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2021 148J 人命尊重のコロナ政策最優先への根本的転換を

2021年8月28日
アピール WP7 No.148J
2021年8月28日
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進

新型コロナウイルス感染症蔓延拡大による医療崩壊の最大の責任は政府にある。政府は何よりも人々のいのちを守ることを目指し、医療崩壊の解消のために全力を尽くすべきである。ワクチン接種の促進だけでなく、PCR検査の拡大と治療体制の拡充のためにも資源を回すべきである。それによって、感染者が重症化したり死亡したり後遺症に苦しんだりすることがないように最大限の措置をとるとともに、陽性未発症者の発見と陰性者との分離を進めて、拡大の繰り返しを速やかに断ち切ることを強く求めたい。
科学的な知見に基づいて政府に助言をすべき専門家たちは、警鐘を鳴らす発言もしてはいる。だが、2020年の3月以来、政府に助言する立場にいた専門家が政府の意を汲んでPCR検査抑制の方向を維持したことで、感染拡大防止の基本的な対策がとれない状況を招いてしまったことへの反省が未だになされていない。その結果、日本では今でも検査数の不足が続いている。専門家は、政府の政治的配慮に基づく諮問内容に答える立場にとどまらず、科学的な知見に基づいて政府とは独立した情報発信を行うとともに、政府に対していのちを守ために行うべき施策についての科学的助言を積極的かつ強力に発し続けるべきである。

七月以来の感染拡大第五波において、発症者で入院を必要とする多くの人たちが、入院できず自宅療養へと追い込まれている。新型コロナウイルス感染症に罹患した妊婦が、入院先が見つからずに自宅での早産を余儀なくされ、生まれたばかりの赤子が死亡するという事例も報道された。自宅療養中に容体が悪化しても必要な医療措置を受けることができずにいのちを失う人、救急車を呼んでも患者の収容先が見つからず長時間を無為に過ごして自宅に戻される事例などが相次ぎ、保健所や医師・看護師からの連絡がとどこおり、家庭内感染も発生し、多数の患者と家族が不安をかかえている。
このような状況にあるにもかかわらず、政府は「自宅療養」を主軸とする対処で乗り切ろうとして、とりあえず応急的な対処ができる医療施設を設けることもほとんど行っていない。政府は公助の責任を放棄しており、その結果として助けることができるはずのいのちを助けられない医療崩壊が、東京、大阪やその周辺をはじめ、各地へ広がりつつあるという事実を直視しなければならない。
政府が現在最重要と位置付けるワクチン接種も、ワクチン供給が間に合わず、接種の円滑な続行に水を差された状態である。この中で強行されたオリンピックやパラリンピックによって、住民のコロナ感染症治療に回すことができる資源を減らし、医療崩壊を加速してしまった。国民の祝祭感を刺激したことも、コロナ感染への危機感や自粛意識を緩めることにつながったことは確かであろう。
政府は、感染の機会を減らすための人流削減の実効ある措置を打ち出すことができないでいる。政府には人命を守るという姿勢が希薄だと言わざるをえない。

再度繰り返す。政府は何よりも人々のいのちを守ることを目指し、医療崩壊の解消のために全力を尽くすべきである。

PDFアピール文→ 148j.pdf

2021 147J 人権尊重を! 出入国管理政策の抜本的改革を求める

2021年6月8日
アピール WP7 No.147J
2021年6月8日
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進

法務省・出入国在留管理庁(入管庁)の人権侵害は、従来からさまざまに指摘されてきた。入管庁は、難民申請者を母国への送還を免れるために難民申請や在留延長申請を繰り返す不法滞在者だとし、彼らを施設に長期「収容」し、母国へ強制送還する例が度々生じてきた。収容施設でほぼ毎年複数の死亡者が出ているという事実は、日本の入管制度が収容者に過酷な状況を強いている証拠と言わざるを得ない。

入管制度をより厳格なものへ変えようとする出入国管理及び難民認定法「改正」案が審議されているさなか、スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が3月に名古屋出入国在留管理局の収容先で亡くなった。ウィシュマさんに面会していた支援者は「面会をするたびに体調が悪化していた」と述べ、「すぐに入院させるべき」と何度も申し入れたが、職員は拒否し続け死を迎えるに至ったと証言している。

この状況が国際的な人権基準を満たしていないことは明白である。3月末、国連人権理事会の特別報告者と恣意的拘禁作業部会は、日本政府の入管政策を厳しく指弾した。日本政府の人権に配慮する意識が著しく低いことが国際的な批判を浴びたのであった。「姉は大好きな国で亡くなった。姉のビデオと最終報告書を見せてほしい」とウィシュマさんの二人の妹は涙ながらに訴えたが、入管側は「調査中」を繰り返すのみである。母親のスリヤラタさんも「娘は動物でなく人間だ。入管はなぜ『点滴して』と言ったのにしなかったのか。原因が知りたい。警察に捜査してほしい」と訴えている。

2019年のデータでは、日本国内で難民申請を行った外国人は1万375人に上ったが、実際に認められた事例はわずか44人で、認定率は0.4%に過ぎない。同年のOECD諸国の難民認定率が10%を軽く超えていることと比べると圧倒的に低い。日本政府は安上がり労働力としてしか外国人を受け入れておらず、外国からの移住者の人権を尊重する制度と思想が根本的に欠如している。そして、そのことが国内でよく認識されていない。

入管庁の権限を強化するための法改正に対する反対運動が広がり、とりわけ若者が立ち上がって声を挙げ、廃案に追い込んだ。若者を鼓舞した人権意識の高まりが社会に勇気を与えるものとなった。私たちは、これまでの外国人に冷たい受け入れ制度を根本的に改め、真に人権を尊重した出入国管理政策へと転換するよう日本国政府に強く求めたい。

PDFアピール文→ 147j.pdf

2021 146J 今夏の東京オリンピック・パラリンピックは開催すべきでない

2021年4月20日
アピール WP7 No.146J
2021年4月20日改定
世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進

開会式まで100日以内になり、オリンピック・パラリンピックの日本代表選手全員の最終的な決定をすべき時期となり、聖火リレーも始まった。ところが代表選考ができていない種目では、代表を過去の成績で決めるという異例のことが起きている。聖火リレーでは公道でない場所で関係者だけで形ばかりを行ったことにする府県が出始めている。
これは、新型コロナウイルス感染症COVID-19とその変異種の感染まん延が急速に広がっているためである。政府は、「まん延防止等重点措置」を次々に指定しているが、感染拡大に歯止めがかかっていない。政府が委嘱した専門家が科学的データに基づいて第4波到来とみているのに、政府は科学の軽視・無視を繰り返している。ワクチン接種は遅れていて、変異種に対する効果も解明中で結論に達していない。検査体制も広げられないままである。
国内の医療体制は、すでに限界を超えた地域がではじめており、必要不可欠な病床・医療関係者の確保もできていない。世界の感染状況を見ても、ワクチン接種は進んでいるものの、依然として各地で感染拡大が続いていて収束に向かっていない。
1万5000人という選手、その他審判、役員、スポンサーが世界の感染まん延地からまん延状態が急速に拡大している日本に集まり、非常に多くの大会ボランティアを動員する渦中において、市民と接触させないでオリンピック・パラリンピックを安全に行える実効案は何ら示されていない。オリンピックを開催するとすれば多くの医療関係の人員や資源をさかなくてはならないが、それが国内の医療従事者のいっそうの過重負担を招くことは明らかである。そうなれば人命を犠牲にした開催となる可能性が十分にあるが、それは言うまでもなく平和の祭典であるはずのオリンピック・パラリンピック開催の趣旨に合致しない。
リスクが否定できない以上、安全の側にたって、今夏の東京オリンピック・パラリンピックを行わないという決定を速やかに下すのが当然である。

PDFアピール文→ 146j.pdf

今月のことばNo.55

2021年2月10日

ミャンマー総選挙における選挙監視

小沼通二

 世界平和アピール七人委員会は、2月8日に「ミャンマーのクーデターに抗議し、原状回復・民主化促進を求める」、「We oppose the military coup in Myanmar and urge the restoration and advancement of democratization」と題する和英両文のアピールを発表した。これは1955年発足以来145回目のアピールである。
 このアピールは、ミャンマーで2月1日に発生したクーデターの翌日開催された定例委員会において、一委員から提起され、議論された結果、アピール作成作業が開始され、たたき台文案が委員の間に示され、修正・追加が重ねられた結果、病気療養中の一人を除いた6人が合意した結果、今日の発表に至ったものである。
 合意といっても、すべての詳細まで完全にわかっている人はいない。文章化にあたって、できるだけ調査も重ね、問題ないと思って同意するわけだが、気にかかる点が残ってしまうこともある。

 今回のアピールについていうと、2020年11月8日のミャンマー総選挙の選挙監視の実態が私たちには分かっていなかった。私たちが依拠したのは2月2日の朝日新聞朝刊の「国軍は不正があったと異議を唱え続けたが、海外の選挙監視団体は選挙はおおむね公正だったと評価しており、選管も国軍の申し立てを退けた。」という記事だった。そのためアピールでは「海外の選挙監視団体も選挙がおおむね公正だったと評価したと報じられている」と書いた。
 ところが、いささか気にかかったので、アピール発表後になったが調べてみたところ、選挙監視の様子がかなりわかった。

 日本政府は、8月27日に選挙監視団を派遣することを決定した。19人からなるこの監視団は4チームに分かれて47投票所で11月6~9日に監視活動をおこない、9日に外務省から結果が発表された。その結論は「監視団の活動は,時間的にも地域的にも限られたものではあったが,当監視団が得た情報,また,活動中に情報交換した他国の選挙監視団の評価の範囲においては,今次選挙活動,投開票のいずれについても,現時点において,全体として大きな衝突,混乱はなく,概ね平和裡に行われたといえる。」さらに「今次選挙には国内外より合計12,000名以上の選挙監視要員が登録され,ミャンマー各地での選挙監視に従事した。各投票所には,各政党からも監視要員が派遣されており,幅広い関係者により透明性が確保された選挙であったことについては,十分に評価することができる」とされている。

 これだけの情報を持っていて、「(西側諸国で)国軍と話ができるのは日本くらいだ」と政府高官が強調した日本政府が、クーデター前に「不正があったと異議を唱え続けた」国軍の主張を、どうして取り下げさせることが出来なかったのだろうか。
 これを踏まえて私たちは、アピールの不明確な部分を訂正することとした。

2020年11月9日の外務省の発表全文は、
ミャンマー総選挙日本政府選挙監視団の活動結果について|外務省 (mofa.go.jp) 
で読むことができる。

付録 アピール第4項目に関して
(朝日新聞2月2日朝刊第2面)
 「国軍系の複合企業は金融や農業など幅広い事業を手がけ、経済にも強い影響力を持っている。」
 「日本貿易振興機構(JETRO)によると、日本からの進出企業数は11年度末の53社から、20年12月には433社に急増した。」
(朝日新聞2月6日朝刊第6面)
ミャンマー軍系企業と合弁解消へ キリンHD「クーデター、人権反する」:朝日新聞デジタル (asahi.com)

2021 145J ミャンマーのクーデタ―に抗議し、原状回復・民主化促進を求める

2021年2月9日

このアピールには英文版があります。
英文アピールはこちら

アピール WP7 No.145J
2021年2月8日 9日改定
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進

 ミャンマー国軍は、2月1日朝 アウンサンスーチー国家顧問、ウィンミン大統領らを拘束し、国家権力を掌握したと宣言した。この日は、2020年11月の総選挙で、スーチー氏らが1988年に結成した国民民主同盟(NLD)が大勝し、国軍系の連邦団結発展党(USDP)が大敗したあと初めての国会の召集日だった。
 選挙監視団を派遣した日本政府による選挙翌日の発表では「監視団が得た情報,また,活動中に情報交換した他国の選挙監視団の評価の範囲においては,今次選挙活動,投開票のいずれについても,概ね平和裡に行われたといえる。」さらに「今次選挙には国内外より合計12,000名以上の選挙監視要員が登録され,各投票所には各政党からも監視要員が派遣されており,幅広い関係者により透明性が確保された選挙であった」とされている。
 それにもかかわらず、国軍とUSDPは選挙に不正があったとして繰り返し調査を求めた。選挙管理委員会はこの申し立てを却下した。
私たちは、ミャンマー国軍が選挙結果を認めずに大統領、国家顧問たちを拘束し、報道の自由を否定し、報道規制を強化していることを認めることができない。

1 ミャンマー国軍が、すべての拘束者を直ちに無条件で釈放することを求める。
2 ミャンマー国軍は、すべての報道規制を撤廃し、報道の自由を保障すべきである。
3 日本政府は、ミャンマー国軍にミャンマー総選挙結果の尊重と原状回復を求め、ミャンマーの民主化促進に向けて最大限の努力をすべきである。
4 経済支援を進めてきた日本の企業は国軍系の企業と提携している場合、提携先を変更して民主化に貢献すべきである。

2021年2月9日改定
選挙監視団を派遣した日本政府による選挙翌日の発表では「監視団が得た情報,また,活動中に情報交換した他国の選挙監視団の評価の範囲においては,今次選挙活動,投開票のいずれについても,概ね平和裡に行われたといえる。」さらに「今次選挙には国内外より合計12,000名以上の選挙監視要員が登録され,各投票所には各政党からも監視要員が派遣されており,幅広い関係者により透明性が確保された選挙であった」とされた。
 それにもかかわらず、国軍とUSDPは選挙に不正があったとして繰り返し調査を求めた。選挙管理委員会はこの申し立てを却下した。

国軍とUSDPは選挙に不正があったとして調査を求めたが、選挙管理委員会は国軍の申し立てを却下した。海外の選挙監視団体も選挙がおおむね公正だったと評価したと報じられている

PDFアピール文→ 145j.pdf