2007 91J 宇宙基本法案の再検討を求めるアピール

2007年11月19日
アピール第91号J
2007年11月19日
世界平和アピール七人委員会
武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 井上ひさし 池田香代子 小沼通二 池内了
名誉委員 伏見康治

 私たち世界平和アピール七人委員会は、去る6月20日に議員立法によって<国会に上程され、9月10日に召集された国会において継続審議になっている「宇宙基本法案」に対して、宇宙を軍事の場とする道を拓く第一歩となる内容を含んでいるという重大な危惧を抱いており、拙速な基本法制定を行うべきではないと考えます。

 人類は、数々の人工衛星や探査機を通じて宇宙の謎に挑み、逆に宇宙から地球を眺めて私たち自身の生き様を省察してきました。宇宙は限りない憧れと自省の場として人々の夢と思索をかき立ててきたのです。他方、残念なことに、宇宙は、安全保障を口実にして、ミサイルや軍事衛星が飛び交う場ともなっています。人類に残されたロマンの対象が軍事的に利用されているのです。

 このようななかで日本は、1969年に衆議院本会議の全会一致の決議によって、宇宙の開発及び利用は、「平和の目的に限り、学術の進歩、国民生活の向上及び社会の福祉をはかり、あわせて産業技術の発展に寄与するとともに、進んで国際協力に資するため」に行うと謳い、参議院においても全会一致で、「平和利用の目的に限りかつ自主・民主・公開・国際協力の原則のもとにこれを行う」と決議し、宇宙を「非軍事」の場としてのみ利用することを誓ってきました。
 これは、「平和的目的のための宇宙空間の探査及び利用の進歩が全人類の共同の利益であることを認識し、宇宙空間の探査及び利用がすべての人民のために、・・・行なわれなければならないことを信じ、・・・協定した」1967年の宇宙条約の基本的精神を諸外国に先駆けて確認した、世界に誇るべき目的と原則でした。

 ところがこのたびの法案提出によって、危機管理・安全保障強調の動きと軌を一にするかのように、「非軍事」をやめて、「宇宙開発は・・・安全保障に資するよう行われなければならない」とする宇宙基本法の制定が進められようとしています。さらに法案では「宇宙開発に関する情報の適切な管理のために必要な施策を講ずる」としております。ここには、公開の原則を捨て去って秘密裏の宇宙開発を進める意図が明白に読み取れます。
これは、自衛隊独自の早期警戒衛星や軍事用通信衛星・電波傍受衛星などの保有・運用を可能とし、自衛の名の下に宇宙開発を「軍事化」に拡大させる危険性をもつものであります。防衛力強化と攻撃力強化は、相互に他方を誘発し合う関係にある表裏一体の軍拡の道であることを忘れてはなりません。
いったんこの動きを認めるなら、さらに、軍事機密を梃子として軍産複合体の成立を促し、国家の動向を誤らせかねない事態へと推移する可能性もあります。
さらに、情報管理の強化は、本基本法案が謳う国際競争力の強化につながる健全な産業の育成に反することになります。

 また、本法案においては、衆議院決議にあった「学術の進歩」の言葉が総則から消え、替わって「我が国の利益の増進」が三度も繰り返し謳われております。これは学術の進歩が開発・利用の基礎であることを忘れ、国家の利益のために宇宙を利用しようとする意図が露わなものであり、日本の品位をおとしめ、諸外国から蔑みをもって見られることは必定です。

 なお本法案は、総則に、「宇宙開発」が23回、「ねばならない」が7回あらわれるなど、内容・表現ともに未熟・稚拙です。

 私たちは、日本が、あくまで「非軍事」の旗を掲げて宇宙の平和利用に徹し、人々に夢とロマンを与え続けることこそが真の平和国家としてとるべき道であると考え、初心に立ち返って1969年の全会一致の国会決議に基づく宇宙基本法制定を目指すことを求めます。