J
2021年1月20日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進

・核兵器禁止条約は51ヵ国の批准を得て1月22日に発効する。日本では、この条約成立のために、被爆者を中心にして多くの国民が、各国のNGOや核実験被曝者と力を合わせて努力を重ねてきた。それにもかかわらず、日本政府は不参加を表明している。
・国連総会への日本政府提出の核兵器廃絶に向けた決議案を見れば、2017年の条約採択後になっても決議案に核兵器禁止条約について記述することがなく、共同提案国数は年々減少し、2020年12月7日の採決を見れば、共同提案国は前年の半減以下となり、可決されたとはいえ、賛成国が10か国減少という結果になっている1)。核兵器に対する方針の根本的見直しが不可欠である。
・さらに、菅義偉首相と就任後のバイデン新大統領との初の首脳会談で、日本政府が両首脳の共同声明に米国の核兵器で日本の防衛に当たることを明記するよう求める方向で調整に入ったことが1月3日に分かったと報じられている2)。これでは、菅首相が言う「立場の異なる国々の橋渡し」との整合性がとれず、世界の潮流に完全に背をむけることになる。

・米国のバイデン新大統領は、オバマ政権の副大統領退任直前の2017年1月11日に「米国は核兵器のない世界を目指し核兵器の役割を減らす必要がある」と8年間の核政策を総括しているのである3)。これでは日本政府が米国の新政権の足かせになる可能性を否定できない。
・ベルギーは北大西洋条約機構NATOのメンバーであり、国内に米国の核兵器が配備されているが、2020年10月1日に発足した7党連立政権が政策協定の中で、核兵器不拡散体制の強化方法と核兵器禁止条約が多国間核軍縮に如何なる新たな推進力を与える方法を調査することを決め、核・非核軍縮に努力することを確認した4,5)。核の傘のもとにある国の核政策にも変化の兆しが表れ始めている。
・1月12日にノルウェー・ピープルズ・エイドが発表した『核兵器禁止モニター2020』には、世界各国の核兵器禁止条約との関係が列記されている5)。日本については、第1条1e項(禁止活動を援助し、奨励し、又は勧誘すること)に違反しているとしているが、今のままでの締結国会議へのオブザーバー参加は国際的な立場から見ても可能であることが明記されている。
・私たちは、核兵器をいかなる条件のもとでも明白に否定する日本国民の大多数の考えに沿うよう、日本政府が締結国会議へのオブザーバー参加をおこない、核兵器禁止条約の署名・批准に向けて核政策を根本から転換することを求める。


1) 東京新聞 2020年12月8日 国連総会 日本提出核廃絶決議
https://www.tokyo-np.co.jp/article/73177
2) 産経新聞 2021年1月3日 《独自》「核の傘」日米共同声明に明記へ 首脳会談に向け、政府調整 – 産経ニュース (sankei.com)
3)  中国新聞 2021年1月8日 核なき世界追求 バイデン氏言及 副大統領時の演説 新政権控え注目 | ヒロシマ平和メディアセンター (hiroshimapeacemedia.jp)
U.S. Vice President Joe Biden on Nuclear Security – Carnegie Endowment for International Peace 2017年1月11日
4)  ベルギー連立政権 連立協定「繁栄し、連帯し、持続可能であるベルギーのために」 2020年9月30日 「III 安全な国家」の「2 防衛」の中で、核兵器禁止条約を評価。協定全文 Pour une Belgique prospere, solidaire et durableは以下の報告書にある。
20200930 Rapport des formateurs def (bx1.be)
5)  Nuclear Weapon Ban Monitor 2020 2021年1月12日
Nuclear Ban Monitor | Nuclear Weapons Ban Monitor

PDFアピール文→ 144j.pdf

2020 143J 核兵器禁止条約批准50か国達成を祝す

2020年10月25日

このアピールには英文版があります。
英文アピールはこちら

アピール WP7 No.143J
2020年10月25日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進

2017年に採択された核兵器禁止条約の批准国数が50に達し、90日後の条約効力発生が確定したことを、私たち世界平和アピール七人委員会は心から喜び、これまで営々と核兵器反対の声を上げ続けてきた世界の人々に祝意を表明したい。

核兵器は、広島・長崎以来、世界各地で多数の命を奪い、被爆者の苦しみは今日なおも続いている。核兵器は保有国によって実戦配備され、実際に使用される危険性が存在し続けてきた。それが今や化学兵器・生物兵器と共に法的に禁止される世界が実現することになった。核抑止も、核兵器に依存するものであり、平和への道でなく、非人道的政策である。

私たちは、日本を含めた未参加の国の政府に対して、これまで以上に強く参加を促し、世界の潮流に沿って核兵器のない世界に向けてともに歩むことを求めていく。

PDFアピール文→ 143j.pdf

2020 142J 日本学術会議会員の任命拒否は許容できない

2020年10月7日
アピール WP7 No.142J
2020年10月7日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進

日本学術会議(以下学術会議と略)は、2020年10月1日から3年間の新しい期(第25期)を開始した。10月2日の総会第2日に菅義偉内閣総理大臣に「推薦した会員候補者が任命されない理由」の説明を求め、「推薦した会員候補者のうち、任命されていない方について、速やかな任命」を求めることを決定して要望書を提出した。
これは、学術会議が日本学術会議法に基づいて手順を重ねて105人の新会員候補を8月末に推薦したのに対し、内閣総理大臣が6人を外して任命し、除外の理由の問い合わせに答えないことが判明し、科学者の間だけでなく社会的に大きな批判の波紋が広がっているのに、「判断を変えることはない」と強弁し続けていることに対するものである。
私たちはこの要望書を支持する。

学術会議は、日本学術会議法によって規定された、わが国の科学者を内外に対して代表する機関であり、科学の発展を図り、我が国の行政や産業、社会に科学を反映浸透させ、政府や社会に対して助言や提言を行なう役割を担っている。首相の所轄ではあるが「独立した機関」として職務を行なうものとされ、自律性を担保するため、会員はあくまで学術会議の「推薦に基づいて」内閣総理大臣が任命することが定められている。
今回の首相による恣意的な会員任命拒否は、日本学術会議法と明白に矛盾し、選挙制度から推薦任命制度に法律改定された際の「人事に介入しない」旨の国会答弁とも合致しない。
首相は、「(会議の)総合的、俯瞰(ふかん)的活動を確保する観点から」人事を判断したと述べたが、これは説明になっていない。学術会議による会員の選考推薦は、規則に従ってさまざまな学術分野、地域、ジェンダー、経歴、能力特性等を考慮し、まさに総合的・俯瞰的な観点から責任をもって行われており、この人選は政治家や官僚によってなしうるものではない。
学術会議は、「科学者の代表機関」の重みと社会に対する責任を一層自覚し、外部の声にも耳を傾け、自ら改革を重ねていかなければならず、それは必ず可能であると考える。
今回の人事介入のようなことがまかり通れば、学問の自由だけではなく、思想・良心の自由や表現の自由も脅かされる。どんな命令でも、理由は聞かず黙って従えというのであれば、社会は委縮し、多様性は失われ、全体主義国家に向かいかねないので、けっして容認できるものではない。

PDFアピール文→ 142j.pdf