今月のことばNo.1

2014年9月20日

大西洋のアフリカ沖の「日本国憲法第九条の碑」を訪問して

武者小路公秀

2014年夏、ピースボートにひと月足らず乗船して一番思い出に残ったのは、8月26日スペイン領カナリア諸島のグラン・カナリア島のテルデ市で訪れた「日本国憲法第九条の碑」でした。ロータリーの一隅にしつらえた小公園「広島・長崎広場」の、スペイン特有の建物を背にして掲げられた碑から予想しなかったショックをうけたのです。純白のタイルに青々と焼き付けられた文字がスペイン語に翻訳された「日本国憲法第九条」でした。

この高く掲げられた碑と、そのそばにスペイン語と英語と日本語で刻まれた「平和」の文字は、日本国憲法とその背景となった広島・長崎の被爆体験に捧げられた市民の深い平和に対する信念を力強く表していたのです。スペインが1982年にNATO(北大西洋条約機構)に加盟したとき、スペイン全土で加盟反対の運動が盛り上がり、テルデ市は当時の市長、議会が反対を表明して非核都市を宣言しました。1996年に日本国憲法を知った市長が言い出して、この碑を小公園に建てて、「広島・長崎」広場と命名したのでした。軍事活動を一切拒否する憲法第9条の真の意味を、私自身よりもはるかに正しく理解しているこのアフリカ沖の亜熱帯の市民への尊敬を、私は深く感じました。

日本国憲法制定後、前文の平和主義と、戦争を放棄し一切の戦力をもたないとした第九条の解釈を曖昧にして次々に変え、自衛隊から集団自衛権まで認めてしまった日本。その平和主義者の一人としてこの碑を建立したテルデ市民たちの真っ直ぐな日本国憲法の解釈に出会ったことは、大げさにきこえるかもしれませんが、かなり衝撃的でした。私は、この碑をおとずれたことで、これまで日本が憲法第九条の解釈改変を重ねてきたことへの恥ずかしい気持ちを日本に持ち帰って来ました。初心に帰れずにここまで来た自分を恥ずかしく思うようになっていることを、みなさまにご報告いたします。(2014年10月31日)

ラスパルマス テルデ市 九条の碑2014

テルデ市広島・長崎広場の筆者(右)と勝俣誠氏(明治学院大学)。右上に九条の碑。

九条の碑

スペイン語の日本国憲法第九条