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当記事は「科学・社会・人間」 121号 2012年7月号からの転載です。

原子力基本法の基本方針に、「我が国の安全保障に資する」という表現が加わった。これからどうするか。


小沼通二




1 2012年6月20日の国会で何が決まったのか


 2012年6月15日の衆議院に自民・公明・民主3 党共同で緊急提案された「原子力規制委員会設置法案」[1]が20 日の参議院本会議で、原案のまま可決され、成立した[2]。施行は3 ヵ月以内だという。
 1日のうちに、国会が長いこと審議せずに放置しておいた政府案[3]と自民・公明2 党案[4]を取り下げ、3 党案を配布して、提案後数時間で衆議院を通過させ、その日のうちに参議院の審議を始めた。そして週末を挟んで5日後に成立させるという異様な早さだった。国会会期末といっても、大幅延長は見えていた。しかも国会自体が、「今後の施策または措置について提言を行う」ことも目的に含めて発足させた国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会が間もなく結論を出すことになっていたのに、それを待つことはなかった[5]
 ここでは3 ヵ所に出てくる「我が国の安全保障に資する」という表現を取り上げる。
 「原子力規制委員会設置法」の目的が書かれている第一条は、
「この法律は、・・・原子力規制委員会を設置し、・・・国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」

となっている。途中略した部分は長いのだが、要するに、この法律で原子力規制委員会を設置することを決め、委員会の目的が、
① 国民の生命、健康及び財産の保護
② 環境の保全
③ 我が国の安全保障
の3 つに資することであるとした。
 これを受けて、第三条で任務を定めた。
「原子力規制委員会は、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資するため、原子力利用における安全の確保を図ること(原子力に係る製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉に関する規制に関することを含む。)を任務とする。」

 この法律には、97 条に及ぶ附則がついていて、施行日や、最初の発足のさせ方、経過措置、整合性を図るためのほかの法律の改正が決められた。ここでは、その中の第十二条に注目する。
 附則第十二条は原子力基本法の一部改正である。その中の第一・二条関係を見よう。
「第一条中「利用」の下に「(以下「原子力利用」という。)」を加える。
 第二条中「原子力の研究、開発及び利用」を「原子力利用」に改め、同条に次の一項を加える。
 2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。」

 ここで原子力基本法の目的を定めた第一条の変更は、形式だけである。その結果、原子力基本法の中で「原子力利用」といえば「原子力の研究、開発及び利用」を意味することになった。基本方針を定めたこれまでの第二条には実質的変更を加えず、新しく第二項を加えて次のようにした。
「第二条 原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。
 2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする」

 20日の参議院では、法案に28 項目の付帯決議をつけることになった。以下に掲げるその中の一項は、この問題に関するものである。その中に「本法改正」とあるのは、「本法制定」と変わるものと思っている。

付帯決議十一(案)
本法改正に伴う改正原子力基本法第二条において、原子力の安全の確保の目的の一つに我が国の安全保障に資することが規定されている趣旨について、本法改正により原子力規制委員会が原子力安全規制、核セキュリティ及び核不拡散の保障措置の業務を一元的に担うとの観点からくわえられたものであり、我が国の非核三原則はもとより核不拡散についての原則を覆すものではないということを、国民に対して丁寧に説明するよう努めること。

 この決定の意味は以下で取り上げる。

2 世界平和アピール七人委員会の緊急アピール


 七人委員会の一委員は、1955 年末の制定以来平和目的に限られてきた原子力基本法の基本方針に「我が国の安全保障に資すること」が加えられようとしていることを、6月17日昼の少し前に、ある友人の指摘によって知った[6]。“国の安全保障に資する”目的というのは、“日本の防衛に役立たせる”ためという意味につかわれる言葉である。
 日本では原子力の研究・開発・利用は、初めて予算がついた1954年から、揺らぐことなく一貫して「平和目的に限り」、「公開」の原則の下で進められてきた。ことの重大さを感じて調べてみたところ、自公民3 党が合意した「原子力規制委員会設置法案」が6月15日に衆議院に提出され、環境委員会での2時間の審議ののち同日午後の本会議で可決、直ちに参議院に送られ、この日のうちに参議院本会議で趣旨説明が行われたことが分かった。
 16日の朝日新聞によれば、265 頁に及ぶこの法案を、みんなの党の議員が受け取ったのは、この日の午前10 時。質問を考える時間も与えられなかったという。
 国会のホームページを見たが、議事録はまだ公開されていなかった。自民党のホームページに、自民・公明2 党法案の骨子と法案要綱と法案が掲載されているのがみつかった[7]
「法案骨子」と「法案要綱」には、何も記述がなかったが、「法案」の附則第十一条が見つかった。原子力基本法の一部改正となっている。(後でわかったことだが、自民党のホームページにあったのは自公提案だった。この提案を取り下げて提出された自公民の3 党提案では、内容は変わらずに附則第十二条になっていた。)
 これを見ると、「平和目的に限り」、「公開」の下ですすめる原子力利用を、我が国の安全を守るための軍事に役立たせるということになるのだが、どう考えてみても論理的に矛盾していて、意味が分からない。
 内容の意味が不明なだけでなく、手続きにも重大な問題がある。「基本法」は憲法と個別法の間にあって、個別法より優先した位置づけがされていることとの関係である。憲法のもとに憲法と矛盾しない基本法があり、そのもとにこの基本法の枠からはみ出さない個別法がつくられているはずである。個別法の附則によって基本法の基本方針を、討議せずに変更することはゆるされないと思った。
 たまたま翌6月18日の午後、世界平和アピール七人委員会の集まりが予定されていたので、緊急の追加議題として、直ちに発言しないでよいだろうかと討議した。
 その結果、至急アピールを出すことになり、出席できなかった委員にも連絡しながら文章をまとめて、翌19 日午前8 時40 分に、別掲(付録B)のアピール[8]「原子力基本法の基本方針に「安全保障に資する」と加える改正案の撤回を求める」が完成し、メールとファクスによって発表した。この動きに初めて気が付いてから、45時間経過していた。

3 何を意味するか


「安全保障」とは

「我が国の安全保障に資することを目的」にするということばは、“外国からの侵略、攻撃に対して、必要な場合、外交努力と軍事力を用いて日本の国を防衛するために役立たせることを目的”にして何かをするという意味に使われている。ここではこの目的のために核を利用するということになる。国の安全保障の意味は、日米安全保障条約とか、国連の安全保障理事会、集団安全保障などの言葉を見れば明らかである。
 「我が国」と「資する」を除いた「安全保障」は、「人間の安全保障」[9]や「核の安全保障」などに応用して使われてきた。これらは「国の安全保障」ではない。
 「核の安全保障」は、テロリストによる原子力施設の安全を守り、核物質の盗難や密輸を防ぐことを扱っている。これまでに、日本政府も参加して核の安全保障サミットが、2010年4月12,13日にワシントンにおいて第1回、2012 年3 月27, 28 日にソウルにおいて第2回の2回開かれた[10]。わずか3 ヵ月前に開かれた第2 回会議のコミュニケを見れば、福島原子力発電所の事故に関係して核の安全保障(security)と核の安全性(safety)を明確に区別して関連を述べている。外務省の仮訳[11]を見てみよう。

「・・・・・
 2011年3月の福島の事故及び核セキュリティと原子力安全の連関に留意しつつ,我々は,安全で安心な原子力の平和的利用を確保する上で助けとなる一貫した方法で原子力安全及び核セキュリティの問題に取り組むため,持続的な努力が必要とされることを考慮する。
・・・・・
核セキュリティ及び原子力安全
7. 安全対策及びセキュリティ対策は,人命,健康及び環境の保護という共通した目標を有していることを認識しつつ,我々は,核セキュリティ及び原子力安全対策は,原子力施設において,一貫し,相互補完的な方法で,設計,実施及び管理されるべきであることを確認する。また,我々は,核セキュリティ及び原子力安全の双方に対処する形で,緊急事態への効果的な備え,対応及び緩和能力を維持する必要性を確認する。
これに関連し,我々は,セキュリティと安全のいずれも阻害されることがないよう,核セキュリティ及び原子力安全の間の橋渡しに関する勧告を提示する会議を開催するとのIAEA の取組を歓迎する。また,我々は,2011 年9 月22 日にニューヨークで国連事務総長が主導して原子力安全及び核セキュリティに関するハイレベル会合が開催されたことを歓迎する。核物質その他放射性物質のセキュリティが使用済核燃料及び放射性廃棄物も含むことに留意しつつ,我々は,各国にこれらの物質を管理する適切な計画の策定を検討することを奨励する。・・・・・」

 ここでもう一度、今回改正された原子力基本法第二条を読み直していただきたい。核の安全保障と核の安全確保を、「我が国の安全保障に資することを目的として、安全の確保を行う」という目的と手段、施策の関係に位置付けるのが誤りであり、日本政府も参加して最近確認した国際的文書の使い方とも矛盾しているのである。意味が不明の文章はいろいろな解釈ができる。

「我が国の安全保障に資する」はいつどこで入ってきたか

 6月20日の決定に至る経過を付録Aにつけておくので、見て頂くとわかるのだが、この動きは環境省の下に原子力規制庁をつくろうという政府案から見ていく必要がある。この法案は、2012年1月31日に「原子力の安全の確保に関する組織及び制度を改革するための環境省設置法等の一部を改正する法律案」(第一八〇回 閣第一一号)として参議院に提出された。その第三条が「原子力基本法の一部改正」である。最初の部分に第二条の改正案がある。
第三条 原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)の一部を次のように改正する。
 第一条中「利用」の下に「(以下「原子力利用」という。)」を加える。
 第二条中「原子力の研究、開発及び利用」を「原子力利用」に改め、同条に次の一項を加える。
2 前項の安全の確保については、これに関する国際的動向を踏まえつつ、原子力利用に起因する放射線による有害な影響から人の健康及び環境を保護することを目的として、行うものとする。

この追加部分の意味は理解できる。
 これに対して自民党は、独立性の高い原子力規制委員会を設置する案を考え、公明党とともに、4月20日に塩崎恭久議員(自民党)ほか3名の議員提案の形で「原子力規制委員会設置法案」(第一八〇回衆第一〇号)として衆議院に提出した。その附則第十一条が「原子力基本法の一部改正」である。その最初は次のとおりである。

第十一条 原子力基本法(昭和三十年法律第百八十六号)の一部を次のように改正する。
 第一条中「利用」の下に「(以下「原子力利用」という。)」を加える。
 第二条中「原子力の研究、開発及び利用」を「原子力利用」に改め、同条に次の一項を加える。
2 前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。

「我が国の安全保障に資する」はここで登場したのだった。
 2012年5月29日の衆議院本会議において、政府案と自民公明案の提案趣旨説明が行われた[12]

細野豪志国務大臣
法律案の内容について、その概要を御説明申し上げます。・・・
第二に原子力基本法の改正についてであります。
原子力利用における安全の確保は、国際的な動向を踏まえつつ、放射線による有害な影響から人の健康及び環境を保護することを目的として行うことを原子力利用の基本方針とすることとしております。

塩崎恭久議員
ただいま議題となりました原子力規制委員会設置法案につきまして、提出者を代表して、その提案理由及び概要を説明いたします。・・・

 細野大臣は原子力基本法第二条に追加する部分の政府案を説明している。自民公明案の中には、原子力基本法に「我が国の安全保障に資することを目的とし」を加えることが入っているのだが、塩崎議員は一言も触れていない。この説明に対して質疑が行われた。

・・・
吉井英勝議員(共産党)
・・・法案について、三つの角度から質問します。・・・
今回、自公両党が提案する原子力基本法改正案で、原子力利用の目的について、「我が国の安全保障に資する」こととしたのはなぜですか。提案者にその意図と理由の説明を求めます。・・・

江田康幸議員(公明、提案者の一人)
共産党の吉井英勝議員の質問にお答えいたします。・・・
原子力基本法において、原子力利用の目的に「我が国の安全保障に資する」ことを規定した理由について御質問をいただきました。原子力利用における安全の確保に関する規制については、原子炉等規制法に詳細が定められておりますが、原子炉等規制法には、原子力施設及び輸送時における核物質の防護に関する規定が置かれております。また、核燃料物質等に係る技術は軍事転用が可能な技術であることから、これを防止するための保障措置に関する規定も置かれております。 これらの措置は我が国のの安全保障にかかわるものであることから、自公案では、原子炉等規制法及び原子力基本法において、その究極的な目的として、「我が国の安全保障に資する」を明記するとしたところでございます。

 すでに、ソウルの第2 回核セキュリティサミットのコミュニケなどを見てきた読者には、この回答が説明になっていないことが明らかだろう。
 こう見てくると、問題の部分は6 月中旬になって突然登場したものではなかった。非常にわかりにくい場所に潜んでいて、政府案も、自民公明案も審議されないままだったとはいえ、国会のホームページを注意していれば、5 月初めには気が付いたはずである。さらに、5 月29 日の衆議院本会議の、ここに書いた質疑は、筆者の見た新聞には書いてなかったが、「しんぶん赤旗」は取り上げていた[13]
6月21日の東京新聞によれば、自民公明2 党案の筆頭提案者である塩崎議員は、この点について“「核の技術を持っているという安全保障上の意味はある。」と指摘。「日本を守るため、原子力の技術を安全保障からも理解しないといけない。・・・」と話した”。安全保障の解釈は、賛否は逆であるが、あいまいさなく筆者と完全に一致している。しかもこの発言は原子力基本法の改正が国会を通過した6月20日の談話である。この文言を法案に入れた筆頭提案者の発言は重い。

6月19日、20日の参議院環境委員会の審議

 七人委員会の緊急アピールの内容は、19日午後の環境委員会の最初に福島みずほ議員(社民党)が取り上げ、「我が国の安全保障に資する」の意味をただした。これに対して、細野大臣は、議員立法なので提案者に聞いてほしい、私たちはsafety, security, safeguardをまとめた意味と理解していると答弁した。提案者の一人である衆議院の吉野議員(自民)は、そのとおり、特にsafeguard だと答えた。
 翌日の環境委員会の最初の質問者は、谷岡郁子議員(民主党)だった。与(ヨ)党と野(ヤ)党の間のユ党の立場だとして、3党の提案者、吉野議員(自民)、江田議員(公明)、生方衆議院環境委員長(民主)に同じ質問をした。さらに内閣法制局の近藤正春部長と細野担当大臣の見解もただした。近藤部長は、具体的答弁をさけ、一般論として、「法律の解釈というのは、当該法律の規定の文言ですとか、趣旨、その他の規定の整合性等に即して、論理的に確定すべき性質のものであると考えられます。」と答えた。後の4人の答弁には、前日の福島議員に対する答弁以上の内容はなかった。
 第1節に引用した付帯決議案もこの趣旨に沿ったものである。

基本法の性格

 基本法は、重要な分野について、国の制度、政策等の基本方針を明示するものである。したがって、意味があいまいな表現は、具体的施策に混乱を持ち込むことにつながる。まして矛盾を含み、解釈を誤った表現は、速やかに改定して、整合性を持たせなければならない。
 しかも、日本国憲法のもとにある基本法に基づいて個別の法律ができていることを考えれば、個別法の制定、改定に際して、議論することなく、附則において基本法の基本方針を変更することは、手続きとしても誤りである。

宇宙基本法の場合

 日本の宇宙の開発及び利用は、1969 年の宇宙開発事業団法審議の際の衆議院本会議の全会一致の決議「平和の目的に限り、学術の進歩、国民生活の向上及び社会の福祉をはかり、あわせて産業技術の発展に寄与するとともに、進んで国際協力に資するため」と、参議院科学技術振興対策特別委員会の全会一致の決議「平和利用の目的に限りかつ自主・民主・公開・国際協力の原則のもとにこれを行う」のもとで、宇宙を「非軍事」の場として利用してきた。
 ところが2008 年に「第三条 宇宙開発利用は・・・我が国の安全保障に資するよう行われなければならない」とする宇宙基本法が制定された。この時の法案審議の異様さは、今回とまったく同じである。2007 年に提出された自民・公明案が一度も審議されることなく、2008 年5 月9 日の衆議院内閣委員会において理由の説明がないまま撤回され、ただちに自民・公明・民主の三党案が提出された。そのまま2時間ほどで委員会審議が終了して可決され、4 日後には衆議院本会議で一切の審議がないまま採決された。続く参議院の内閣委員会でも実質2時間ほどの審議だけで可決され、提出から2週間で、参議院本会議で採決・成立という速さだった。そしてこのように急ぐ理由は何も説明されなかった。
 世界平和アピール七人委員会は、2007年11月19日と、2008年8月26日に、宇宙を軍事の場とする道を拓く第一歩となる内容を含んでいるという重大な危惧を抱いてアピールを発表した[14]
 この時、日本の宇宙開発を進めている宇宙航空研究開発機構(JAXA)を規定する法律(宇宙航空研究開発機構法)の第四条には「平和目的に限り」と明記されていた。成立時の国会審議においては、これは「非軍事」の意味と確認された。しかし、2008年の参議院での審議の中で、「非軍事」から「非侵略」と方針が変更された機会に、提案者は当然見直しが行なわれると明言したのである。この事実を七人委員会はアピールの中で具体的な例として指摘した。「非軍事」の研究開発機関の存在自体を許さないという重大発言が、なんら深められることなく国会で認められている怖さを感じたのだった。
 これが、杞憂でなかったことが、今回原子力規制委員会設置法が成立したのと同じ6月20 日に、同じ参議院本会議において可決された「内閣府設置法等の一部を改正する法律案」[15]によって示された。この法案の一部である「独立行政法人宇宙航空研究開発機構法の一部改正」によって、「平和の目的に限り」が削除され「宇宙基本法第二条の宇宙の平和利用に関する基本理念にのっとり」と変更されたのである。「我が国の安全保障に資する」ことが決まってから、まだ4 年たっていない。

核武装の可能性 プルトニウム

 ヒロシマ、ナガサキ、ビキニの被災の経験を持つ日本で進めてきた原子力の研究、開発、利用は、初めて予算が付いた1954 年以来、平和利用に限り、公開の下で進めるという基本原則を堅持してきた。
 1955年末に超党派で提案し超特急で成立させた原子力基本法制定に際しても、平和利用3 原則が明記された。佐藤内閣時代に決めた非核3 原則の中の、核兵器を持たず、作らないことが基本方針であることは、歴代内閣によっても確認されてきた。
 日本政府は、日本国憲法は自衛権を否定していないので、核兵器保有は憲法と矛盾しないという立場をとってきた。そのうえで原子力基本法があるから日本の核武装は法的に禁止されているとしてきた。原子力基本法が核武装を不可能にしている事は、いうまでもないが、筆者は、日本国憲法の前文と第9 条も、偏見を持たずに読めば、核武装の余地は全くないと考えている。
 それでは、原子力基本法だけが日本の核武装の障害だったのだろうか。そうではない。
 日本には、核兵器に不可欠の、自由に使えるウランもプルトニウムも存在しない。
 日本にある原子力発電所はすべて米国型の軽水炉であり、濃縮ウランは平和利用に限定して供給されている。使用済核燃料からのプルトニウムの取り出しも、使用する量だけという条件で認められている。海水には微量のウランが含まれているが、日本には、ウラン鉱山は存在しない。
 日本の使用済核燃料から、日・仏・英で取り出した大量のプルトニウムが存在しているのは事実である。日本が保有するプルトニウムから、技術的にはすぐに高性能の核兵器が作れると考えている人がいるが、そうではない。核分裂連鎖反応に役立つプルトニウム-239 の割合が、運転期間の長さによるが、55〜70%に過ぎず、障害になるプルトニウム-240 が20〜30%含まれている[16]。核兵器級プルトニウムはほとんどが-239 であって、含まれる-240 は8%以下だから、原子力発電所の使用済核燃料からとり出したプルトニウムでは高性能の核兵器は作れない。ただし、米国のネバダの地下核実験場で、原子炉級プルトニウムで原爆を作ったところ、威力は小さかったが爆発が起きたと発表されていることも無視することはできない[17]
 また別の面から見ても、日本のようなエネルギー資源、食料資源などの乏しい国は、国際協力の下で生きていく以外ない。核不拡散条約(NPT)から脱退して、経済封鎖に耐える力はまったくない。
 さらに、これまで中国が核武装しても、北朝鮮が核武装しても、核武装をしなかった最大の要因は国民の世論の力だった。その中には、ヒロシマ、ナガサキ、ビキニの被災の経験から、世界のどこでも、このような経験を二度とさせてはいけないという意見が強かったのだが、米国の核の傘に依存すればよいという意見があることも否定できない。これについては、次節でもう一度取り上げることにする。

世界の動きに逆行

 第2次世界大戦後、冷戦の中で原子力(核)を使って国家の安全保障に資すると主張して、核軍拡が続き、ほぼ5 年に1 ヵ国の割合で核拡散が続けられてきた。これに対して、核兵器が国の安全に役立つのは幻想だとして、核兵器廃絶の運動も広がりを見せた。
 核兵器国の核軍拡は、1986年の米ソのレイキャビク会談を経て、冷戦終結とともに逆向きに変わり、核兵器の保有量は激減した。
 核兵器国の核兵器への依存を減らし、核保有国の増加を防ぎ、核兵器のない世界の実現を目指そうとの動きは、着実に進んでいる。
 今回の原子力基本法改正は、核の傘への依存を続け、経済的・技術的に問題が山積しているプルトニウムの備蓄を増やしている日本に対する海外からの疑惑の目を強めさせるものであり、禍根を残すものだった。
 実際に韓国では、この動きが大きく報道されており、政府は冷静だが、中国、北朝鮮に日本が続くのなら韓国もという議論まで出ている。

4 これに対してどうするか


原子力規制委員会設置法と、原子力基本法から[我が国の安全保障に資する]の削除を求める

 参議院の環境委員会の討議では、軍事利用は毛頭考えていないということが強調された。採決に際してつけられた附帯決議では、「我が国の安全保障」とは、軍事利用を考えたものではなく、「原子力規制委員会が原子力安全規制、核セキュリティ及び核不拡散の保障措置の業務を一元的に担う」ことだと主張された。
これを認めれば、“「原子力規制委員会が原子力安全規制、核セキュリティ及び核不拡散の保障措置の業務を一元的に担う」ことに役立たせるために「原子力規制委員会が原子力安全規制、核セキュリティ及び核不拡散の保障措置の業務を一元的に担う」”という内容の規定になる。これは、日本語としてまったく意味をなさない。それに、「業務を行う」ことは目的ではないから、「我が国の安全保障に資する」という文言を削除する以外ない。
 原子力基本法の基本方針には、今回の改正以前から「原子力利用は、・・・安全の確保を旨として、・・・これを行う」と書いてあったのだから、基本法を改正しなくても、原子力安全規制、核セキュリティ及び核不拡散の保障措置を支障なく実施することができるのである。それでも、この業務を原子力安全規制委員会が一元的に扱うと強調したいのであれば、個別法の原子力安全規制委員会設置法に、業務として具体的に書けば十分である。
 可決翌日の韓国の中央日報日本語版(オンライン6 月22 日9 時29 分)によると、法案修正を主導した自民党の塩崎恭久衆議院議員側はこの日、本紙との通話で「誤解が生じたとすれば是正する用意がある」と話した。塩崎議員室関係者は「福島原子力発電所事故で見るように原子力に関連した小さい誤りや失敗、進んでテロによって国家安全が崩れる可能性があるという点で「安全保障」という表現を使った」と話した。「『国家の安全保障に貢献』という部分を『国民と国家安全を保障する』などの表現で修正する用意がある」とも話した[18]
 この報道が正確だとすると、是正・修正はやむを得ないと思っているようにもとれるが、『国民と国家安全を保障する』などと言うわけのわからない修正では、何ら解決にならない。
 次の国会において「我が国の安全保障に資する」という文言を、原子力基本法と原子力規制委員会設置法から削除する法改正をしていただきたい。

核兵器に依存する日本の安全保障を断ち切る広い世論を形成し、風化させないでいこう

 原子力基本法の改正を含む法案が、国会の多数決によって可決成立したのは事実だが、多数の議員が軍事利用につながる内容だということを理解して賛否を決めたのではなかったことは、これまで見てきたとおりである。
 実際には、参議院環境委員会で明らかになったように、当面は従来通り、あるいはこれまで以上に「原子力安全規制、核セキュリティ及び核不拡散の保障措置の業務」が重視されることになるだろう。だからいいのだと考えるのでなく、原子力基本法の基本方針から、あいまいさを除いておかなければならない。あいまいさを容認すれば、機会を見て防衛省が公式に研究・開発に加わり、原子力基本法の平和利用限定と公開の原則が事実においても骨抜きになるだろう。
 そのためには、この問題を広く討議し、世論を強めて、国会議員にも働きかけ、次期国会に於いて、削除を実現させなければならない。
 核兵器が非人道的大量破壊兵器であることは、ヒロシマ、ナガサキ以来、明らかだったのだけれど、核兵器を持たないと考える人たちの中に、米国の核の傘に依存することによって我が国の安全保障を考えてきた人たちがいる。歴代の日本政府、特に外務省、防衛省は、この立場をとってきて、国民はあいまいのままにしてきた。
 世界の多数派が核兵器のない世界を目指す時代になったのだから、核の傘に依存しない日本をどうするのか、議論を深めていかなければならない。
 七人委員会は、発足時から一貫して核兵器と人類は共存できないという立場を貫いてきた。そのためには、世界のいかなる国とも、相互理解を進めなければならず、武力による紛争解決を求めてはいけない。
 侵略はいけないが、防衛力強化は必要だという立場がある。しかし、攻撃力と防衛力は、表裏の関係にある。相互不信、対立の中では、防衛力の強化が、周辺国の軍備拡大につながってきたことを忘れてはいけない。
 今回、韓国のマスコミが、日本の軍事化ではないかととらえて、大きく報道したことを過剰反応だと考えてはいけない。説明して理解を求めるのでなく。原子力基本法改正によって軍事化への途を断ち切ることこそ進むべき道であろう。

変化は起こる

 世界平和アピール七人委員会の初代委員であり、日本で初めてのノーベル賞受賞者であった湯川秀樹は、物理学においても、国際政治においても、予想を超えた変化が起こりうることを確信していた[19]。オバマ大統領は、We shall change. Yes, we can.と呼びかけた。歴史はこの主張を裏付けてきた。
 変化の兆しを見逃すことなく、とらえることができるように準備をしておこう。


文献と参考資料

[1]
「衆議院 第180 回国会 議案の一覧」
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm
の中の「衆法(衆議院議員提出法律案)」→「提出回次180 番号19」

[2]
衆議院と参議院のインターネット中継のサイト:
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php
で、日付と本会議または委員会名を選ぶと、内容全体を視聴できる。発言者名を選んでその部分の頭出しもできる。

[3]
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/180/pdf/t031800111800.pdf

[4]
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm
の中の「衆法(衆議院議員提出法律案)」→「提出回次180 番号10」

[5]
http://www.naiic.jp/

[6]
後になって、情報源は2012年6月17日のテレビと16 日の「しんぶん赤旗」と聞いた。

[7]
http://www.jimin.jp/policy/policy_topics/117093.html

[8]
http://worldpeace7.jp/modules/pico/index.php?content_id=127

[9]
たとえば、『安全保障の今日的課題』人間の安全保障委員会報告書、朝日新聞社、2003 年。

[10]
http://www.thenuclearsecuritysummit.org/eng_main/main.jsp

[11]
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku_secu/2012/communique_ky.html

[12]
衆議院会議録:
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm
の中の「本会議」→「180回(常会)」→「5月29日」

[13]
「しんぶん赤旗」2012年5月30日。

[14]
世界平和アピール七人委員会:
http://worldpeace7.jp/
の中の
http://worldpeace7.jp/modules/pico/index.php?content_id=23
http://worldpeace7.jp/modules/pico/index.php?content_id=26

[15]
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm
の中の「閣法(内閣提出法律案)」→「提出回次180 番号31」

[16]
http://www.world-nuclear.org/info/inf15.html

[17]
一次資料がすぐには見つからないので、その代りに
J・バーンシュタイン著、村岡克紀訳:『プルトニウム この世で最も危険な元素の物語』、産業図書株式会社、2008 年、180-181頁。

[18]
http://japanese.joins.com/article/167/154167.html?servcode=A00§code=A00

[19]
湯川秀樹:「真実」(1941年)、『湯川秀樹著作集6読書と思索』、岩波書店、1989年に所収;「核時代の次に来たるべきもの」(1968年)、『湯川秀樹著作集5 平和への探求』、岩波書店、1989年に所収。


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