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今月のことばNo.2

2014年11月12日

重大な岐路に立つ沖縄

大石芳野(写真家)

先日、「重大な岐路に立つ日本」というテーマで七人委員会の講演会を行った。時間切れで発言できなかったためこのリレーエッセイの場を借りて提起したい。それは沖縄の米軍基地についてだ。11月16日、沖縄は知事選の投票日。福島の知事選では原発が争点の中心にならなかったが、沖縄では辺野古埋め立ての是非が明確な争点になっている。4人の候補のうち賛成は1人、反対は2人、1人は住民投票だ。まさに沖縄のターニングポイントである。

新たな辺野古埋め立てに関しての世論調査では住民の80%が反対を表明していると言う。しかも、米軍基地であり続けるよりも返還地に観光地など住民が参加できる施設を造った方が経済的な効果が上がるという試算も具体的に出ている。

米軍治世27年間を経て日本に復帰してから42年が過ぎたが、米軍基地を巡って、住民の尊厳を蔑(ないがしろ)にする歳月が続いてきた。日本全体でみれば米軍基地は減少しているのに、沖縄の基地を利用し続けようとする日米政府の政策によって、面積が日本全体の0.6%に過ぎない沖縄県に全国の<米軍専用>米軍基地の74%が集中するという異常事態になっている。

歴代政府の政策は、沖縄の住民は無視しても構わないという意味合いに繋がる。これまで多額の資金を注ぎ込んだではないかとの主張もあるが、なかば押し付けられた投資によって住民は平穏な生活権を奪われた。人権の侵害だともいえる。端的に言えば棄民として扱われてきたということではないか。

米軍基地は沖縄だけで解決できるものではない。住民が反対しても日本政府がアメリカと交渉しない限り、動くのは難しい。まさか、アメリカから「住民の反対で引き揚げる」との申し出を待っているわけではないだろう。いずれにしてもこの問題は、沖縄の住民に米軍基地を押し付けてきた私たち全体の怠慢だ。

沖縄の米軍基地、とりわけ辺野古の埋め立てをめぐるアメリカの「日本への要求」は、共和党の勢力拡大によって沖縄県知事選の結果いかんにかかわらず集団的自衛権を背景に強まるだろう。基地の強化によって中国や朝鮮半島の動きと取り組もうというきな臭さは、外交努力を積み重ねることで解消させていかなくてはならない。沖縄は差し迫った日本の重大な岐路となる象徴的なテーマだと思う。
(2014年11月8日、修正9日)

今月のことばNo.1

2014年9月20日

大西洋のアフリカ沖の「日本国憲法第九条の碑」を訪問して

武者小路公秀

2014年夏、ピースボートにひと月足らず乗船して一番思い出に残ったのは、8月26日スペイン領カナリア諸島のグラン・カナリア島のテルデ市で訪れた「日本国憲法第九条の碑」でした。ロータリーの一隅にしつらえた小公園「広島・長崎広場」の、スペイン特有の建物を背にして掲げられた碑から予想しなかったショックをうけたのです。純白のタイルに青々と焼き付けられた文字がスペイン語に翻訳された「日本国憲法第九条」でした。

この高く掲げられた碑と、そのそばにスペイン語と英語と日本語で刻まれた「平和」の文字は、日本国憲法とその背景となった広島・長崎の被爆体験に捧げられた市民の深い平和に対する信念を力強く表していたのです。スペインが1982年にNATO(北大西洋条約機構)に加盟したとき、スペイン全土で加盟反対の運動が盛り上がり、テルデ市は当時の市長、議会が反対を表明して非核都市を宣言しました。1996年に日本国憲法を知った市長が言い出して、この碑を小公園に建てて、「広島・長崎」広場と命名したのでした。軍事活動を一切拒否する憲法第9条の真の意味を、私自身よりもはるかに正しく理解しているこのアフリカ沖の亜熱帯の市民への尊敬を、私は深く感じました。

日本国憲法制定後、前文の平和主義と、戦争を放棄し一切の戦力をもたないとした第九条の解釈を曖昧にして次々に変え、自衛隊から集団自衛権まで認めてしまった日本。その平和主義者の一人としてこの碑を建立したテルデ市民たちの真っ直ぐな日本国憲法の解釈に出会ったことは、大げさにきこえるかもしれませんが、かなり衝撃的でした。私は、この碑をおとずれたことで、これまで日本が憲法第九条の解釈改変を重ねてきたことへの恥ずかしい気持ちを日本に持ち帰って来ました。初心に帰れずにここまで来た自分を恥ずかしく思うようになっていることを、みなさまにご報告いたします。(2014年10月31日)

ラスパルマス テルデ市 九条の碑2014

テルデ市広島・長崎広場の筆者(右)と勝俣誠氏(明治学院大学)。右上に九条の碑。

九条の碑

スペイン語の日本国憲法第九条

2014 113J 原発再稼働の条件は整っていない

2014年7月18日
アピール WP7 No. 113J
2014年7月18日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎

原子力規制委員会は、審査を進めてきた九州電力川内原子力発電所1・2号炉について「新規制基準を満たしている」とする審査書案を7月16日に了承し、ただちに科学的・技術的意見の公募を開始した。8月中にも正式な審査書として決定すると伝えられており、政府と九州電力は、これを受けて速やかに再稼働させるとしている。
しかし原子力規制委員会の審査は、過酷事故の防止と発生した場合の拡大を防止する技術的方策について、東電福島第一原発の事故の実態が不明のまま1年前に決めた新規制基準への適合性を調べただけのものである。安全対策設備の中には、審査の終盤に新たに設置がきまったものもあり、九州電力は7月末までの完成を目指して工事を進めていると報じられている。事故時の対策の拠点となる「オフサイトセンター」の改修完了は2015年3月と言われている。これが事実なら、工事完成の確認をしないまま審査終了の結論をだした原子力規制委員会は、責任を持って審査をしなければならない権限を放棄していることになる。
さらに、これらの基準を満たしたからといって、原発再稼働にともなって必要になるその他の事項
①事故が発生した場合に、影響が及ぶことが予想される範囲の住民の安全な避難計画、
②発生する放射性廃棄物、特に高濃度廃棄物の処理方法、
③使用済核燃料の処理と管理、
④廃炉後の解体処理、特に過酷事故を起こした原子炉の処理
などは、原子力規制委員会の権限外として何らの検討も行われていないことを指摘したい。
これら未解決の課題は、1950年代に日本の原発計画が開始され1960年代に運転が始まった時に問題にされたにもかかわらず、事故は起こらないと根拠なく主張して、技術発展を期待して先送りにされてきたものであり、責任の所在をあいまいにしたまま、これ以上積み残しにして先に進むことは許されない。
この審査によって原子力発電所の安全が保証されたものではないことは原子力規制委員会自身も認めており、原発再稼働の条件が整ったかのようにすり替えて喧伝する政府、電力会社、財界などの姿勢は完全な誤りである。
東電福島原発事故から3年を経過したのに、この事故の実態は解明されるに至らず、放射能によって汚染された大量の水や瓦礫などの処理の見通しは立たず、事故収束にはほど遠いままであって、被災者は生活再建の目途すら持てないでいることを忘れてはならない。
2011年以来、事実上原発を稼働せずに今日まで来ることができた日本は、二度と過酷事故が起こることはないだろうという根拠のない願望に頼って、原発の必要性についての合理的説明を欠いたまま原子力社会に戻るのか、原子力に依存しないエネルギー戦略を追求する世界の潮流に沿って進むのかの重大な岐路に立っている。私たちは、国民一人ひとりがこの事態を真剣に考え、未来の世代に対して責任の負える判断と行動を行うよう要望する。

PDFアピール文→ 113j.pdf

2014 112J 民主主義を破壊する閣議決定を行わせないために、国民は発言を

2014年6月12日
アピール WP7 No. 112J
2014年6月12日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 小沼通二 池内了

安倍晋三首相は、「国の交戦権は認めない」と明記している日本国憲法の根幹に反する集団的自衛権の武力行使容認をめざし、憲法を改正しないまま、あいまいな形で速やかに最終的閣議決定を行い、実施を強行しようとしています。私たちはこの動きに強く反対します。
首相は、米国との絆を絶対視し、日本国内の米軍基地と無関係に日本周辺の米国海軍が攻撃されるとか、米国本土が攻撃されるなどの現実的でない事例を示して限定するかのように見せかけています。ところが、武力行使は対立する一方の考える通りに進むものではないので、空想的な限定は意味を持ちません。最前線だけで戦闘行為が行われる時代ではなく、攻撃と防御は一体化しています。したがって武力行使の範囲が限りなく拡大することを可能にする議論になっています。
一連の動きに対して、自衛隊員も含めて人を殺すことはいけないという規範の下で生きてきた国民の支持は得られていません。専門家集団である憲法学者は一致して反対しています。それなのに、国会での審議も最短時間に留め、異なる意見には一切耳を傾けようとしていません。与党間協議でさえ十分な検討の時間を割くことなく駆け抜けようとしています。
国連憲章には確かに集団的自衛権が認められています。しかしこれは安全保障理事会が必要な措置を取るまでの間の臨時的な権利です。権利は義務ではありません。行使しなくても、行使できなくても問題ありません。日本は、1956年の国連加盟以来この点での支障は一度も起きていないのです。国連憲章の本来の原則は、紛争の平和的解決であり、平和に対する脅威、平和の破壊に対する非軍事的措置が優先されています。紛争解決へは、非難の応酬でなく、外交手段と民間交流の推進による信頼醸成の強化、軍備増強でなく軍縮への努力こそ進めなければならないのです。これは日本国憲法の基本的精神に沿う途です。
首相の言動は、国民主権の下での三権分立に基づく法治国家としての日本を破壊し、日本が攻めてくることはないと信じてきた周辺諸国をはじめとする世界における日本の評価をおとしめ、近隣諸国の軍備増強に口実を与え、日本の危険を増大させるという取り返しのつかない汚点を歴史に残すことになります。
黙っているわけにはいきません。今こそ主権者である日本の国民は、自らの考えを発言し、政府に誤りない日本の針路を選ばせるべきときです。

PDFアピール文→ 112j.pdf

池田香代子委員の退任について

2014年4月24日

世界平和アピール七人委員会は、1955年の発足以来 一貫して意見の異なる人たちとも 対話を求め続けてきました。
このたび池田香代子委員が、ツイッターでこの基本的方針に反する記述を表明したことを知り 個人の発言であったにしても不適当だったと直ちに判断しました。池田委員からも「このたびの私の軽率な言動は、委員会の方針にもとるものでした」として辞任の意向表明があり、全員で討議した結果、委員退任を決定しました。
七人委員会は初心を大切にし、世界と日本の一人一人が安心して安全に生きていける社会を目指して、これからも人道的立場から努力を続ける所存です。

2014 111J 辺野古に新しい軍事基地を造ってはならない

2014年1月17日
アピール WP7 No. 111J
2014年1月17日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 池田香代子 小沼通二 池内了

私たち世界平和アピール七人委員会は、日米両政府に、沖縄県名護市辺野古に米海兵隊の軍事基地を造る計画を断念するよう要請し、沖縄県外に住むすべての人々に、この問題を真摯に受け止めることを訴えます。

同基地計画は、1995年の米兵による少女暴行事件に対する沖縄県民挙げての怒りを受け、日米両政府が宜野湾市の市街地の中心にある米海兵隊普天間飛行場を閉鎖し、辺野古に代替施設を新設することに合意したことに始まります。

それから17年たっても辺野古移設が成らなかった第一の要因は、沖縄に新たな軍事基地を造らせまいとする沖縄県民の強い意思です。にもかかわらず、これまで沖縄県の自己決定権を奪ってきたことを、日本政府と沖縄県外の人々は直視すべきです。日本全体の面積の0,6%しかない沖縄県に在日米軍基地面積の73,8%が集中するという異常な事態をこれ以上は容認できないとする沖縄県民の思いを、県外の人々は重く受け止めるべきです。

沖縄は、1609年の薩摩島津藩による琉球侵攻、そして1879年明治政府の「琉球処分」と、ヤマトの横暴に翻弄され続けました。さらに第二次世界大戦末期、沖縄を本土防衛作戦の捨て石とした沖縄戦では、12万人以上の県民が犠牲になりました。

このような苦難の歴史を強いられた上、さらに戦後も沖縄県民は多大な基地負担を押しつけられ、こんにちに至ります。県外に住む私たちは忸怩たる思いで一杯です。今また安倍内閣が、カネの力で仲井眞沖縄県知事に辺野古沖の埋め立てを承認させたことは、まさに「21世紀の琉球処分」です。県外に住む私たちは、歴代日本政府による対沖縄「差別」政策にいたたまれない気持ちでおります。

辺野古の海はジュゴンやウミガメが生息する、地球に残された貴重な海域です。その海を埋め立てて恒久的な軍事基地を造ることは、75億の人類が共存すべき地球への冒涜です。残された自然環境を守るためにも、辺野古に基地を造ってはなりません。

PDFアピール文→ 111j.pdf

秘密保護法に反対のアピール 改憲の動きにも警鐘

2013年12月12日

世界平和ピール七人委員会は、11月25日、国会で審議中の特定秘密保護法案について、「『特定秘密保護法案』の廃案を求める」とのアピールを発表した。そこでは、「『特定秘密保護法案』は、その内容も審議の進め方も、民主主義と日本国憲法にとっての脅威であると危惧し、本法案を廃案とする」ことを求めている。
 七人委員会は、安倍政権の「改憲路線」に危機感を抱いており、6月28日には、「日本国憲法の基本的理念を否定する改定の動きに反対する」とのアピールを出している。

「特定秘密保護法案」の廃案を求めるアピールを発表

2013年11月25日

 世界平和アピール七人委員会は、国会で審議中の特定秘密保護法案について、25日、廃案を求めるアピールを発表しました。
 世界平和アピール七人委員会は1955年、世界連邦建設同盟理事長、下中弥三郎(平凡社社長)の提唱で、植村環(日本YWCA会長)、平塚らいてう(日本婦人団体連合会会長)、湯川秀樹(ノーベル賞受賞者、京都大学教授)らによって結成されました。
 その後、メンバーは入れ替わりましたが、日本の知識人として、人道主義と平和主義に立って、不偏不党の立場から、核兵器の廃絶、平和憲法の精神など世界の平和のための発言を続けてきました。
 現在のメンバーは、武者小路公秀(大阪国際平和センター会長)、土山秀夫(長崎大学名誉教授)、大石芳野(写真家)、池田香代子(翻訳家・作家)、小沼通二(慶応大学、武蔵工業大学名誉教授)、池内了(総合研究大学院大学教授)、辻井喬(詩人、作家)の七人。
 今回のアピールは、発足から、110回目のアピールにあたります。

 世界平和アピール七人委員会事務局
 なお、問い合わせ、連絡先は、小沼事務局長まで。
 FAX:045-891-8386 メール:mkonuma254@m4.dion.ne.jp

2012年講演会「福島の人びとと共に」のお知らせ

2012年10月29日

日時:2012年11月10日(土)15時~18時(開場14時30分)
会場:福島県南相馬市 サンライフ南相馬 集会室

入場無料

プログラム
・辻井喬「中央集権の時代から地方自治の重視へ」他
・大石芳野「福島の人びとを撮りつづけて、思う」
・小沼通二「原発と核兵器の時代を超えて」
・パネル討論「あらためて原発を考える」