今月のことばNo.11

2015年6月4日

危ない!

池辺晋一郎

 安倍政権の閣僚や与党議員の発言に、危険な空気を感じる。
 2013年7月、麻生副総理兼財務相。「ワイマール憲法を無効にしたナチスの手法に学べ」
 2013年8月、駐フランス大使の小松一郎が内閣法制局長官に就任という異例の人事が行われた。この地位を、集団的自衛権行使を認める人物へとすげ替えたわけ(小松は翌14年に健康上の理由で退任し、その後6月に死去。その後は、内閣法制次長の横畠裕介が長官に昇格という慣例的人事に戻ったが・・・)。
 この3月19日、参議院予算員会での自民党・三原じゅん子議員。「日本が建国以来大切にしてきた八紘一宇(はっこういちう)の理念のもとに、日本が世界を牽引すべき」
 そして3月30日、安倍首相。自衛隊と他国軍の共同訓練について「わが軍の透明性を上げていくことに大きな成果をあげている」
 以上の日付を、1940(昭和15)年ごろに書き換えても、全くおかしくないと思いませんか。すなわち、軍国主義が大手を振っていたあの時代にあったであろう発言と同類と言って過言でないのだ。

 日本は、「日独防共協定」を1936年にドイツと、翌37年にはイタリアも加わって「日独伊防共協定」を結ぶ。「遅れてきた帝国主義国」「領土拡大(植民地獲得)」の協定と言われた。その後の大戦間におけるこの三国の暴走については、周知のとおり。そして戦後。
 ファシスト政権の清算に関して、イタリアは積極的だった。1946年6月に、国民投票で共和制へ移行する。ついでだが、2011年6月には原発再開について国民投票を実施。投票率は54.79%だったが、何と94.05%が反対。原発再開はストップした。戦後のイタリア憲法にはこんな部分がある──「イタリアは他人民の自由に対する攻撃の手段としての戦争及び国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄する」
 アフガニスタンやイラクへ派兵したのは軍備や交戦権を否定しているわけではないからだが、この憲法、日本に近いではないか。
 戦後ドイツは、ナチの犯罪について、1970年に当時の首相ウィリー・ブラントがワルシャワのユダヤ人慰霊塔の前でひざまづいて謝罪した。現首相メルケルも、06年イスラエルユダヤ人犠牲者に謝罪。09年にはポーランドでブラントと同様にひざまづいた。自らのホームページに「第二次大戦の犯罪について、ドイツには永遠の責任がある」と書いている。

 いっぽう、戦時の近隣国の慰安婦問題について質(ただ)され「私は答えない。官房長官が答える」と言ってダンマリを決め込んだのは安倍首相。前記ブラントやメルケルと、A級戦犯を祀る靖国神社へ参拝する安倍首相との差は、あまりにも大きい。謝罪を自虐的と考える人種に、過去の清算はできない。問題を糊塗し、先送りするのみだ。
 危ない。放置できない危うさだ。日本国民の叡智はこれを許さないと、僕は信じたい。

「空を見てますか 第963回」(うたごえ新聞 2015年5月25日)を、許可を得て転載。