2006 88J 米国とインドの原子力協力推進についての要望書

2006年6月21日
アピール第88号J
2006年6月21日
世界平和アピール七人委員会
伏見康治 武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 井上ひさし 池田香代子 小沼通二

内閣総理大臣 小泉純一郎殿

総理は今月末に米国を訪問し、ブッシュ大統領と会談されようとしています。

私たちは、総理のご健闘を期待するとともに、この機会にぜひ次のことを要望したいと思います。それは、今年三月にブッシュ大統領とインドのシン首相との間で出された原子力協力を推進するための共同声明に関し、このたびの会談において、日本も賛同するようにとの要請が米国からあるとの報道がなされているからです。

米印間の原子力協力の内容そのものについてもいくつかの疑義が出されておりますが、ここではそれには触れません。

私たちが問題にするのは、インドが核不拡散条約(NPT)の発足当初から不平等を理由にしてこれに加盟せず、国際世論を無視して核兵器実験をおこない、公然と第六の核兵器保有国になった事実です。

これは、加盟した世界の百八十八か国に対し、忠実に条約の遵守を求めているNPT体制に対する明白な挑戦行為です。それにもかかわらず、NPT加盟国である米国が、インドを対中・対イスラムの同盟国とみなし、有力な原子力市場であるともみなして、インドに対してNPTへの加盟を促すのでなく、核兵器保有国であることを黙認したことは、結果としてNPTの基本的理念に違反する行為といわざるを得ません。

そしてこれは、イランや北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核開発に口実を与えることにもつながりかねません。

被爆国である日本の政府が事あるごとに核兵器の廃絶と不拡散を求めてきたことは私たちもよく承知しています。また例年、日本政府は、国連総会に対して「核兵器完全廃棄への道程」決議を提案し、NPT体制の強化を訴え続けて多くの国々の賛同を得てもいます。

総理は、こうした日本政府の努力に対して国民が大いなる期待を抱いていることを重く受け止められ、たとえ賛同の要請があっても受け入れることなく、米国とインドの原子力協力は、インドのNPTと包括的核実験禁止条約(CTBT)への参加を前提条件とするよう、友好国として米国政府に強く働きかけることを要望致します。