コロナウイルス禍の趨勢
池内 了
(執筆日:2020年4月20日)
2020年3月15日の記事から約1カ月経った時点での、感染の広がり・現在の趨勢・今後の予測についてまとめておきたい。
(累積感染者数)
第1図が「国別累積感染者数」で、縦軸が対数、横軸が日付である(以下、グラフは飽本一裕帝京大名誉教授作成のものを本人の許可を得て掲載する)。当然ながら、3月15日付の図と比べて大きく変化している。
(1)イタリア・フランス・ドイツ・スペインとイランは似たような傾きになって、以前と比べて増加率は明らかに減少しているが、韓国がほぼ完全に一定である期間が1ヵ月ほど続いていることに比べて、まだ有意に増加傾向であり、終息とは言えない(対数であるため、傾きは小さくても感染者増加の絶対数は多いことに注意を!)。
イタリアのコンテ首相は封鎖の解除を急ごうとしているのに対し、ドイツのメルケル首相は非常に慎重である。
(2)前回に予想した通り、アメリカは大きな増加率で、あっという間に世界のトップに躍り出て感染者は70万人を超える状況になっている。確かに一時よりは増加は緩やかになっているが、(1)の諸国と比べても傾きは大きいから、まだ終息の兆しは見えていない。しかし、トランプ大統領は早く終息宣言を出そうと焦って、共和党知事の州で緊急事態措置を緩めさせようとしている。そんなことをすると、かえって長引かせることになるのではないか。
(3)日本は、まさに独自路線で、この対数グラフ上で一貫して直線的に増加しており、ついに韓国の感染者数を上回った。このまま同じ状態が続くと、いずれ(1ヵ月程度か?)ヨーロッパ諸国の10万人レベルに追いつくか(小沼さんの予想と同じ)、どこかで感染爆発を起こして急速に感染増加率が増大する(傾きが急になる)だろう。日本全体の累積感染者の増加がほぼ東京のそれと平行になっているということは、東京が例外的に多いのではなく、日本全体がほとんど同じ割合の増加率となっていることを意味する。
図1:国別累積感染者数
(致死率)
気になるのは致死率(死者/累積感染者)である。世界の傾向は
(1)10%以上:イタリア、スペイン、フランス、イギリス、英国、ベルギー、
オランダ
(2)5~10%:米国、中国、イラン、ブラジル、スウェーデン
(3)1~5%:ドイツ、韓国、日本、トルコ、スイス、ポルトガル、オーストリア、
アイルランド
(4)1%以下:ロシア、イスラエル
と大別できる。ウイルスの種類が3通りあるとか、BCG接種国は少ないとか、の意見はあるが、精査が必要で結論を急ぐべきではない。さらに国家ごとに、統計の精度、医療崩壊の程度、医療非受診率(医療機関でウイルス感染死と認定されず、普通の肺炎とされている割合、病院での死亡はカウントされるが介護施設での死亡はカウントされない割合)等の差異があって単純比較できない。終息後に点検すべき課題であろう。
第2図に日本・韓国・ドイツ(及びイタリア)の致死率の変化を示している。3月30日頃には、日本が約3・0%、韓国が約1・5%、ドイツが1・0%であったのが、4月15日を過ぎると逆転して、ドイツ約3・1%、韓国約2・5%、日本約1・7%となっていることが注目される。韓国は3月20日頃から患者数の増加はほぼ完全に頭打ちになっているから、致死率の増加は、何とか持ちこたえていた重症患者が死を迎えているのだと思われる。他方、イタリア・フランス・スペインなど致死率が10%以上の国は医療崩壊が起こって致死率が10%を超えているのに対し、同じヨーロッパにあるドイツでは、医療崩壊をなんとか食い止めてきた医療体制が、疲労困憊となったため死者の数が増加しているのではないかと懸念される。何しろ、ドイツの患者数は14万人を超えているのである。
もう少し詳しく日本の致死率変化を見てみよう。3月23日頃まで日本ではかなり高い(約3・5%)致死率であったが、それ以後下がり続けていることだ。その理由を考えると、以下のようになるだろうか。この時点まではPCR検査数は1日1500件以下と厳しく抑制していたため検査を受けられず、感染者と認定されたときには既に非常に重症になっており(つまり重症化率が高い)、そのため致死率が高かったと思われる。しかし、3月24日頃から検査数が1日2000件、4月1日頃から5000件、4月7日頃には7000件と急増しており、それに応じて感染者数が増えたので、致死率が下がったのだと思われる(オリ/パラの延期が宣言されたのは3月24日)。
しかし4月14日頃から、日本の致死率は再び増加に転じているようで、この先の推移がどうなるか注目したいと思う。検査数の増加によって感染者が多く同定されるようになって感染者中の重症化率は下がったはずなのに、致死率が増えるようなら医療崩壊が始まっているとも考えられるからだ。
図2:コロナ感染者の致死率の推移。
(検査数と新規患者数)
先に検査数と新規患者数について述べたが、実際のデータは以下の3A図、3B図に示している。
3A図:新規検査数。日曜日ごとに極小を繰り返し、3月24日頃か上昇に転じた。
実は、新規検査数(PCR検査)は厚生労働省発表のデータを使っているが、毎日新聞や日経新聞が掲載しているデータとの食い違いがある。厚労省は各都道府県からの報告数を集計して発表しているのだが、実は、日経新聞によれば、後日に都道府県から報告内容を訂正して検査人数を減らしても厚生省は修正しないらしい(その修正をした日経新聞のグラフでは検査数がマイナスの日があったりする)。もっとも、だいぶ時間が経ってから厚労省のデータが変えられることもあると聞くから、統計に信頼がおけないこと夥しい。
とはいえ、検査数が上昇していることは確かで、今ではようやく1日1万件に達しつつある。しかし、ドイツでは1日5万件、韓国では1日1・6万件と言われており、日本の体制がいかの貧弱であるか(あったか)がよくわかる。累積検査数で言えば、ドイツとは100倍以上、韓国とは30倍以上の差が生じてしまったのである。このことが、隠れ感染者を増やし、感染経路を追えない感染者が60%を占める事態をもたらしたのは確かである。
PCR検査は、体内にコロナウイルスが潜んでいるかどうかを調べる検査であって、感染の有無を直接チェックしているが、結果が出るまでに時間がかかる。これに対し「抗体検査」と呼ぶ、体内にウイルス感染によって抗体ができているかどうかを調べる検査があり、これは短時間で結果が得られるので推奨されている。感染してもごく軽くて気づかない(無症状のまま)とか、軽症ですぐに治ってしまった、という場合に抗体検査は有効である。今後は、この検査も実施されるべきだろう。
3B図 国内新規患者数(感染者数)と東京の新規感染者数。
新規感染者の数が増加し始めたのは3月24日頃からで、3B図に見るように、指数関数的に増加している。累積感染者のカーブをクローズアップしてみれば、少し凸凹があるのに反映している。新規感染者数で言えば、東京の増加率は全国の増加率よりも少なめのようである。緊急事態宣言が出されたのは4月7日で、外出の自粛や三密(密閉、密集、密接)を控えるよう要請されたのだが、新規感染者数の増加傾向から見ると、あまり効果は出ていないように見えるがいかがだろうか。
大雑把に見積もれば、新規感染者数は、3月24日を50人とすると、10日後の4月2日でほぼ3倍の150人、20日後の4月12日でほぼ10倍の500人となり、30日後の4月22日でほぼ30倍の1500人という計算になる。